レジェンド、野村克也さんがよく口にするのは、
「優勝するチームは、いい捕手がいる」。
優勝マジックが、「12」のソフトバンクには不動の正捕手がいません。しかし、甲斐の活躍なしに今シーズンは語れないでしょう。体は小さいものの、とにかく素晴らしい。経歴もまた、目を引きます。
2010年の育成ドラフト6位。この年は、同じ育成4位でWBC日本代表まで駆け上がった千賀もいる。1軍ベンチに育成経験選手が4人も。埋もれている逸材を見逃さない。本当にしっかりした球団だと感じます。甲斐がラッキーだったのは、入団の翌年から3軍制がスタートしたことでしょう。巨人も導入しているものの、ソフトバンクほどの効果が表れてはいない。
球場などの施設が充実している他に、年間70-80試合を行っています。
「練習ばかりではなく、実戦がたくさんあるのはありがたい。素晴らしい球場など、1軍で活躍できたのはそこがポイントだと思う」
と甲斐は分析。そうはいっても3軍時代、それはもう、厳しい毎日でした。育成選手の背番号は3ケタ。コーチからは、
「3ケタはホークスのユニホームではない。プロの選手でもない」
などと、遠慮なしに指摘を受けたそうです。
その言葉を聞くたびに、
「今に見ていろ、という気持ちが沸き上がった」
と言います。帽子の裏には、マジックで『人はヒト』と書いてあり、使用するミットへも、刺繍で同じ言葉が。
「指名順位も低く、背も低い。そんな選手がどこまで通用するか、皆さんに見てもらいたかった」
と振り返ります。
今季はプロ7年目。ベテランの細川が昨オフ、自由契約となって楽天へ。その1枠を目指し、今春のキャンプでは4人を競わせた。結果は甲斐が1軍切符を。ちなみに、他の3選手の中には、10年のドラフト1位で指名された(山下)斐紹(※あやつぐ。登録名は名前だけです)もいました。まさに下剋上です。
特に良かったのは、今季から加入した達川ヘッドコーチに気に入れられたことでした。
「心は熱く、頭は冷静に行こう」
と甲斐はよく言われています。開幕3試合目で待望のスタメン起用。コーチになって、初めて胃が痛かったと達川ヘッドは漏らしています。技術以外に、なぜ、甲斐が目を引いたのでしょう。
「試合開始前、必ず素手でホームベースをきれいにする。おれはそれを見た時、感動した」。
7月、楽天戦の仙台遠征では野村さんと初対面します。達川ヘッドとともに、挨拶へ出向いた。達川に「何か教えていただけ」と甲斐に水を向けられると、
「野村さんの本をたくさん読んでいます」。
このひとことでハートをつかみ、野村さんから即座に捕手の心得3カ条をいただいた。①「困ったら、外角低め」 ②「キャッチャーは、観察、洞察、判断」 ③「右目でボールを見て、左目はバッターの仕草を盗め」 以来、この3つの教えを忠実に実践中です。
その結果が12球団ナンバーワンの盗塁阻止率に表れます。2塁までの送球が1.7秒。これは、とんでもないタイムだとか。
「捕球した瞬間、左足を出す。このクセをつけるのも大変でした。考えるのは野球のことばかり。寝る時間だって惜しいぐらいです」。
叩き上げでのし上がった甲斐は、常勝のエリート集団だけに、ひと際輝いている。努力はうそをつきません。
9月5日(火) 高嶋ひでたけのあさラジ!「スポーツ人間模様」