11/24(金)FM93AM1242ニッポン放送『宮家邦彦のあさラジ！』今日の聴きどころ！③

これから先、何が起きてもおかしくない
7：10～やじうまニュースネットワーク

板門店で韓国に亡命しようとする北朝鮮の兵士（国連軍司令部提供）AFP写真/国連軍（UNC）2017年11月22日　写真提供：時事通信

北朝鮮が南北境界線の共同警備地域の兵士を一斉に交代

北朝鮮の男性軍人が、南北境界線のある板門店（パンムンジョム）で、今月13日に韓国へ亡命した後、「共同警備区域の警備にあたる兵士たちを、北朝鮮が一斉に交代させた」と、韓国メディアが伝えました。交代の対象は、35～40人程で、亡命を阻止できなかった責任を問われたものと見られます。

森田解説委員）韓国の聯合ニュースによると、板門店で共同警備区域(JSA)の警備にあたっていた兵士35～40人程が、一斉に交代をさせられた。亡命を阻止できなかった責任を取らされたと見られています。また、軍人が亡命の際に車で通過した橋も閉鎖し、通行を制限する門を設置する動きも見られる、と報道しています。
亡命した軍人は24歳ですが、所属は「共同警備区域（JSA）の警備部隊を、後方から支援する部隊だった」と伝わっています。監視カメラ等の映像だと、駆けつけた北朝鮮の兵士が、至近距離から銃撃しており、韓国メディアからは「奇跡の脱出」とも伝えられていますが、この亡命をどうご覧になりますか？

宮家）まず交代させられてしまった人たちですけど、彼らもあそこ（板門店）にいるくらいだから、エリートだと思うのですよ。それで、ビデオを見た限り、転んでいる警備兵もいました。あれじゃあ、やはりダメですね。このまま交代させられて、「消えちゃう」かもしれない。

森田）交代だけでは、済まないのですか？

宮家）済まないと思います。しかし、この問題はやはり「北朝鮮は上手く行っていない。末端の方でも、不満があるのだな」と。あの兵士は、恐らく、ある程度のエリートでしょう。車の運転手とも言われている。やはり逃げなきゃいけないような状況まで追いつめられていたんだろうな、と思うと、これは何か違う動きが始まっているのかな、と心配になります。これから何が起きてもおかしくないことを考えると、やはり日本も少し真剣に考えなければいけないことが、出てくるのではないでしょうか。

政治　北朝鮮が再度、米国からのテロ支援国家指定を受け、記者団の問いかけに答える安倍晋三首相＝2017年11月21日午前、東京・首相官邸　写真提供：産経新聞社

日本政府が有事に備え、韓国在住日本人の避難計画作成を決定

森田）日本政府は、朝鮮半島有事に備えて、韓国にいる日本人の退避計画をつくるという方針を決めました。韓国にいる日本人は大体3万8,000人で、旅行者込みだと6万人という推計もあり、大半がソウルやその周辺に住んでいるのですが、この退避計画の原案を見ると、朝鮮情勢が悪化した段階で、外務省が民間機やチャーター機での迅速な出国を促す。それ以外の日本人は釜山に移動させ、最も近い長崎県の対馬経由で輸送することを検討している。釜山と対馬を結ぶ、民間の高速船を借り上げる他、対馬から日本海側や九州地方の空港に、自衛隊のヘリで運ぶことも想定している。こういう計画の、具体的な話を進めているようです。

宮家）大変けっこうなことだと思います。だけど、実際に有事が起きたら、まずみんながパニックになるし、日本人以外の大勢の外国人や、ソウル市民も避難します。ということは、「そんな風に上手く移動できるのか？」、「船が確保できるのか？」が危惧されます。
そして、日本の場合、自衛隊は恐らく使えない。すると民間機になるのですが、日本は労働組合があるから、厳しいかもしれません。昔、湾岸戦争があったとき、日本がサウジアラビアへ少し支援をしなければいけないときに、日本のチャーター機でいろいろ送ろうとしたら、日本の航空会社は、みんな「ノー」でした。だから、実際に「民間機で行く」としても、「日本の飛行機会社は本当に行ってくれるのか？」、そうしたことを考えると、そんなに簡単ではない。
そうすると、最後には米軍頼みになってしまうかもしれないけれど、米軍にも他に同盟国があるわけですから。日本だけを運ぶわけにもいかない。なので、やはり相当の混乱が起こることを前提として、かなり周到な準備をしておかないと、計画通りにいくとは思えません。

ボートで上陸後、銃を構える陸上自衛隊普通科連隊の隊員＝2017年11月12日午後、静岡県の沼津海浜訓練場　写真提供：産経新聞社

北朝鮮への「避難計画」と「奇襲攻撃」を両立させるのは極めて困難である

森田）それから、日本政府の中には、「たとえばアメリカが北朝鮮に攻撃をする場合には、恐らく事前に動きを察知されないように、奇襲攻撃をするのではないか。すると、退避計画も、逃げ遅れてしまうのでは？」ということも、考えられているわけですよね。

