1968/3/30アニメ『巨人の星』の放送開始【大人のMusic Calendar】

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巨人の星-ミュージック・ファイル

1966年から「週刊少年マガジン」で連載が開始された漫画『巨人の星』(原作:梶原一騎、作画:川崎のぼる)。巨人軍の三塁手だった父:星一徹により幼少時から野球の英才教育を受けた少年:星飛雄馬が、青雲高校を経て読売巨人軍に入団し、魔球「大リーグボール」を駆使して様々なライバル達と死闘を繰り広げていく物語。いわゆる「スポ根ブーム」の先駆けとなった不朽の名作である。1958年の長嶋茂雄の巨人軍入団からストーリーは始まり、続編漫画『新巨人の星』では、その長嶋が監督を務める1978年頃までのおよそ20年間が描かれている。ちょうど真ん中の年となる1968年には、よみうりテレビでアニメ化もされている。その第1話「めざせ栄光の星」が放送されたのが1968年3月30日。本日から49年前のことであった。

アニメ『巨人の星』は、『鉄腕アトム』、『鉄人28号』(共に1963)のヒットを受けたアニメ需要の急増により、1964年に新たに興されたアニメ制作会社「東京ムービー」(現:トムス・エンタテインメント)が、『ビッグX』(1964)、『オバケのQ太郎』(1965)、『パーマン』(1967)に続いて制作した作品で、同社初のカラー作品でもある。既に人気のあった漫画のアニメ化とあって、視聴率は常に20%周辺をキープし、1970年1月10日放送の第94話「飛び立つ星」では、最高視聴率36.7%を記録している。最終的には、1971年9月18日までの約3年半に全182話放送という長期の人気につながっていく。

敢えて古臭くしている印象の寮歌風主題歌「ゆけゆけ飛雄馬」(作詞:東京ムービー企画部、作曲:渡辺岳夫、歌:アンサンブル・ボッカ)は、日本のアニメソング史に残る名スタンダードとして有名だが、それら主題歌・挿入歌・劇伴音楽を手掛けたのは作曲:渡辺岳夫。テレビ時代劇『新選組血風録』(1965)、『俺は用心棒』(1967)、『大奥』(1968)などの音楽で定評のあった渡辺だが、飛雄馬がライバル達と球場で対峙するシーンなど、シリアスな展開が続く『巨人の星』にはその作風が見事にマッチした。渡辺は本作でアニメ音楽に本格的に進出し、翌年には『アタックNo.1』(1969)とスポ根作品が続き、やがて、『キューティーハニー』(1973)、『アルプスの少女ハイジ』(1974)、『機動戦士ガンダム』(1979)など、現在でも誰もが知る名作を手掛けるアニメ音楽の名匠として作風を広げていく。その端緒が『巨人の星』であったのだ。

しかし「大人のMusic Calendar」として最も気になるのは、なんといっても物語中盤に登場するアイドル歌手: オーロラ三人娘による劇中歌「クールな恋」(作詞:松島由佳、作曲:村井邦彦)の存在ではないだろうか。宿敵オズマに「野球人形」と揶揄され、普通の若者として青春の姿を取り戻そうとする飛雄馬の前に現れる芸能人:橘ルミ。彼女が所属するアイドルグループが「オーロラ三人娘」だ。メインボーカル担当の橘ルミを演じているのは、声優の増山江威子。後に、あの『ルパン三世』(1977)で峰不二子を演じることになる色気は、「クールな恋」のヴォーカルにも存分に込められている。しかし、アイドル歌手にしては若干微妙な彼女たちの容姿や、「アイラビュ、アイラビュ、ホレバモン(?)」という呪文のような謎のフレーズとともに、当時の子どもたちは、「クールな恋」の異様な迫力に大いにたじろいでしまったのである。しかも、この曲がアニメ『巨人の星』本編で初めて流れたのは、1970年1月10日放送の第94話「飛び立つ星」。そう、あの最高視聴率36.7%を記録した、まさにその日なのだ。

この曲は、そもそもGSバンド「ザ・ゴールデン・カップス」が、1968年9月1日に発売したシングル「愛する君に」のB面曲「クールな恋」が原曲。(「大人のMusic Calendar」2016年9月1日の記事参照)発売から実に1年3ヶ月も経た後に『巨人の星』に登場したことになる。バックトラックの演奏は新たに作り直されており、オリジナルにあったブラスセクションは全カット。ザラついたファズが荒れ狂うギター、ピック弾きの乾いたベース、グルーヴィーなドラムのみというガレージ感満点のバンド演奏 ……むしろオーロラ三人娘版のほうがよほどロックな手触り ……に差し変わっている。また、オーロラ三人娘の「異様さ」を引き立てているのが、橘ルミ以外のメンバー2人による「シャラララ」コーラスだ。カップス版のキーをそのまま使っているため、女声にはかなりムリのある音域になり、素っ頓狂な奇声のようになってしまっている。この2人のメンバーには役名がない上に、飛雄馬とそれなりの仲になるルミとは対照的に、1人は左門豊作をあてがわれ、1人は花形満にフラれ、しかもステージ上には彼女達のためのマイクすら立っていないという冷遇っぷり。あの金切り声は、そこから来るストレスが真の原因なのではないだろうか……。

「クールな恋」初登場の一つ前の第93話には、飛雄馬とルミがしけこむ芸能人専用の会員制ゴーゴークラブで、また翌週の第95話にはカーラジオから流れる曲として、ゴールデン・カップスのA面曲「愛する君に」もオリジナルのまま劇中に流れるというボーナストラックのようなシーンも隠れていたりする。尾崎紀世彦が在籍したコーラスグループ:ザ・ワンダースが「ジ・エコーズ」の変名でレコーディングした挿入歌「友情の虹」や、劇中で聴ける応援歌「青雲健児の歌」「紅洋の旗」なども含め、『巨人の星』は「かくれGS歌謡アニメ」の様相も呈しているのだ。また、採用になった寮歌風の「ゆけゆけ飛雄馬」とは全く雰囲気の異なる演歌風の没主題歌や、さらにタイトルや詞も違う「めざせ巨人の星」「レッツゴー飛雄馬」などと仮題された検討用主題歌案の存在も明らかになっている。『巨人の星』が駆け抜けた東京オリンピックの60年代から大阪万博の70年代は、そのまま日本のポピュラーミュージックの転換期でもある。その音楽の中に、様式の混沌や時代のジャンプを含んだ様々な試行錯誤が見られるのも、とても興味深い。

巨人の星コンプリートBOX-Vol.1

巨人の星コンプリートBOX-Vol.2

巨人の星コンプリートBOX-Vol.3

【執筆者】不破了三(ふわ・りょうぞう):音楽ライター 、 CD企画・構成、音楽家インタビュー 、エレベーター奏法継承指弾きベーシスト。10/5発売CD「水木一郎 レア・グルーヴ・トラックス」選曲原案およびインタビューを担当。

ミュージックカレンダー,ニッポン放送,しゃベル

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