関脇・貴景勝 大関昇進がかかる大一番を前に考えたこと

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、24日の大相撲春場所千秋楽で10勝を挙げ、大関昇進を確実にした関脇・貴景勝関のエピソードを取り上げる。

貴景勝 大関昇進 大関 確定 栃ノ心 陥落 千秋楽 大相撲 10勝達成 三月場所

【大相撲三月場所】千秋楽、三賞受賞力士。技能賞の貴景勝、大関昇進ノルマ10勝達成=2019年3月24日 エディオンアリーナ大阪 写真提供:産経新聞社

「昨日の夜から、自分と向き合う時間が長かった。両親とか、支えてくれた人のために頑張りたいと思った」

9勝5敗で千秋楽を迎えた、関脇・貴景勝。勝てば大関昇進がほぼ決まる大一番の相手は、7勝7敗の大関・栃ノ心。こちらは敗れると、2場所連続負け越しで大関陥落が決定します。

昇進か、残留か? 平成最後の場所で行われた「大関入れ替え戦」は、あっけなく決着がつきました。立ち合い、貴景勝は低く当たると、得意の突きを連発。栃ノ心を一気に土俵の外へと押し出したのです。

昨年の九州場所は小結で13勝を挙げ初優勝、今年の初場所は新関脇で11勝、そして今場所は、1横綱・2大関を倒し10勝。一部にあった慎重論を吹き飛ばす快勝で、審判部は臨時理事会の招集を要請。27日に開かれる理事会で「新大関・貴景勝」の誕生が確実になりました。

大一番を制し「全身の力が抜けた」と語った貴景勝。昇進のノルマは10勝でしたが、その道は決して平坦ではありませんでした。

3日目、相性の悪い御嶽海に敗れ、5日目、先場所優勝の玉鷲にも負けて3勝2敗。昇進に暗雲が漂いましたが、そこで持ち前の集中力を発揮し、6日目から5連勝。10日目に横綱・鶴竜を下して8勝2敗と勝ち越し、残り5番で2勝すれば大関、という状況になりました。

ただしここからが正念場、相手が強敵ばかりになります。11日目は横綱・白鵬に、12日目は大関・豪栄道に敗れ、痛すぎる足踏み……。しかし、貴景勝は動じず、前向きに状況をとらえていました。

「別に試練じゃない。試練と思うから試練。幸せなことですよ」

13日目の相手は、大関・高安。本来の自分の相撲を取ろうと決めた貴景勝は、一気の押し出しで9勝目。大関に王手を掛けます。取組後、「また1つ(大関への)階段を上りましたね」という報道陣の振りに、こう答えました。

「階段とか、そういうのはない。欲が出たら終わり」

あくまで自分らしく、平常心で……。14日目は、今場所絶好調、優勝を争う逸ノ城に敗れて5敗目。もう後がなくなりましたが、それでも自分を見失わないのが貴景勝です。

「みんなが言うほど自分では(内容が)悪くないと思っていたので、振り返るのは場所後でいい、明日(千秋楽)のことだけ考えようと」

千秋楽の前夜、貴景勝が考えたことは「相撲を始めた小学校3年から、自分は何を目指してやって来たのか?」をもう1度、自分に問い直すことでした。

「わんぱく相撲でも、体の大きな人たちのなかでやってきて、自分は体が小さくて、優勝とかできなかったけど、何とか“自分の体を武器にしてやれる相撲”を目指してやってきたことを思い出した」

身長175センチの小兵で、手足も短い自分にできることは、丸いアンコ型の体を活かして低く鋭く当たり、そのまま「突いて、押して、前に出る」……それしかない。

実は過去6場所で、貴景勝が勝ったときの決まり手のうち、実に4割が「押し出し」。投げ技での白星は1つもないのです。この愚直さこそ、貴景勝の持ち味。

千秋楽では自分の相撲に徹し、大きな勲章をつかんだ貴景勝。が、大関はあくまで通過点にすぎません。かつて小学校の卒業文集に、佐藤貴信少年(本名)は、こう記しました。

「将来は、大相撲の最高位『横綱』になりたい」

平成最後の一番で、大願成就の足掛かりを作った貴景勝。栃ノ心が在位わずか5場所で大関を陥落した直後だけに、新大関への要求は自然と厳しくなりますが、平常心と初心を忘れない限り、新元号下で行われる夏場所でも、ファンを沸かせる活躍を見せてくれるに違いありません。

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