話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、新型コロナウイルス感染拡大による、プロ野球界への影響を取り上げる。
「(オープン戦無観客試合は)12球団で一致した。球団経営にかかわる大変な問題だが、感染がこれ以上拡大すると、まさに国難に陥りかねない。苦渋の決断をした」(NPB・斉藤惇コミッショナー)
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2月26日午後、政府が声明を発表。国内での感染拡大を防ぐため、「大規模イベントについて、今後2週間は自粛し、中止や延期、規模縮小などの措置を取るように」という要請に、プロ野球界も応じました。
26日の午後4時から、NPBは緊急の12球団代表者会議を開催。球団代表・球団社長に加え、営業担当者らも出席し、2時間近くにわたって論議を行いました。その結果、今後行われる予定のオープン戦(~3月15日)について、観客をスタンドに入れない「無観客試合」として開催する、と全会一致で決定。12球団が足並みを揃えました。
オープン戦は地方球場で行われるゲームも多いですが、無観客だと地方に出向く意味がなくなるため、試合を中止にするか、本拠地でのゲームに振り替えるかは各球団の判断になります。いずれにせよファンは、中継でしか試合を観ることができなくなりました。
NPBでは2011年にも、オープン戦期間中の3月11日に東日本大震災が発生したため、観客の安全と世情などを考慮し、以降予定されていたオープン戦のほとんどを中止(東北・関東圏以外の球場では一部開催)。代わって、オープン戦という形ではなく「実戦形式の合同練習」を無観客で実施したことがあります。
今回も9年前を思い出す事態になりましたが、オープン戦とはいえ、記録に残る試合で無観客試合を行うのは、80年以上の歴史を持つプロ野球において初めてのことです。
もちろんオープン戦も、球団にとっては大事な収入源の1つ。入場料収入や、球場で販売されるグッズなどの売り上げも見込めず、経営上も大きな痛手となりますが、日本社会全体が感染拡大回避に動いているいま、コミッショナーの言うように「国難を避けるための苦渋の決断」であり、この措置はやむを得ないところです。
気になるのは、3月20日に予定されている開幕戦はどうなるのか? ということです。政府の要請は「2月26日から“2週間は”自粛」。この“(最低)2週間は”がどこまで延びるかによって、通常開催も危うい情勢になって来ました。
プロ野球開幕はここ最近、3月末の開幕が定着していましたが、今年(2020年)は東京オリンピック開催中にレギュラーシーズンを中断するため、前倒しで開幕日が3月20日に設定されました。今回は前倒しが響いた格好ですが、通常開催ができない場合、選択肢は2つしかありません。「開幕を延期する」か、それともオープン戦同様、「当面、無観客でレギュラーシーズンを行う」かです。
震災に見舞われた2011年は、セ・パともに開幕が3月25日から4月12日に延期となりました。計画停電の実施により、4月中のナイター開催ができなくなったため、関東開催分を西日本開催に振り替えたり、ナイターをデーゲームに変更したりなど、大幅な日程変更が行われましたが、最終的に全球団が、予定されていた全144試合を消化しています。
ところが今年は、オリンピック対応でもともと日程がタイトなため、長期にわたる開幕延期は難しい状況です。となると、しばらく無観客でレギュラーシーズンの試合を行う他ありませんが、その場合、前売券を購入したファンに対し相当な額の払い戻しが発生。オープン戦以上に、球団経営を直撃することになります。
斉藤コミッショナーは「オープン戦無観客」の措置について、「目的は3月20日(開幕)。状況を見ないと(予定通り開幕するとは)なかなか言えないが、できればやりたい気持ちは強い」とコメント。さっそく、感染症の専門家も交えた12球団による対策委員会を設置し、選手・スタッフに感染者が出た場合の対応も含めて協議することになりました。
こればかりは事態の終息を祈るしかありませんが、2011年は開幕延期を巡ってセ・パ両リーグの足並みがなかなか揃わず、世間から批判を浴びたプロ野球。当時、選手会の新井貴浩会長(阪神)が「震災の被害も拡大するなか、通常通り開幕していいのか?」と涙ながらに訴えるシーンもありました。
今回は、全国的な規模での感染拡大ということもありますが、9年前と違って「12球団が一致団結して、この困難に立ち向かおう」という姿勢を見せてくれたのは歓迎すべきことです。
無観客で試合を行うのも、開幕に向けて、選手にベストの状態で臨んでほしいからこそ。野球ファンとしては、生で試合を観られないのは残念ですが、ここはじっと我慢のときです。
3月20日に開幕できることを祈りつつ、各々が感染拡大を防ぐ手立てを講じて行くこと。そして事態が収まったら、可能な範囲で球場に足を運んで、声援を送ること……球界の危機を救うのは、ファンも一体となった取り組みなのです。