【大人のMusic Calendar】
1962年10月といえば、英国ではビートルズがシングル「ラヴ・ミー・ドゥ」でレコード・デビューを果たし、米国ではビーチ・ボーイズがファースト・アルバム『サーフィン・サファリ』をリリースした記念すべき「始まり」の月だ。そして、日本ではこの月の19日、のちの日本文化史に大きな足跡を残す団体が発足した。漫画家・吉田竜夫により設立された「竜の子プロダクション」である。のちに「タツノコプロ」として親しまれ、2013年からは正式にその名称へと商号を変更しているアニメ制作会社だ。
今年はタツノコプロ設立55周年ということで、大々的プロモーションキャンペーンが打たれ、東武鉄道がかつての名キャラクターをフィーチャーしたラッピング電車を走らせたり、音楽的なところでは初期の代表作「ハクション大魔王」と「昆虫物語 みなしごハッチ」の主題歌が、なんと7インチシングル盤として限定リイシューされたりという楽しい事態が展開されている。アニメ、というよりテレビまんがの主題歌のレコードは、嗜好品というより元から玩具のような扱いを受けてしまったせいで、美品として現存していれば奇跡という現状のため、この復活劇は当時のカジュアルなファンから若いユーザーに至るまで、大きな反響を巻き起こしているのだ。
そんなわけで、どっぱまり世代である割にテレビまんがに関してはそこまでディープに突っ込めない筆者としては、音楽を軸にほんのりと印象記を書いていくに止めておきたい。それにしても55周年とは。「マッハGoGoGo」に因んだ故かと思われるが、微笑ましい盛り上がりぶりである。
1962年といえば、日本のアニメ文化の火付け役「鉄腕アトム」の放映開始を翌年1月に控え、静かに激震に備えていたという時期で、タツノコプロもアニメ制作会社としてではなく、吉田の作品版権の管理やマネージメントを行う個人的な機構としてスタートしたわけである。やがて「鉄腕アトム」「鉄人28号」の大ヒットでアニメ文化が花開き、タツノコプロは本格的にプロダクション業務へと進出。紆余曲折を経て、67年放映開始された「マッハGoGoGo」が大成功。アニメとカーレースの本場アメリカにも輸出され「Speed Racer」として大ヒットを記録した。米国版の主題歌は基本的に日本オリジナルのそれに英語の歌詞を乗せたもので、96年にリリースされた、かつての米国アニメ主題歌をそれらを見て育った若い世代のバンドがカバーしたアルバム『サタデー・モーニング』では、グランジ・バンド、スポンジが取り上げている。ちなみに同アルバムでは米国版「鉄人28号」(「Gigantor」)のために現地で書き下ろされた主題歌をヘルメットが取り上げ、大御所ラモーンズは「スパイダーマン」を歌唱した。
その後のヒット作、先に挙げたアナログリイシューされた2作にせよ、天童よしみの出世作となった「大ちゃん数え唄」をフィーチャーした「いなかっぺ大将」にせよ、とにかくインパクトの強い主題歌はタツノコ作品の持ち味の一つ。子門真人の熱唱が強烈に脳裏に刷り込まれる「科学忍者隊ガッチャマン」はその極致だろう。そして、ヒーローもの・ギャグものという両極端が絶妙にブレンドされ、第2期タツノコ黄金時代のシンボル的作品となった「タイムボカン」は75年にスタート。その後も「タイムボカンシリーズ」として親しまれる名作群を、83年に至るまで世に送った。タツノコサウンドを象徴する人物を一人挙げよと言われたら、筆者としてはこのタイムボカンシリーズの主題歌をほぼ一手に手がけた、山本正之一択となる。
前年、瓢箪から駒のようなきっかけで手がけた中日ドラゴンズの応援歌「燃えよドラゴンズ!」が、優勝フィーバーに乗って大ヒット。75年には間寛平「ひらけ! チューリップ」、笑福亭鶴光「うぐいすだにミュージックホール」が相次いで大ヒットし、ギャグソングの天才という称号を欲しいままにした山本はまさにこのシリーズの音楽にうってつけの存在。毒を効かせつつ、口ずさみやすいポップな要素を全面に出した主題歌の数々は、当時のキッズたちを虜にした。アレンジや劇伴作曲を手がけた武市昌久、神保正明の功績も見逃せなく、彼らの歌謡曲仕事も押さえておいて損はしない。特に山本-武市コンビの才気が炸裂しまくる兼田みえ子のセカンドアルバム『水鏡』(76年、東宝)は復刻が望まれる。
近年のタツノコプロは、かつての人気キャラクターに新たな価値感を与えるリメイク作品や実写版映画の制作に関わる一方、「新世紀エヴァンゲリオン」の制作アシストを筆頭に、現在のアニメシーン隆盛に於いても大きな役割を担い、決して勢いを緩めようとしていない。
子供心に、テレビまんがのオープニングクレジットを見ていて芽生える、「タイトルの下に丸Cマークと共に表示されるなんだかよくわからない団体の名前は何?」という疑問。プロデューサーなり制作会社なりといった、縁の下の力持ち的存在へと向かう興味の出発地点は、紛れもなくそれだ。音楽にしたって映画にしたって同じ。いい時代に育ったんだなぁと、つくづく思う。
【著者】丸芽志悟 (まるめ・しご) : 丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。 10月25日に監修コンピレーションアルバム『コロムビア・ガールズ伝説』シーズン2(2タイトル)が発売される。