メッシ PSG移籍で“ネイマールとのコンビ復活”という可能性
公開: 更新:
話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、FCバルセロナ退団が報じられたサッカー界のスーパースター、リオネル・メッシ選手の移籍にまつわるエピソードを取り上げる。
どうやら、歴史的な移籍劇になりそうです。サッカースペイン1部リーグ・FCバルセロナのフォワードで、アルゼンチン代表のメッシが、クラブに対し移籍の意思を伝えたと、スペインの現地メディアが8月26日までに報じました。
かねてから「移籍を希望している」という噂が出ていたメッシですが、報道によるとメッシは、退団手続きを進めるための内容証明付き郵便をクラブに送付しました。またこれに先立ち、クラブ宛てに「契約解除を求める文書」をFAXで送っており、25日、バルセロナ側もこの文書を受け取ったことを認めました。今回、どうやらメッシは「本気」のようです。
メッシは2000年、13歳でバルセロナの下部組織に入団。2004年、17歳のときにトップチームでデビューしました。以来、クラブ歴代最多の634ゴールをマークし、スペイン1部リーグ優勝10度、欧州CL(チャンピオンズリーグ)制覇4度など、これもクラブ歴代最多となる34タイトルを獲得。まさにバルセロナの「顔」と言うべき選手です。
下部組織も含めると20年もバルセロナと共に歩んで来たメッシが、なぜ愛着のあるクラブを離れる決意を固めたのでしょうか? その大きな理由は、2020-21シーズンに向けてバルセロナが進めている「改革路線」です。
14日、欧州CLの準々決勝でバルセロナは、ドイツのFCバイエルン・ミュンヘンと対戦。2-8で大敗を喫し、12シーズンぶりの無冠という屈辱を味わいました。試合直後、クラブはキケ・セティエン監督を解任。代わって、元オランダ代表監督を務めたロナルド・クーマン氏が新監督に就任しました。現地メディアによると、クーマン監督はチームを刷新するため、主力選手数名に戦力外を通告した模様です。
そのなかには、メッシの盟友でもあるストライカー、ルイス・スアレスも含まれているという情報もあります。クラブの顔でもあるメッシは、チーム編成にも大きな発言権を持っていますが、長年慣れ親しんで来たチームをバラバラにされることへの怒りが爆発。クラブ幹部への不満も重なって、ついに退団を決意したようです。
ただし、バルセロナ側が簡単にメッシの退団要求を認めるはずもなく、クラブ側の主張は「まだ1年、契約が残っている」。いまバルセロナがメッシと結んでいる契約は、2021年までとなっており、もしこの契約を途中で解除する場合は、7億ユーロ(約878億5000万円)という巨額の契約解除金が発生します。
しかしメッシ側は「こちらから一方的に契約を解除できる権利がある」と主張。「シーズン終了の20日前までに、クラブ側に退団の意思を伝えれば、契約解除金なしで退団できる」という条項を根拠にしています。
本来、今年(2020年)のシーズン終了は6月10日でしたが、新型コロナ禍でシーズンが延長されたため、退団通告の期限も延長された……というのがメッシ側の言い分。とはいえ、バルセロナ側がこの主張を簡単に認めるとも思えず、交渉が決裂すれば、法廷闘争に発展する可能性もあります。
ただ、メッシの退団意思は固く、バルセロナ側も揉めるよりは「高額の移籍金で手を打とう」という現実的な選択をすることになりそうです。7億ユーロはあまりに巨額すぎるため、基準になるとみられるのが、2017年、バルセロナのフォワード、ネイマールがパリ・サンジェルマンFCに移ったときの移籍金・2億2200万ユーロ(約290億円)です。
サッカーの移籍金としては史上最高額ですが、メッシを譲るとなれば「ネイマール以上」が出発点で、そこからどれだけ上積みができるか、という話になりそうです。この移籍金とは別にメッシへの年俸も支払う必要がありますから、メッシ争奪戦に参加できるのは、必然的に潤沢な資金力のあるクラブに限られます。
英ブックメーカーでは早くも、メッシの移籍先をめぐる賭けが行われていますが、1番人気が、イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・シティFCです。現在、チームを率いているのは、ジョゼップ・グアルディオラ監督。元バルセロナの選手で、2008-09シーズンからバルセロナのトップチーム監督に就任。1年目でいきなりスペインサッカー史上初の3冠を達成した名将です。
メッシはこの2008-09シーズンに初めて10番を付け、グアルディオラ監督の下で才能を大きく花開かせた過去があり、新天地として選ぶには申し分のないチームです。クラブも資金は豊富。すでにメッシとグアルディオラ監督が電話で将来について話し合った、という情報もあり、移籍先候補の筆頭に挙げられるのも頷けます。
その他、中国の大手資本がオーナーを務めるイタリア・セリエAのFCインテルも有力候補ですが、もう1つ、忘れてはいけないのが、かつてバルセロナからネイマールを引き抜いたフランスリーグ1部、パリ・サンジェルマンFC(以下PSG)です。
PSGは、2011年にカタール投資庁の子会社がクラブを買収。会長はカタール皇太子の友人というクラブです。豊富な資金力をバックにチーム強化に乗り出し、欧州を代表する強豪クラブに成長しました。ネイマールに続き、メッシもバルセロナから獲得となると、これはまた大きな話題を呼びそうです。
PSGは、23日(日本時間24日)に行われた欧州CL決勝でバイエルン・ミュンヘンに0-1で敗れ、悲願の初優勝を逃しました。試合後、人目もはばからず涙を流したネイマール。彼もメッシとの再会を待ち望んでいる1人です。
メッシとネイマールは、2013年から2017年まで、バルセロナで4年間一緒にプレー。その間、8つのタイトルを獲得しました。いまなお2人のコンビ復活を望む声は多く、実際にネイマールのバルセロナ復帰交渉が行われたこともありましたが、実現には至りませんでした。もしメッシのPSG移籍が成立すれば、黄金コンビ復活が叶うことになります。
ネイマールがPSG移籍をほのめかしたとき、盟友スアレスと共に彼のもとへ行き、バルセロナに残留するよう説得したメッシ。ネイマールはいったん「僕は残るよ」と話しましたが、結局チームを出ることに……。そんなこともありましたが、いまも2人は「ネイマールは他の選手と違う」「僕が見たなかで、史上最高の選手はメッシだ」と互いに認め合い、コンビ復活を望んでいます。
メッシ移籍の報道が出るや、ネイマールの元代理人はこうコメントしました。「現段階では、ネイマールがバルセロナに戻るより、メッシがPSGに来るほうが簡単だ」。カタールの財力をよく知っているからこその発言です。
また、PSGのトーマス・トゥヘル監督は「もしメッシが加入したら?」という問いに、「大歓迎だ。メッシが来るのを断る監督がいるだろうか?」と言いながら、「メッシはバルセロナでキャリアを終えるんじゃないか」というコメントも。どうやら、この段階で迂闊なことは言えないと煙幕を張ったようです。
どのクラブを選ぶかはメッシ次第ですが、かつて伸び伸びやらせてくれた恩師の下で戦うのか、気心の知れた元僚友と再び一緒にプレーするのか、あるいは他の道を選ぶのか?……いずれにせよ、サッカー史に残る移籍劇になるのは間違いありません。メッシがどこに行くかによって、欧州サッカーの地図も大きく変わりそうです。