ガンダム声優・石井マークが2回目の浅草の高座に立つ!
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『声優落語天狗連 第十四回』レポート
アニメ『昭和元禄落語心中』をきっかけに生まれた「声優落語天狗連」は、アニメ×落語をコンセプトに声優が落語に挑戦する「声優落語チャレンジ」と、プロの落語家による“本物の落語”が生体験できるイベントだ。その「第十四回」が2018年1月27日、本イベントではもうおなじみの演芸の聖地、浅草・東洋館で行われた。
“『広辞苑』執筆者”サンキュータツオのトークが炸裂!
今回も盛況の東洋館。MCを務めるニッポン放送・吉田尚記アナウンサーとお笑いコンビ「米粒写経」のメンバーで日本語学者・芸能研究家としても活躍するサンキュータツオによる、アニメや落語をテーマにしたマニアックトークの面白さも、イベント自体のファンを増やしている理由のひとつ。この日のトークも、タツオがアニメ、マンガ、特撮などのサブカルチャージャンルの執筆者として名を連ねた『広辞苑 第七版』(岩波書店)の話で大盛り上がりを見せた。
執筆したのはもう3年ほど前とのことだが、「(第七版には)ツンデレとか入ってるんですか?」と問う吉田アナ。タツオは「ツンデレを入れるべきだと提案したんですよ! でも新規追加項目の結果を見たら、入ってないの!!」と声を荒げるが、「ツンデレ」という言葉は解釈が世代間で異なるため説明が難しく、収録が見送られたのも理解できるとタツオ。以前のツンデレは、「序盤はツンでパラメーターを上げるとデレる“時系列ツンデレ”」だったが、今の世代のツンデレは、「カフェオレのように、最初から“ツン7:デレ3”」と混ざっていて、意味がまだ定着していない。そういう“新語”は載せないのが『広辞苑』の方針なのだそうだ。
同じく、業績を挙げた人物も故人になると掲載が可能になる。「今回、僕、赤塚不二夫の項目を担当したんですよ!」とタツオ。他にも「横井軍平」や『ドラえもん』などの新項目が追加され、「二次元」の項目にオタク的用語としての新しい意味を加筆したという。また、落語家の項目でも、国会議員で著書も多数あった立川談志は掲載されているが、人気と実力を二分したライバル・古今亭志ん朝は掲載されていないなど、辞書編纂の奥深さを感じるエピソードがたっぷりと話された。
30分をゆうに超える熱い『広辞苑』トークを終えて、イベントは本題の石井マークによる「声優落語チャレンジ」のコーナーへ。石井は約2年前、「声優落語チャレンジ」の記念すべき第1回目で、「子ほめ」を披露した経験者だ。吉田アナは、「マークくんだったら、“2回目の面白さ”を見せてくれるだろうと依頼した」そうだが、5回分の稽古をまとめた動画が上映されると……そこには、前回経験した落語の勘を取り戻せず、苦悩する石井の姿が! 「初めて石井マークくんを観たとき、こんな伸び伸びできる人がいるのかと驚いたが、2回目もちゃんとできるかどうかは、別の難しさがある。観るほうが緊張しちゃう!」とタツオが分析し、いよいよ石井の高座へ。
声優・石井マーク、2回目の「声優落語チャレンジ」へ
少しこわばった顔で登場した石井は、「やるぞ! という緊張より、2回目の緊張のほうが強いです……さ、がんばれオレ!!」と自分を励ましながら、「平林」を語り始める。「平林」は、大家に“平林さん”への手紙を届けるよう頼まれた八五郎が、行き先を忘れないように「ヒラバヤシ、ヒラバヤシ」と繰り返し言いながら歩くのだが、結局忘れてしまう。宛て名を見ればわかるはずだが、そもそも字が読めない。そこで、道行く人に宛て名を見せるのだが、「タイラバヤシだ」「ヒラリンだ」、漢字をバラバラに読んで「イチハチジュウノモクモク(一八十の木木)だ」「ヒトツトヤッツデトッキッキ(一つと八つで十っ木っ木)だ」と、聞く人全員が違うことを言い出して大弱り。全部を繋げて叫びながら、行き先探しをするという滑稽噺だ。
奇妙なおじいさんなど、宛て名を教えてくれる老若男女の個性的な人々の姿を活き活きと演じていく石井。「平林」のでたらめな読み方を気持ちのいいリズムにのせて言い立て、派手なアクションをつけながら歌うように叫びながらおかしなスイッチが入ってしまう八五郎。その様子に観客も爆笑しながら引き込まれていった。
