晴れて移籍決定! 新天地・ツインズで前田健太が活躍する理由
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、ドジャースからツインズへの移籍が決まったと報道された、MLB・前田健太投手にまつわるエピソードを取り上げる。
2月4日(日本時間5日)、レッドソックスも絡めた大型三角トレードによって「ドジャースからツインズに移籍」とMLB公式サイトで発表された前田健太。しかし、交換要員をめぐってレッドソックスとツインズ間の調整が難航。その間、前田は今季の所属先が宙に浮いたまま待たされることになり、一時は「移籍は白紙か?」という見方もありました。
ところが事態は急展開。9日(日本時間10日)に米国の複数メディアが「前田、ツインズ移籍で合意」と一斉に報道。スプリングキャンプ直前に無事トレード話がまとまりました。
報道によると、三角トレードは破談になり、ドジャースとツインズが再交渉を行った結果、「通常の2球団間トレード」として、両球団が合意に達したとのこと。
ツインズはドジャースから、前田に加えて1000万ドル(約11億円)の金銭を受け取り、ドジャースはその見返りに、ツインズからブラスダー・グラテオル投手+ルーク・ラリー外野手+今季のドラフト全体67位指名権を譲渡されることになりました。
前田の交換相手の1人となったグラテオルは、21歳の快速右腕で、当初は三角トレードでレッドソックスに移籍するはずでした。しかし、故障歴を持つグラテオルのメディカルチェックの結果をレッドソックスが問題にしたことから、三角トレードは暗礁に乗り上げ、結局仕切り直しに。
そこでドジャースは、ツインズ、レッドソックスと個別に通常のトレード話を進め、交渉が成立。前田は晴れてツインズ移籍が決まったというわけです。
ツインズは、若手の有望株・グラテオルを放出してまで前田を欲しがったわけで、それだけ期待も大きいということになります。そもそも今回のトレード、なぜ前田は移籍することになったのか? 今後の起用法はどうなるのか? はたして新天地での活躍は期待できるのか?……以上3点について見て行きましょう。
前田は、2016年からドジャースと8年契約を結びましたが、交渉の際にドジャースが「右ヒジに問題がある」とベースとなる年俸を低く抑え、出来高の比率が高い契約を結びました。これは「リスクが少なく、ドジャース側が非常に有利な契約」と言われました。
前田は1年目から16勝を挙げ、在籍4シーズンで3度の2ケタ勝利を記録。通算47勝をマークしました。ドジャースは前田が加入してから4年連続でプレーオフに進出していますが、前田は2年目の2017年から、シーズン終盤やプレーオフになると中継ぎに回され、ある意味「便利屋」として使われて来ました。
それに対して不満を漏らすこともなく、黙々と与えられた役割に徹して来た前田。しかし、出来高で稼ぐ契約になっている前田の場合、先発から中継ぎに回ると投げるイニング数が減り、年俸も頭打ちになってしまいます。
ドジャースから見れば、年俸抑制になり好都合なのですが、昨年(2019年)オフから新たに前田の主任代理人を務めることになった、米大手エージェント「ワッサーマン・メディア・グループ」の担当者は「前田は先発として素晴らしい能力を持っているピッチャー。こんな起用法はおかしい」と、ドジャースの編成担当に苦言を呈していました。
前田自身も、かねてから「希望は100対0で先発」と話しており、1月に自主トレの模様を公開した際、報道陣に「1年間ローテーションを守れるように、結果を残して行きたい」と宣言。それだけ先発へのこだわりは強いのです。
そんな前田にとって、ツインズ移籍はまさに渡りに舟。というのも、それが前田を欲しがった理由でもありますが、ツインズは先発陣が手薄なのです。昨シーズン、ツインズは5人の投手が2ケタ勝利を挙げましたが、うち2人がオフに退団。さらに、11勝を挙げたマイケル・ピネダが薬物規定違反で5月まで出場停止となり、開幕ローテーションに3つも穴が空いてしまいました。
そこで、アスレチックスからホーマー・ベイリー(昨季13勝9敗)、レッドソックスからユーリス・チャシーン(昨季3勝12敗)を獲得しましたが、それでもまだ駒不足。2本柱のジェイク・オドリッジ(昨季15勝7敗)、ホセ・ベリオス(昨季14勝8敗)に次ぐ3番手候補として、ツインズが目を付けたのが前田でした。
前田がドジャースと交わした契約内容はツインズがそのまま引き継ぐため、ツインズは「活躍した分だけ払う」という低リスクの条件で、経験豊富な先発投手を獲得したことになります。米マスコミに「ツインズはうまくやった」という声が多いのはそのためです。
このチーム状況から見て、前田のローテーション入りは確実で、先発に専念すれば2ケタ勝利も有望。出来高の条件をすべてクリアし、満額を手にするのも夢ではありません。また、ツインズはメジャー屈指の攻撃力を誇るチームです。昨シーズンはMLB最多記録を更新する307本塁打を記録。またチーム打率は、MLB2位の2割7分。この攻撃力を武器に9年ぶりに地区優勝を遂げました。
さらに昨シーズン、ブレーブスで37本塁打を放ったジョシュ・ドナルドソンをFAで獲得。この強力打線をバックに投げるのは、前田としても心強いでしょう。投手も打席に立つナショナル・リーグから、DH制を採用するアメリカン・リーグへの移籍は投手にとって不利と言われますが、今回はそれ以上に味方が打ってくれるので、むしろ有利に働きそうです。
ミネソタに本拠地を置くツインズは、2014年まで下位に低迷していましたが、2015年から監督に就任したポール・モリター氏がコツコツとチームを立て直し、昨年はア・リーグ中地区Vを成し遂げました。前田獲得は、チームが本気で、1991年以来遠ざかっているワールドシリーズ制覇を狙っている証しでもあり、地元ファンも前田加入を歓迎しているようです。
またア・リーグ移籍で、ヤンキース・田中将大との“同期対決”を観られる機会が増えるのも、日本の野球ファンにとっては楽しみの1つ。望まれてのトレードを意気に感じたマエケンが、水を得た魚のように新天地・ミネソタで活躍すれば、今年(2020年)のMLB、さらに面白くなりそうです。