超純粋美少女「栗田ひろみ」還暦を迎える

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【大人のMusic Calendar】

本日9月2日は、栗田ひろみの誕生日。あの超純粋美少女が、今日「還暦」という二文字に直面するなんてと、幻想が砕け散る方もいらっしゃるかもしれませんが、それが人生というものです。しかももうお孫さんがいらっしゃるとは。いいお子様に育っていただきたいものです。なので、あまりご本人様を妙に刺激することは書きたくありません…

しかし、筆者はすでにデビューして2回目のコラムで、栗田ひろみについてわずか3行のみですが書かせてもらっています。風吹ジュンに関して規定文字数を埋める自信がなかったので(何せ2回目ですからね)、当時の他の純情派アイドル数名にも共に登場していただくことに、勝手に決めたのです。その後、コロムビアのコンピに麻田奈美の全音源を収録したという重責にも後押しされて、今度は栗田ひろみを主役に再登板となりました。

当時普通の高校生だった栗田ひろみが、突如オーバーグラウンドに浮上したのは1972年のこと。あの大島渚監督に見初められ、映画『夏の妹』のヒロインとしてデビュー。返還直後の沖縄を舞台に、その名の通り無垢そのものの少女「素直子」の青春がつづられる。そこから戦後沖縄の辿った複雑な道が浮かび上がるという、今見返してみると絶対複雑な感情が渦巻くに違いないストーリーである。1970年代初頭の、この手の社会派青春ロードムービーが語りかける世界は、今こそ振り返っておかねばと思う。『旅の重さ』とか、『16才の戦争』とか。

超純粋美少女「栗田ひろみ」還暦を迎える

それから約半年後の73年3月、彼女にとって出世作となった『放課後』が公開され、井上陽水が歌う主題歌「夢の中へ」のヒットと並行して、彼女の大躍進が始まる。と言っても、映画の中のヒロインと同様、栗田ひろみは控え目で恥ずかしがり屋さんの少女だった。そんな彼女に、世の若者たちは一気に飛びつく。

当然、レコード業界も黙ってはいない(ここからやっと本題です、はい)。ワーナーから歌手としてのデビュー曲「太陽のくちづけ」が発表されたのは、73年2月10日のこと。この時はまだ「放課後」での大ブレイクは予期できてなかったに違いない。レコード会社側も、精々小柳ルミ子、アグネス・チャンに続くヤングポップス路線の一人としてしか位置づけしていなかったはず。ましてや、浅田美代子の「赤い風船」は4月の発売だ。「浅田美代子が売れたから、ひろみも大丈夫」というスタンスを彼女のスタッフがとった結果では絶対ない。

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当時のトップアイドルの一人、天地真理の一連のヒット曲で勢いに乗る森田公一を作曲家に起用した「太陽のくちづけ」は、オリコン45位に達するヒットを記録。この曲で聴かれる彼女の歌唱には、73年でしか成し得ない甘酸っぱさが充満している。商店街のスピーカーから流れようものなら、即時卒倒しそう。でも、当時レコードを買った者たちは、こっそりターンテーブルに乗せながら、束の間の幻想を味わったに違いない。そう、まさに「歌うピンナップ」そのものである。

超純粋美少女「栗田ひろみ」還暦を迎える

“その後、「初恋の散歩道」(オリコン88位)、「愛の奏鳴曲」(チャートインせず)と、シングル2枚のリリースが続いたが、レコード上に残された彼女の真骨頂は、なんと言っても唯一のアルバム『太陽と海とオレンジ』だ。何せ、急激に人気が盛り上がった最中での制作だったため、デビューシングルのAB面以外は、全てカバー曲により構成されている。同時期のアイドルのヒット曲(「17才」「水色の恋」)とか、オールディーズ(「パイナップル・プリンセス」「そよ風にのって」)とか。しかし、山口百恵ですら、初期のアルバムはそんな内容だった。

十分に歌い慣れる時間を作らぬままレコーディングに臨んだと思しいだけに、シングル曲で免疫ができたファンでさえ、この12曲を走破するのは試練だったに違いない。しかも、これも当時のアイドルのアルバムの必修手段=モノローグが、ラスト3曲の「インストカバー」をBGMにする形でここぞとばかり展開され、よりタフな忍耐力を要求してくる。曲間のやや強引な効果音の挿入も、いかにも「コンセプトアルバム」流行時代の産物という感じだ。ラストシングルとなった「愛の奏鳴曲」では、当時のアイドルのシングルとしては異例の4分52秒という長さの中に、このアルバムの美学をうまく凝縮しているのだが、それでもトゥー・マッチという感が。”

超純粋美少女「栗田ひろみ」還暦を迎える

74年以降は役者としての活動に専念しつつ、80年に結婚し、そのまま幻想の中に引っ込んでしまった栗田ひろみ。それでよかったのだ。歳を重ねてから、幻想をぶっ壊すような行動をしないこと、それこそがアイドルの鑑。といえども、97年に『太陽と海とオレンジ』が紙ジャケ仕様で再発されたり、主演映画がDVD化されたり、その都度当時を知らない新しいファンを甘酸っぱい世界へと誘い続けているのだから、レコード会社や映画会社には素直に感謝しましょう。

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写真提供:鈴木啓之、丸芽志悟

【著者】丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。 5月24日、初監修コンピレーションアルバム『コロムビア・ガールズ伝説』(3タイトル)が発売された。
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