マハティール首相の復帰がもたらすASEANにおける中国の外交

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月22日放送)に国際政治学者の高橋和夫が出演。マレーシアでの中国の経済圏構想一帯一路の関連事業中止について解説した。

マレーシア・マハティール首相が中国の経済圏構想一帯一路の関連事業を中止

マレーシアのマハティール首相は21日、訪問先の北京で、中国の経済圏構想一帯一路に関連する鉄道建設などの大型事業を中止すると述べた。前日、李克強首相との会談でも中止の意志を伝え、了承を得たということだ。

飯田)マハティールさんいま93歳、お元気ですね。

高橋)そうですね、私も2、30年前マハティールさんのお話を直接聞いて、元気だなと思いましたが、あまり変わらない感じですね。

飯田)今回の就任で初めての中国訪問ということですが、メールもいただいております。兵庫南あわじ市の“たまねぎ小僧”さん、「マハティール首相が中国の一帯一路構想に反旗を翻し始めましたが、中東やアフリカ諸国にもこうする動きなどあるのでしょうか?」とあります。これは波及するのですか?

高橋)中国からお金を借り過ぎて破産するという例があります。そうすると中国がさらにいろいろな要求を出してくるということで、恐らく各国は、より慎重になると思います。今回のマハティールさんの中国に対する議論も、マレーシアが破産したら中国だって困るでしょうということです。そしてもう1つはマハティールさんが気をつかって、「中国が悪いのではなくて、そういう契約を結んだ前の政権が悪いのだ」としています。暗に「貸したあなたも悪いよね」という言い方ですよね。なかなか外交的でした。

飯田)中国と二人三脚でこれからもやっていくというような話をしながら、新たな植民地主義にはならないようにしてほしい、という釘も刺していますね。

高橋)記者会見を見ていて、中国の李克強首相の表情が面白かったですね。マハティールさんは直球ではなくて変化球なのですが、しっかりストライクで新植民地主義だと言っています。李克強さんが貿易の自由が重要だよねと言うと、でも経済の強い国が弱い国を虐めるようなことは良くないと、だからフェアで自由が良いのだと、かなりきついことを柔らかく言っている、そういう印象でしたね。

飯田)きちっとボールは投げ返すと。

93歳のマハティール首相の言うことは無下にはできない

飯田)マレーシアの前ナジブ政権のときは、かなり中国とずぶずぶになった経緯があったわけですか?

高橋)そうです。おそらく政権のかなりの関係者が、中国側からもらってはいけない金をもらっています。そうした関係者が実は中国に隠れている。マハティールさんにしてみれば出るところに出ようじゃないかと、買収したのはどっちなのだと、「言わないけれど分かっているぞ」というメッセージを強く送って中国を牽制しています。マレーシアも経済的に困っているのだから、中国も無理を言わないようにと、怖い顔をして優しいことを言ったり、優しい顔をして怖いことを言ったりと、なかなかのものです。93歳というのは良いのかもしれないですね。アジア的には目上の方を敬うという文化で、無下には言えないところがあります。何せマハティールさんより年上の指導者というのはあまりいないですからね。

大人の外交をしたマハティール首相

飯田)マハティールさんは日本にも先月来ていて、新幹線に乗っていました。今回の訪中でも高速鉄道に乗っています。その高速鉄道計画が今回、関連事業の中止を表明したこともあって、次はどっちが取るのかという話がもう言われていますけれども。

高橋)マレーシアがやるのかどうか、という問題が一つあります。巨額のプロジェクトですからね。中国の方は日本が「やるのだったらやってみろ」という雰囲気もあるようです。マレーシアで工事はそう楽ではないというメッセージも送って来ています。
マハティールさんも大きなプロジェクトはいろいろキャンセルしつつ、中国とは電気自動車の部分で協力したいというようなことも言っていますから、反中を打ち出しているというわけではない。汚職だとかそういうことに絡まない、大人の付き合いをしてくださいねということです。大人の外交をやったと思います。中国側もそう来たかということで苦笑いだったと思いますね。

マハティール首相の復帰でASEANは変わるか

飯田)再びマハティールさんがマレーシアでトップに立ったことで、ASEAN全体の、中国に対する外交というのも変わってきますか?

高橋)中国と距離を置こうということにはなります。日本、中国、アメリカ、インドと、ASEANはどこにつく必要も無いのだという意識は強いと思いますね。中国はこれまで経済の弱いところに入り込んで来て、その国を中国側になびかせてという外交をやってきました。マレーシアがまともになっていくというのは、アメリカにとっても日本にとってもインドにとっても、恐らく中国にとっても良いことだと思います。

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