千賀が引退する吉見からもらった「重要なヒント」

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、11月4日のロッテ戦で勝利、パ・リーグ投手タイトル3部門でトップに立ったソフトバンク・千賀滉大投手にまつわるエピソードを取り上げる。

【プロ野球ロッテ対ソフトバンク】フォークを投げるソフトバンク先発の千賀滉大=2020年11月4日 ZOZOマリンスタジアム 写真提供:産経新聞社

11月4日、ZOZOマリンスタジアムで行われたロッテ-ソフトバンク戦。すでに優勝を決めているソフトバンクに対し、ロッテは西武と激しい2位争いを繰り広げている真っ最中。メジャーから久々に日本球界へ復帰したチェン・ウェインを立てて、背水の陣を敷きました。

そんなロッテの前に立ちはだかったのが、ソフトバンクのエース・千賀でした。千賀にとってこの試合は、翌週14日から始まる、2位チームとのクライマックスシリーズ(CS)に備えた登板であると同時に、「4つの記録」が懸かった重要なゲームでもありました。

1つめは「通算1000奪三振」。試合前の時点で997奪三振、達成は確実視されていましたが、もし序盤にKOされた場合、来季に持ち越しとなる可能性もありました。

あとの3つは、投手部門3タイトル「最多勝利・最優秀防御率・最多奪三振」です。千賀は4日の試合を迎えた時点で、勝ち星は10勝。トップの楽天・涌井秀章(11勝)に1差を付けられていました。また防御率は、トップのオリックス・山本由伸(2.20)に迫る2.31ながら、今季(2020年)の規定投球回・120イニングに7イニング足りずランク外。奪三振数は140で、これもトップの山本(149)に9個差の2位でした。

おそらくこの試合が、今季レギュラーシーズンでの最終登板となる千賀にとっては、これが投手3冠へのラストチャンス。3部門でトップに立つには、「7イニング以上を無失点で抑え、9三振以上を奪って白星を挙げる」ことが絶対条件でした。

そんなこんなを懸けた、大事な一戦。登板前日の3日、記者に「投手3冠」への抱負を聞かれた千賀は、こう答えました。

「(タイトルは)獲るものじゃない。“獲れる”ものなので」

千賀の言わんとすることは、「自分のピッチングを心掛ければ、タイトルは自ずとついて来る」ということ。その言葉を地で行くように、千賀は序盤から落ち着いたピッチングで、ロッテの打者を手玉に取って行きました。3回、安田尚憲から空振り三振を奪い、999奪三振。大台にリーチをかけると、続く荻野貴司をカットボールで連続空振り三振に仕留め、1つめのノルマ「通算1000奪三振」をあっさりと達成しました。

通算投球回・855回1/3イニングでの1000奪三振到達は、藤川球児(阪神)が2017年に樹立した771回2/3には及びませんが、あの野茂英雄(近鉄)が1993年に記録した871回を大幅に更新するパ・リーグ最速記録であり、プロ野球史上2位の大記録です。

「パ最速だということは知っていた。レジェンドの方々のなかに自分の名前が載ったのは、本当に嬉しい」(千賀)

2本のソロ本塁打(デスパイネ・栗原)による援護点をバックに、その後も冷静沈着なピッチングを見せた千賀は、8回無失点で降板。後を受けた守護神・森唯斗が9回を3人で仕留め、2-0でソフトバンクが勝ちました。千賀はこれで11勝。同じ日、オリックス戦に登板した楽天・涌井が白星を挙げられなかったため、千賀は最多勝争いのトップに並びました。

さらに規定投球回にも達し、防御率2.16でオリックス・山本を抜いてトップに。9三振を奪って今季の奪三振数は149となり、こちらも山本と並んでトップタイに浮上しました。ライバルたちの動向次第ではありますが、このままシーズンが終われば、千賀は自身初の投手3冠を手にすることになります。

こうして「通算1000奪三振」と、まだタイトル確定ではありませんが「投手3部門トップ」という4つのノルマを果たした千賀。ここぞという試合での勝負強さを、あらためて見せ付けてくれました。

育成選手としてソフトバンクに入団した千賀が、奪三振のスピード記録をつくるほどの大投手になれたのは、その代名詞でもある「お化けフォーク」も大きく貢献しました。見たこともない落差でストンと落ちる、千賀のフォーク。これが150キロ台の真っ直ぐに混じって投じられるのですから、打者にとっては厄介なことこの上ありません。

この「お化けフォーク」のヒントをくれたのが、5日に引退会見を行った中日・吉見一起でした。千賀はまだ育成選手だった2012年1月、ソフトバンクの先輩選手に誘われ、アスリートコンサルタント・鴻江寿治氏が主宰する自主トレ合宿に参加。ここで吉見と出逢います。吉見は前年(2011年)、中日のセ・リーグ2連覇に貢献。リーグを代表するエースでした。

千賀はこれ幸いと、吉見に勝つための投球術を熱心に聞き出して行きました。当時、球はやたらと速いけれど、制球難に苦しんでいた千賀にとって、精密なコントロールを誇る吉見は絶好のお手本でもありました。吉見もまた、積極的に懐に飛び込んで来る千賀に「こいつ、根性あるな」と思ったようで、チームの垣根や立場を超えて、毎年千賀と自主トレを共にするようになって行きました。

そんななか、千賀が「真っ直ぐ以外にもう1つ、決め球を増やしたいんです」と吉見に頼み込み、投げ方を教わったのがフォークでした。吉見直伝の練習法に、独自の研究を加えて試行錯誤を続けた末にたどり着いたのが、人差し指だけを縫い目にかけ、真っ直ぐを投げるときよりも強く腕を振ることでした。「この投げ方が、いちばん落ちる」。

打者から見ると、真っ直ぐかと思いきや、急に視界から消えるこの「お化けフォーク」を武器に、球界を代表するエースへと成長して行った千賀。まだまだ今季の戦いは終わっていません。

そんなときに飛び込んで来た、吉見引退のニュース。エースとしての心構えや、飽くなき探究心が大事だと教えてくれた大先輩の引退は残念ですが、この後に控えるCS、そして4連覇が懸かる日本シリーズでもエースにふさわしいピッチングを見せて勝つ……それが吉見に対する、最高の恩返しでもあるのです。


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