ドS看守役で話題の声優・山谷祥生が落語挑戦!人気の「声優×落語」イベントをレポート

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アニメ『昭和元禄落語心中』をきっかけに生まれた『声優落語天狗連』は、アニメ×落語をコンセプトに声優が落語に挑戦する「声優落語チャレンジ」と、プロの落語家による“本物の落語”が生体験できるイベントだ。2018年4月1日(日)、本イベントではもうおなじみとなっている演芸の聖地、浅草・東洋館で行われた「第十五回」の模様を振り返る。

まずはおなじみ、サンキュータツオと吉田アナのトークから

いつものようにMCのふたり――ニッポン放送アナウンサー・吉田尚記と、お笑いコンビ「米粒写経」のメンバーで国語学者として大学講師も務めているサンキュータツオの軽妙なトークからイベントはスタート。前回は、タツオがサブカル項目の執筆者として名を連ねている『広辞苑 第七版』の裏話で盛り上がったが、今回も、この日の昼間、埼玉の図書館で講演をしてきたというタツオの辞典トークから話が始まる。

タツオによれば、国語辞典は同じ項目を違う出版社の辞典で引き比べたり、同じ辞書でも違う版を調べたりすると大層面白いそうだ。例えば「林檎」で比較すると、俳句を詠む人が季語として林檎を使うことを想定して、岩波書店の国語辞典には収穫時期が掲載されているし、大修館書店の明鏡国語辞典は、林檎の主な品種や林檎を使った食品にも言及しているそう。それぞれの編集方針の違いにより、表現が違うのだそうだ。さらに、引いて面白いのは「丘/岡」と「山」のように、確固とした違いが表現しにくいもの。三省堂の新明解国語辞典で「丘/岡」を引くと、「威圧感がなく、散歩がてら登ることができる地面が隆起した土地」と書かれているとタツオが言うと、会場は大爆笑。「じゃあ、山は威圧感がある?」と吉田アナが問うと、「日本には山岳信仰があるので、山と丘の違いは神がいるかいないか。山にはこもるけど、丘にはこもらない。丘にこもるのは『ゆるキャン△』だけ!(笑)」とタツオが説明すると、「あぁ~!」と客席からも納得の声が湧いていた。

ドS看守役で話題の声優・山谷祥生が落語挑戦!人気の「声優×落語」イベントをレポート

そして吉田アナから、クイズを題材にアニメも人気となった、5月上演の舞台『ナナマルサンバツ』に42歳にして高校生役で出演することや『ミュージカル刀剣乱舞ラジオ』への出演が報告され、アニメにまつわるトークが炸裂。この日、落語にチャレンジする声優・山谷祥生が“ドS看守”を演じているアニメ『甘い懲罰~私は看守専用ペット』の話題も登場。今日、山谷が口演する落語が「初天神」で、山谷の後に口演するプロの落語家・入船亭扇里師匠の演目が両方とも“子供”をテーマにしていることを紹介する。

「初天神」はアニメ『昭和元禄落語心中』でも演じられているスタンダードな古典落語。本イベントの「第十回」では春風亭昇々が、吉田アナ&タツオいわく“ひとり『ポプテピピック』”な破天荒な口演をしたことでも記憶に残っている演目だ。それを山谷がどう演じるかが楽しみだ。そして入船亭扇里師匠は、史上最高に落語家の数が多い現代において、「入船亭は、大手サークルが柳家だとしたら、都産貿(東京都立産業貿易センター)に出てるオンリーサークル」だとタツオ。守っていかなければならない愛すべき一門なのだと説明する。落語家は人を一生懸命笑わせる仕事だが、入船亭イズムは「笑わせる気がゼロ(笑)。落語は1ヵ所ウケればいいという、故・入船亭扇橋師匠の教えを守っている。今までにないパターン」なのだそうだ。

そして、「そんな方が出てくる前に、皆さんは“ドS看守”の〈初天神〉を観るわけですね!」と吉田アナが言い、「今まで山谷くんにはサイコパス説が流れていたんですが(笑)、これを観ればすごくちゃんとした人だというのがわかります」と、稽古番・立川志ら乃師匠の指導で山谷が約4週間にわたって行った稽古風景のダイジェスト動画が上映された。言葉に詰まり、緊張感漂う生真面目な山谷の様子に、「不安になるな~~!」と声を挙げるタツオ。「このイベントでは、志ら乃師匠の様子でその人のクセがわかる」というMC陣は、「今回は、完全に真面目な人に対する指導だった」と感想を述べ、山谷の「声優落語チャレンジ」へとバトンを繋いだ。

