渋野日向子が全英制覇 “笑顔のシンデレラ”は大舞台でも自然体
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、日本時間8月5日未明に行われたゴルフ・全英女子オープンで、日本勢史上2人目のメジャー制覇という快挙を成し遂げた、渋野日向子選手にまつわるエピソードを取り上げる。
「まだ実感もないですし、何で私が優勝しちゃったんだろうって思っていて。優勝した理由が分からなくて、何とも言えないです」(試合後の会見より)
まさに「笑顔のシンデレラ」。米国女子ゴルフ協会がそう名付けた無名の新星が、コース上で笑顔を振りまきながら、ものすごいことをやってのけました。日本勢では男女を通じ、1977年に樋口久子が全米女子プロを制して以来42年ぶり、史上2人目のメジャー制覇。
岡本綾子も、宮里藍も果たせなかった偉業を、プロデビュー間もない無名の選手が達成したというビッグサプライズは、その物怖じしない底抜けに明るいキャラクターも含めて、海外メディアでも大きく取り上げられています。
渋野は1998年生まれの20歳。いわゆる「黄金世代」ですが、昨年(2018年)、プロテストに合格したばかり。2017年は不合格を経験しており、昨年までにツアー優勝を果たしていた勝みなみ、畑岡奈紗、新垣比菜、大里桃子ら同学年の選手たちには大きく遅れを取っていました。
しかし今年(2019年)に入って大ブレイク。5月に国内メジャー「ワールドレディスサロンパスカップ」でツアー初優勝。大会最年少記録のおまけ付きでした。優勝会見で「私で大丈夫でしょうか?」「私でごめんなさい」と答え、会場を笑いに包んだ渋野。
7月には新設大会の「資生堂アネッサレディス」で2勝目を挙げ、賞金ランクでも上位に進出。今回の全英女子オープン出場資格を勝ち取ったのです。
渋野にとっては、初の海外試合。今回出場した日本勢9人のなかでは唯一の初出場でしたが、普通の選手なら緊張でカチコチになるところを、渋野はずっと自然体。初日は7バーディー・1ボギーの「66」で回り、6アンダーでホールアウト。首位に1打差の2位で発進して周囲を驚かせましたが、本人は開口一番「なーんてこった!」。周囲の笑いを誘い、この時点ですでに、海外マスコミも虜にしていたのです。
2日目・3日目も、自分のゴルフに徹し、3日目を終えた時点でついに単独首位に立った渋野。いよいよ周囲も騒がしくなり、緊張で眠れなかったかと思いきや、最終日の朝、渋野は元気よく記者たちの前に現れました。
「おはようございまーす! めっちゃ寝れました! 12時過ぎまでSNSの返信をしてましたが、でも休めました!」
地元・岡山から駆け付けた総勢20人ほどの応援団も、「日本でプレーしてるみたい」という雰囲気を作ってくれましたが、もう1つ大きな武器になったのが、差し入れの駄菓子やおつまみでした。ラウンド中にも「お腹がすくんですよね」とムシャムシャ。最終日もフェアウェイで「スティックたら」を口にくわえて、振りながら食べる姿が中継で映し出されましたが、カメラに気付くと、たらをくわえたまま、正面を向いてニッコリ笑うシーンも。
全英女子オープンという大舞台で、こんなに自由に振る舞う選手がかつて存在したでしょうか? 中継で解説を務めた樋口久子さんも「私たちの頃では考えられないですね」と、その強心臓ぶりに感嘆したほどです。
この大舞台でも物怖じしないメンタルの強さは、スコアにも表れています。渋野はこの4日間、前半9ホールはイーブンパーでしたが、後半9ホールは18アンダー。
渋野本人も「バックナイン(後半9ホール)が自分の持ち味」と自認していますが、最終日、3番で4パットのダブルボギーを叩きながら、バーディー2つで取り返し、得意の後半はバーディーラッシュ。最終ホールもバーディーパットを決め、先にホールアウトしていたサラスを逆転し、栄冠を手にしました。
勝利を決めた最後のパットは18フィート(約5.5m)ありましたが、普通なら大緊張で縮こまってしまうところ、あえて強く打った渋野。これがカップの後ろにぶつかり、みごと1打で沈めてみせたのです。本人は「外れたら3パットでもいいや」と思って打ったこの最後の1打。英国の高級紙・ガーディアン紙は、こう評しました。
「それは、今大会の最後のパットが決まる完璧な瞬間を作り出すための演出のようにも感じられた。もしボールがカップの後ろにぶつかることがなければ、そのパットは何フィートか転がって行くように見えた。シンデレラは恐れを知らない」
引用:THE PAGE|海外メディアも渋野日向子の全英女子Vを絶賛「恐れを知らないスマイリング・シンデレラ」「ファンの心をつかむ」
一躍、世界に名を知られた「笑顔のシンデレラ」ですが、5月にツアー初優勝を決めたとき、渋野はこんなことを言っています。
「ゴルフよりも、ソフトボールの方が好きです」。
実はゴルフと並行して、地元のスポーツ少年団でソフトボールをやっていた渋野。いまでもソフトボール愛は強く、五輪のチケットが手に入ったら「(ゴルフの)試合は休みます」と語ったほど。しかし、今回の海外メジャー勝利で、自身の五輪出場の可能性も出て来ました。とにかく型破りなシンデレラの出現、今後も渋野から目が離せない日々が続きそうです。