鈴木愛VS渋野 賞金女王争と“もう1つの戦い”
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、ツアー最終戦まで熾烈な賞金女王争いを演じた、女子プロゴルフ・鈴木愛選手と渋野日向子選手にまつわるエピソードを取り上げる。
12月1日、女子プロゴルフの国内ツアー最終戦「LPGAツアー選手権リコー杯」が宮崎CCで最終日を迎え、12位スタートの鈴木愛が、通算5アンダーで5位に入り、2年ぶりの賞金女王に輝きました。
「(年間)7勝して、賞金女王になれなかった人はいません。もしも逆転されたら恥ずかしい。とにかく、きょうは意地を見せたい。それだけでした」(鈴木)
過去、国内女子ツアーで年間7勝以上を挙げた選手は、不動裕理(2003年10勝、2004年7勝)、イ・ボミ(2015年7勝)で、いずれもその年は賞金女王を獲得しています。
10月の「マスターズGCレディース」終了時点で、鈴木は、当時トップの申ジエに約3800万円もの差をつけられていました。しかし11月に入ると、「伊藤園レディス」で国内女子ツアー記録に並ぶ3週連続優勝を達成するなど猛チャージをかけて、一気に賞金ランク首位に躍り出ました。
このまま鈴木が賞金女王奪回か……と思われましたが、そこに「待った!」をかけたのが渋野日向子です。11月最後の「大王製紙エリエールレディス」で、大逆転勝利を果たして賞金ランク3位に浮上。令和最初の賞金女王争いは、鈴木・申ジエ(韓国)・渋野が3つ巴で最終戦を迎えるという、稀に見るデッドヒートとなりました。
最終戦・リコー杯を前に、トップの鈴木と3位・渋野の差は約1500万円差。リコー杯の優勝賞金は3000万円、2位が1740万円。もし渋野が単独2位以上で、鈴木が9位タイ以下だと逆転、という状況でした。
圧倒的に鈴木有利とはいえ、プレッシャーがかかるなかで迎えた最終戦。鈴木は1日目からパターに苦しみ、スコアを伸ばせませんでした。苛立ちを隠せず、風の向きをキャディーが読み違えたことについて「私のミスじゃないだけに、何とも言えない感じ。せっかくいい感じで積み重ねて来たのに」とコメント。
これは、強い信頼関係で結ばれたキャディーに対して、叱咤激励の意味を込めて言った言葉でしたが、「責任を転嫁するのは、トッププロらしくない」と批判を浴びることに。
一方、渋野は3日目を終えて首位に3打差の3位と、優勝も十分狙えるスコア。鈴木は12位で、渋野の逆転賞金女王のムードが高まるなか、最終ラウンドを迎えたのです。
追い込まれた鈴木ですが、「このまま負けるわけには行かない」と奮起。3日目終了後、日が暮れるまで練習場に残り、パター練習を続けました。
心のなかで「キャディーさんのためにも、絶対に賞金女王を獲る!」と言い聞かせたという鈴木。最終ラウンドで6つのバーディーを奪って、イ・ボミと並ぶ5位タイに躍進し、賞金716万4000円を加算しました。
対照的に、渋野はバーディーがなかなか奪えず、2位タイで終了。加算賞金は1470万円に止まり、申も7位タイで終わったため、鈴木の賞金女王奪還が決まりました。その瞬間、キャディーと抱き合い、喜びを分かち合った鈴木。
「やっぱりホッとしています。きょうは自分が7アンダーで回ると思って、人のプレーは気にならなかった。今週に入って、いちばんいいラウンドでした」
8月に渋野がメジャータイトル・全英女子オープンを制したとき、それまで世界ランクで日本人2番手だった鈴木は、3番手に後退。この「日本人2番手」には大きな意味があり、イコール、「東京オリンピック代表圏内」でもあるのです。
渋野の快挙に対し「羨ましいと言うより、悔しい気持ちが上回っている」と正直な気持ちを吐露した鈴木。最後の最後で女王の意地を見せてくれました。
かたや、逆転女王はなりませんでしたが、戦いを終えて「本当に1週間長かったけど、最後のバーディーでもう悔いはないと。スッキリしてます」と晴れやかな表情で語った渋野。
パー4の最終18番は、決めても逆転賞金女王に届かないことはわかっていましたが、2メートル半のバーディーパットをきっちり決めて、最終戦を締めくくりました。
「きょうのどのパットより気持ちが入った。入った瞬間は安堵というか、笑いというか、ニヤケしか出なかったですね」
試合後、そんな「シブコ節」も飛び出した渋野。2019年は激動のシーズンになりました。
5月の国内メジャー「サロンパス杯」でいきなり初優勝を飾って注目され、7月の「資生堂アネッサレディス」で2勝目を挙げると、8月には「AIG全英女子オープン」で海外ツアー初出場にもかかわらず初優勝。世界のゴルフファンを驚かせ「笑顔のシンデレラ」と呼ばれました。
さらに9月の「デサントレディース東海クラシック」と11月の「大王製紙エリエールレディス」を大逆転で制し、国内4勝。最後の最後まで賞金女王の座を争いました。
「賞金ランクで2位になれるのは、本当に予想外。『1年間よく頑張ったね』って神様が与えてくれたのかなとも思う。でも『まだ1位になるには早い』という試練も与えてくれた。足りない部分は多いので、頑張ろうと思わせてくれる2位ですね」
試合後の会見で、そう語った渋野。今シーズンの自己採点は? と聞かれ「98点」と答えました。その理由は「(8月の)NEC軽井沢72の最終ホールでの3パットで、マイナス2。結果としては100点超えてるんですけどね」……実に渋野らしい自己採点でした。
「12月はトレーニングをしつつ、来年(2020年)に向けての体作りをしたい。あとは太らないこと。五輪があって、他に目標はないので、そこをいちばんに考えたい」
と真剣な表情で、2020年の抱負を語った渋野。賞金女王争いだけでなく、五輪代表の座をめぐる鈴木との戦いも楽しみです。