細身を和装に包んだ声優・山谷祥生が高座へ

吉田アナが「和服姿が、本職の寄席の前座さんにしか見えない」と形容していた山谷は、「あんたがたどこさ」の出囃子にのり、大きな拍手のなか颯爽と高座へ。客席を大きく見渡して、「今回の噺には、残念ながらドS看守は出てきません!」と大笑いを取りながら、「初天神」を話し出す。「初天神」は、古典落語のスタンダード中のスタンダードともいえる楽しい演目。天満宮の参拝にイヤイヤ息子を連れて行く父親が、アレが欲しいコレが欲しいと駄々をこねる息子に翻弄される。明るく要領のいい息子と、息子のムチャブリに振り回される父親を演じる山谷は、稽古ムービーで漂わせていた緊張感など、みじんも感じさせない元気ぶり。凧揚げがしたいと甘える息子に仕方なく付き合っていた負けず嫌いの父親が、最後は子供そっちのけで「ガキの遊びじゃねえんだよ!!」と喧嘩凧に夢中になる様子を、着物をはだけながら熱演し、大爆笑を誘った。

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「いやー、すごい!」と称賛の声でタツオと吉田アナが山谷を迎えると、「ふ~!! 緊張した! 死にそう!」と上気した顔の山谷。じつは前半、一言ほど台詞が抜けて焦ったそうだが、志ら乃師匠に教わったとおり、不安な顔を見せずに楽しく演じることを心掛けたそうで、「まったく気づかなかった」とMC陣も感心。稽古のときは志ら乃師匠が淡々と山谷の噺を聞いていたので、「皆さんが笑ってくれて、すごくやりやすかったです」と笑顔を見せる。「めちゃめちゃ練習しました」という山谷は、最初は、初めての落語にどうアプローチしていいか見当がつかず、志ら乃師匠のお手本動画を丸暗記していったが、一節間違えるとテンパってしまい、「何を伝えたいのか、自分が感じたとおりやればいいと言われ、型よりも気持ちが大事だと理解した」そうだ。

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ここで、稽古番の志ら乃師匠も合流。稽古を振り返って「自分の枠から一歩出るのが苦手だとわかっている人だから、あなたが思う失敗は、世の中では失敗じゃない」と言い、「まず自分が楽しいと思うことをお届けするのが大事。(声優は)ディレクターの指示に合わせ対応できる職人。それを落語に持ち込むと上手くいかないと、すごく感じた」と山谷に改めて語りかけていた。そこからトークは、山谷が稽古で一番苦労していたという、父親が凧を揚げる場面の話に。凧を揚げるときの擬音を、志ら乃師匠が教えてもいない「べーッ!!」とオリジナルで表現した様子を見て、「自分から発信し始めたから、これはイケると思った」そうだ。そんななか、おろおろしながらしゃべる山谷に、MC陣と志ら乃師匠はツッコみっぱなしで、笑いが絶えず。山谷も様々な苦労を乗り越えて舞台度胸を発揮した落語デビュー戦を、「いい経験でした!」と晴れやかな顔で振り返った。

本家の落語家・入船亭扇里師匠の「叩き蟹」に、よっぴーも驚愕

そしてイベントはいよいよ、入船亭扇里師匠の高座へ。「目先の笑いに走らない扇里師匠の真似は、怖くてできない。様々な情景を想像しながら聞くことで、落語にはいろいろなタイプがいるとわかってもらえるはず。今日は寄席でもなかなか聞けない、貴重な噺をやっていただきます」とタツオが解説し、扇里師匠が登場する。

師匠・扇橋より受け継いだ「俄獅子」の出囃子で高座に上がった扇里師匠。ゆったりとした口調で山谷の口演を「達者でした。想像以上でしたね。年が若くて、顔が良くて、声が良くて、おまけに落語までやりやがる。私からしたら、絞め殺したい」と愛ある毒舌で笑いを誘う。そして、自分が19歳で落語家を志し、扇橋の弟子になりたいと浅草演芸ホールの当時の支配人に相談したという若き日のエピソードをマクラに始まったのは「叩き蟹」だ。

