春場所の新番付。稀勢の里はそれを見ながら、しみじみと語りました。
「うれしさ半分。身が引き締まる」。
続いて、思わず漏らした言葉は、
「心から喜べないけど」。
大関は二場所連続で負け越して陥落しても、関脇で二けた、10勝すれば大関に戻れるという保険がかかっている。ところが横綱はケガであろうとなんであろうと、負けてしまえば後がない。引退しかない。その責任の重さは半端ではありません。
先場所は自分が相撲を取って決めたのではなく、支度部屋で受け取った優勝でした。また、横綱昇進の際も二場所連続優勝、もしくはそれに準ずる成績という内規を満たしたわけではありません。新横綱となった今場所、なんとしても優勝することが、横綱になってしかるべきであったというお墨付きを得る最低ラインです。
1場所15日制が定着した昭和24年以降、新横綱で優勝を飾ったのは、大鵬、貴乃花、それから先代師匠の隆の里だけ。亡き恩人に報いるには、やはり優勝の2文字です。「知っています」と話し、「自分を信じてやる」と気合を込めました。
17年ぶりに訪れた4横綱の時代。若貴兄弟に曙、武蔵丸の激突に、中学生だった稀勢の里も胸をときめかせました。「すごいことですね」とクールを装っているのは、プレッシャーに負けてなるかという決意の表れでしょう。
これまで、春場所は入場券販売に苦しんでいました。関西のファンはシビアで、大阪場所部長の貴乃花親方でさえ、吉本興業とコラボレーションをするなど、あの手この手で人気回復に努力しています。それが今回は13日からの前売りが、わずか2時間16分で即日完売してしまいました。昨年は販売2日目で土、日曜日の5日間が売り切れただけですから、いかに稀勢の里への期待が大きいかが伺えます。
稀勢の里にとっても、春場所は初土俵、関取デビュー、新関脇など思い出深い場所です。とはいえ、最もうれしいニュースといえば、所属力士7人の田子の浦部屋に、この春場所から5人の新弟子が加わることです。その内の3人は中学を出て、すぐに入門。稀勢の里と同じ道を歩むわけです。先代鳴門親方は、弟子をとる際、中卒の新弟子を鍛え上げるのが基本方針でした。親方を助けて、後輩を育てるのも新たな役割のひとつです。
振り返れば、稀勢の里は新弟子検査の時、体重などの計量をした各親方が、
「この子は横綱になる。骨格など、見ているだけでそう思う」。
鳴門親方は、
「いい子をとった、とみんなからいわれた」
と語っていたという。
それが意外と苦戦をして、ようやく横綱になった。相撲協会としても万感胸に迫る日本人出身横綱の誕生なのではないでしょうか。
2月28日(火) 高嶋ひでたけのあさラジ!「スポーツ人間模様」