大きな拍手で口演を終えた石井は、「やりきりました!」と一言。「平林」は、以前やった「子ほめ」より登場人物も多く、手拭いを手紙に見立てた所作に苦労したが、「普段の仕事ではぶっ飛んだ人を演じる機会が少ないので、壊れた人を演じるのは楽しいんですよ!」と石井が言う。立川志ら乃師匠も石井との稽古を、「当人が2回目のハードルを自分のなかに作ってしまう恐怖があり、それを解き放つのが大変だった」と振り返り、「落語特有のリズムとメロディーを体得するのは、役者さんには難しい。『子ほめ』はストーリーがあるが、『平林』には何もない。聞かなくてもいい噺(笑)」だから、なおさら難しかったはずだと、物語を演じる芝居と落語の違いを教えてくれた。
ちなみに、通常の「平林」は、主人公が文字を読めないリアルさを出すため、大人ではなく奉公人の小僧として演じられる。だがあえて大人の八五郎を主役にしたのは志ら乃師匠のオリジナルで、噺のバカバカしさを強調し、石井の天然の明るい性格とよりマッチさせるための演出だったという。『ガンダム Gのレコンギスタ』の主演に決まったときも石井は、キャスト発表が行われる作品公式HPのカウントダウン画面を見つめて3時間前から待機。自分の名前を見つけて急に実感が湧き、オロオロと部屋中を歩き回ったそう。まるで「平林」の主人公のような天然エピソードを披露し、会場は爆笑に包まれた。
古今亭志ん五師匠の口演に、声優ファンが飲み込まれる
続いては、古今亭志ん五師匠の口演へ。タツオは「落語家は、真打ち昇進前と後が一番面白い。去年昇進したばかりの志ん五師匠は、一番味わい深い時期」だと紹介。新作、古典どちらも得意な志ん五師匠は、映画『の・ようなもの のようなもの』で、松山ケンイチ扮する落語家が劇中で披露した噺を創作し、落語指導も行った人物だ。
大きな拍手に迎えられて高座に上がった志ん五師匠は、マクラから聴き手の耳にスーッと入ってくる飄々とした笑いで、観客の心をがっちり掴む。この日演じられたのは、「子別れ」。腕はいいいがあまりの酒乱ぶりに愛想を尽かした女房のお光とせがれの亀坊に出ていかれた大工の熊五郎。女郎と再婚するがそれも失敗して3年後、酒も断ち、すっかり真面目になった熊五郎は、町でばったり亀坊に会う。亀坊から母子がつましく暮らしている近況を聞き面目なく思った熊五郎は亀坊に小遣いを渡し、お光には内緒だと釘を刺して明日も会う約束をする。しかし、お光に大金を持っていることをとがめられた亀坊は父親と会ったことを白状。翌日、お光がこっそりふたりの待ち合わせの鰻屋に行くと? ……という、心温まる人情話だ。亀坊のけなげなかわいさ、一度離れたからこそ互いを思いやる情にあふれた夫婦の様子を穏やかに描いていく志ん五師匠。その語り口に思わず目頭が熱くなった。
口演後のトークでは、志ん五師匠が落語家になった経緯なども紹介。タツオに石井マークの落語の感想を聞かれた志ん五師匠は、「上手いですよ。僕らは声を出すところから始まるけど、ご職業柄、すでに声が出ているのがいい」とコメント。自身の前座時代を、「(初代・志ん五は)顔芸が得意な師匠だったので、稽古でも“おまえ、(眉毛が)動かねえな”と言われて(笑)。ブレスの仕方まで細かく教えられました」と振り返った。
最後は出演者全員がステージに集合してトーク。志ん五師匠とはプライベートでもコミケ仲間だという志ら乃師匠。タツオに「志ら乃師匠から見た、志ん五師匠はいかがです?」と聞かれると、「普段、芸の話は照れくさくてしないんだけど」と断りながら、「上手いよぉー! 古今亭かーーー!」。志ん五師匠は、志ら乃師匠について、「バイタリティがすごい。そこに一番憧れます」とコメントする。さらにタツオは「『子別れ』は泣かせどころと笑わせどころのバランスがとても難しいが、カタルシスがあるいい噺。志ん五師匠は堂々と演じてくれるから安心感がある」。志ん五師匠によれば「今日は出来がよかった」そうで、志ら乃師匠も「途中からギアが入ったのがわかった。いいところに立ち会えた!」と絶賛した。
次回の「声優落語天狗連 第十五回」は4月1日(日)、おなじみの東洋館で開催。恒例の「声優落語チャレンジ」には、アニメ『アイドルマスター SideM』や『TSUKIPRO THE ANIMATION』などで知られる山谷祥生、プロの口演には落語家・入船亭扇里師匠の出演が決定しているので、お楽しみに!
●次回、『声優落語天狗連 第十五回』チケット販売情報
日時:2018年4月1日(日)開場18時30分/開演19時00分
会場:浅草・東洋館(東京都台東区浅草1-43-12)
MC:サンキュータツオ、吉田尚記(ニッポン放送アナウンサー)
出演:入船亭扇里、山谷祥生、立川志ら乃(稽古番)
イープラスにて先着販売を受付中。http://eplus.jp/rakugo15/
チケット価格:4000円(税別)
カード決済限定/申込枚数制限:4枚/公演に関する問合せ先:rakugo@1242.com
受取:セブンイレブン・ファミリーマート・スマチケ(電子チケット)発券