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「叩き蟹」は、「竹の水仙」や「ねずみ」のように伝説(架空)の彫刻名人・左甚五郎の奇跡の逸話を描いた“甚五郎物”の1作。江戸・日本橋の「黄金餅」が名物の餅屋で、病気の親に食べさせたいと餅を盗んだ子供を哀れんだ旅の男が、餅代を肩代わりしようとするが、財布がない。その代わりに木で蟹を彫り、名も告げず立ち去ったのだが……じつはその蟹、甲羅を叩くと、まるで生きているかのように這い回る。それが評判となり、餅屋は大繁盛。3年後、餅代を返しに蟹を彫った旅人が店を訪れると、あのとき助けた子供は店主の情けで餅屋に奉公しており、旅人を左甚五郎だと見破るのだった――。「情けは人のためならず」のことわざをモチーフにしたこの噺は、講釈、浪曲をもとに三遊亭圓窓が落語にし、兄弟子の入船亭扇治師匠が圓窓師匠から教わり、それが扇里師匠に伝えられたそうだ。

扇里師匠の「叩き蟹」は、古き良き江戸の風景と人情の温かさをありありと感じさせる、穏やかな語り口が魅力だ。餅屋の店主、甚五郎、いたいけな子供の会話を、ゆったりとした間合いで格調高く聞かせてくれる。情に厚い甚五郎と登場人物たちの泰然としたやりとりに自然と笑いがこみ上げ、最後に「ああ、いい噺を聞いた」という満足感がじわりと湧き上がってくる。途中、蟹が横歩きをする様子を、先ほどさんざん話題になった「ベーッ!!」と表現した扇里師匠のアドリブにも、大きな笑いが巻き起こっていた。

口演後、扇里師匠は「気持ちがいいですね。お客さんの年齢層が下(浅草演芸ホール)の半分くらい。こんなにじっくり聞いてもらえて、やりがいがありました。でも……今日は結構間違いました(笑)。でも気持ちよくやらせてもらいました」とコメント。そこからトークは、先ほどマクラでも触れられていた扇里師匠の入門当初の話に。扇里師匠は、浅草演芸ホールで師匠・扇橋の落語を聞いた翌日、木戸口で扇橋師匠をつかまえて「弟子にしてください」と直談判。2年半ほど前に亡くなられた扇橋師匠は、当時、すでに老齢に差し掛かっていたため、弟子を取るつもりはなかったそうなのだが、断られてもしつこく通い続けた扇里師匠に根負けし、奇跡的に入門を果たせたのだとか。

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素人時代は、他にも派手な活躍をするポップな落語家はたくさんいたが、「うちの師匠が聞いていて一番気持ちが良かった。ああいうおじいちゃんになりたかった」と、扇橋師匠への弟子入り理由を語った扇里師匠は、「120歳まで生きるのが目標」。「120まで生きれば、今、売れてる若い子はいなくなってるから、きっと落語界のトップに立てるはずなので(笑)」と笑わせる。未だに、15年程前に発売された『三国志IX』や、『ドラゴンクエストII』をプレイし続けているという扇里師匠。その根気強さがあればきっと120歳まで、唯一無二の芸風を武器に、元気に落語を続けてくれるに違いない。

次回「第十六回」は、声優・畠中祐が落語チャレンジに

そして最後は、扇里師匠が演じた「叩き蟹」の仕草オチのポーズで登場した志ら乃師匠、山谷を交えて本日の出演者全員が揃ってトーク。扇里師匠と真逆ともいえる芸風の志ら乃師匠は、タツオに「どうでしたか? 扇里師匠の落語は」と聞かれ、「えぇ? あんなの簡単にできるよ! ゆっくりしゃべればいいんだろ!(笑)」とヤケクソでうそぶくが、「最初の芸風は違ったのに、この境地にたどり着いてるからいいよね」と本音をチラリ。さらにタツオが山谷に「扇里師匠と志ら乃師匠、ふたりの落語をどう思いました?」と聞くと、志ら乃師匠が「どっちが好き? 男としてはどっちが好き?」と混ぜっ返す。すると山谷は「志ら乃師匠にはいろいろ教わりましたけど……品のある扇里師匠が……」とコントのようなお約束のやりとりで客席を沸かせつつ、個性の違う師匠たちに生で接し、落語という話芸の奥深さに感じ入っていた。

次回、「声優落語天狗連 第十六回」の開催は、5月20日(日)、場所は同じく浅草・東洋館にて。山谷も意外な一面を見せてくれた「声優落語チャレンジ」には、『うしおととら』『僕のヒーローアカデミア』『バッテリー』『甲鉄城のカバネリ』などで活躍する声優・畠中祐が出演。プロの口演には、独特の芸風の自作新作落語で知られる若き奇才二ツ目・瀧川鯉八さんが、半年ぶりに登場です。お楽しみに!

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