宮家）まず、奇襲攻撃かどうかは分からないけれど、実は「自衛権の行使」としての先制攻撃には「先制攻撃」と「予防攻撃」の2種類があるのです。北朝鮮が攻めてきて、普通に反撃すれば、これは普通の「自衛攻撃」です。だけど、そうではなく、「北朝鮮はまだ何もしていないけれど、時間の問題で、すぐにでもやりそう」というとき、こちらから自衛権を行使して、結果として先手になる場合は「先制攻撃」はあり得る。それを“奇襲”と仰っているのでしょう。
だけど、「北朝鮮は攻めてこないし、兆候もないけれど、核兵器をつくっているのは悪い。やってしまえ」。これは「予防攻撃」と言うのだけど、これはなかなか難しいと思います。その前提で、「奇襲攻撃」をもし、やろうとすれば、それは秘密でやらなければいけないことになる。すると、パニックになる。だけど、もし奇襲攻撃を実行する場合、少なくとも日本からやる場合、事前協議の対象になるのですよ。そういうことも考えると、簡単に行えないし、事前に「これからやります、よろしく」と言われたら、みんなが一斉に動き始めるから、1つの国だけで済むはずがない。ですから、非常に難しいオペレーションになると思います。

【平昌五輪まで一年スケッチ】平昌五輪アルペン競技等が行われる龍平リゾートでは多くのスキーヤーで賑わう＝2017年2月8日韓国・平昌　写真提供：産経新聞社

韓国にとってオリンピック開催を考慮しての合同軍事訓練中止はハイリスク

森田）それから韓国の方では来年2～3月に平昌オリンピックが開かれますが、その期間中に「アメリカ軍と韓国軍による、合同軍事訓練を行わない」案を検討しているそうです。

宮家）毎年、あの頃やるのですが、確かに、オリンピックがあるからやらないのか、延期なのか……だけど、あまり間違ったメッセージを送ってもいけないですよね。「だったら、オリンピック中に攻撃してしまえばいい」となりかねないから、その意味では、私はオリンピックだからといって、特別扱いをするのは、むしろ逆効果になることもあり得る。やはり、ちゃんと守らなければいけないと思います。

森田）ただ、文在寅政権としては、トランプさんが北朝鮮をテロ支援国家に再び指定して、これでまた緊張が高まるのでは、と相当警戒しているようですけどね。

宮家）だけど、仮にまた再指定をしても、内容的には経済制裁しかできないわけです。いままでも十分、経済制裁はやっているから、これを機に、恐らく中国企業に対する、制裁が厳しくなる可能性はあります。これは確かに、米朝関係の問題かもしれないけれど、同時に米中関係でもあるのです。その意味では、今回トランプさんが行った、再指定をしたうえで、中国企業に対する制裁は、「中国、ちゃんとやれ」というメッセージでもある。逆に言うと、その大きな流れの中で、まだ1つの段階でしかなく、これですぐに危なくなる、というのは私はないと思います。
もっと厳しいことを、ニューヨークタイムズとかには書いてあって、「緊急の国防費増額を議会で議論しているけれど、早い段階で、ブースト・フェイズ（発射してまだゆっくり上がっている間）に迎撃してしまえ」という説もあるし、それから「無人機を飛ばしてレーザーでやる」とか、いろいろな説があるわけですよ。もちろん、技術的には、まだすべてができるわけではないけれど、そのような形で、さらに厳しい、軍事制裁ではないけれど、経済制裁以上のものをアメリカが考えているのは間違いないと思います。その意味では、まだ始まったばかりで、紆余曲折あると思います。

会談に臨み、安倍晋三首相（右）と握手する中国共産党の宋濤中央対外連絡部長＝2017年8月8日午後、首相官邸　写真提供：産経新聞社

本気で北朝鮮が行動することは、誤算が無い限りはあり得ない

森田）この間、中国の幹部の宋濤さんが北朝鮮へ行きましたけど、金正恩さんには会えなかったとか。

宮家）会えないでしょう、レベルが低いもの。

森田）あれが、やはりアメリカがテロ支援国家指定のきっかけになったのでしょうか。

宮家）まあ、結局、中国はアメリカに言われたからやらざるを得ない。だけど、北朝鮮が言うことを聞かないのは分かっていますから、中国の影響力にも限りがある、というのもその通りです。だから、やはり5年前は、25人いる政治局員の、それなりにハイレベルな1人を送っていたのですが、今回は、204人いる中央委員の1人でしかない。「中連部」といって、党の対外連絡部ですが、このレベルだったら金正恩さんは会いませんよ。

森田）「閣僚級」と言ってましたけどね。

宮家）閣僚級と言っても、大勢いますから。やはり政治局員25人に入るか入らないかは、まったく格が違うのですよ。ですから、北朝鮮が会わなければ、中国はメンツが潰れますが、アメリカとの関係はどうするのか。アメリカが怒ったから、テロ支援国家リストに載せた、ということですよ。

森田）この後、北朝鮮が年末から、それこそオリンピック前までに「挑発があるのでは」と言われてますけどね。

宮家）本気でやった途端に、北朝鮮は終わりますからね。そのようなことは、誤算がない限りはないと思います。

高嶋ひでたけのあさラジ！
FM93AM1242ニッポン放送 月～金 6:00～8:00