周東佑京の盗塁ラッシュを支える「名セコンド」の存在
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、10月29日のロッテ戦で、12試合連続盗塁のプロ野球新記録をつくったソフトバンク・周東佑京選手にまつわるエピソードを取り上げる。
10月27日からペイペイドームで行われた、ソフトバンク-ロッテ3連戦。初戦に勝って3年ぶりのリーグ制覇を決めたソフトバンクは、緩むことなく翌28日の第2戦も連勝。この試合で、パ・リーグ盗塁王争いのトップを走る周東が「11試合連続盗塁」を達成しました。このとき周東はチェン・ウェインの牽制球に誘い出される形になり、「ヤバイと思った」そうですが、そのまま二塁へ猛進して間一髪セーフ。驚くべき剛脚を披露しました。
11試合連続盗塁は、“世界の盗塁王”福本豊氏に並ぶプロ野球タイ記録(福本氏は1971年・1974年に計2度達成)。49年ぶりのプロ野球記録更新に王手を掛けました。並の選手ならプレッシャーで脚がすくむところですが、さすがは球界を代表するスピードスターの周東。29日の第3戦、初回に内野安打で出塁するとすかさず二盗に成功。今季48個目の盗塁を決め、あっさりと「12試合連続盗塁」の偉業を達成してしまいました。
「1打席目からヒットで出塁できたので、思い切ってスタートを切りました。自分1人で達成できる記録ではないので、後ろの打者の方々のおかげですし、感謝しています。先制点にもつながってくれましたし、成功できてよかったです」(周東、ヒーローインタビューより)
記録を塗り替えられた福本氏は、周東がタイ記録を達成した際、公式インスタグラムで快挙を讃えると同時に、こんなコメントを記しました。
「何より毎試合出塁してるのが凄い。いつも笑い話みたいに言われますが『盗塁の秘訣は……まず塁に出ること』やからね」
福本氏は、周東と対談した際にも「走りたいなら塁に出ろ」というアドバイスを直接本人に伝えています。当然ですが、盗塁するためには(代走でない限り)ヒットを打つなり、四球を選ぶなり、まず自力で塁に出なければなりません。「11試合連続盗塁」をマークしたということは、同時に「11試合連続出塁」も達成したことになります。出塁は1番打者の大事な任務。周東はその役割を十分に果たし、チームの得点力アップにも貢献しているのです。
もともと周東は快足を買われ、一芸タイプの育成選手として入団した選手です。走力は抜群ですが、レギュラーをつかむための課題はバッティング。昨季(2019年)の打率は.196。レギュラー獲りは厳しい数字でした。
ところが、今季(2020年)は、猛練習の成果もあって.269と打率が大幅にアップ(29日現在)。9月の月間打率は24試合に出場し.307、出塁率は.346と目覚ましい成長を見せ、10月も29日現在、25試合で打率.304と3割をキープ。出塁率は355と更に向上しています。
特に目立つのが、日曜日の活躍ぶりです。9月27日のロッテ戦から、10月25日の西武戦まで、5週連続で猛打賞(3安打以上)を記録。今季、日曜日の成績は48打数22安打、打率.458と驚異的な数字をマークしています(25日までのトータル)。
「サンデー佑京」の異名を取っている理由について、本人は「1週間やって来て疲れていて、体の思うがままにやっているのがいいのかな(笑)」。つまりそれだけ自分を追い込んでいる証しです。また、休日で観客が多いほど燃えるタイプなのでしょう。セカンドの守備はまだ粗さが目立ちますが、9月以降はほぼレギュラーに定着。周東が塁に出れば、盗塁を期待してスタンドが沸く状態で、いまや彼はソフトバンクの顔になりつつあります。
筆者も21日に札幌ドームで行われた日本ハム-ソフトバンク戦を、一塁ベースに近い席で観戦しました。周東が出塁すると、周囲の観客の視線はマウンドと打席方向ではなく、一塁上の周東に釘付け(私もその1人です)に。周東は期待どおり二盗に成功。その瞬間、大きな拍手が起こりました。走るとわかっているのに、止められないのがいまの周東なのです。
その“セコンド役”として大きな役割を果たしているのが、本多雄一・内野守備走塁コーチです。現役時代はソフトバンクで2010年・2011年と2年連続盗塁王に輝き、通算342盗塁を記録。2018年限りで引退すると、そのままコーチに就任しました。
実は周東にとって、本多コーチは憧れの存在で、入団した際「本多さんに、プロの世界でも盗塁を多く決められる技術、考え方を聞きたい」と語っていたほどです。周東は2年目、2019年の春季キャンプで、育成選手では唯一主力中心のA組でスタート。指導者になりたての本多コーチからみっちり指導を受け、“プロの走塁”のノウハウを学びました。
そんな特訓の甲斐あって、2019年の開幕直前、周東は支配下登録選手に昇格。周東が出塁すると、一塁コーチャーを務める本多コーチは、相手ピッチャーの特徴や牽制球のタイミングなど、1球ごとに細かい助言を周東に耳打ち。それが役立っていると周東は言います。
セコンド役の本多コーチが褒める周東の長所は「思いきりのよさ」です。「スキがあれば、どんどん行こうと思っている」と言う周東。実は今季、初盗塁を決めたのは意外と遅く、開幕から22試合目でした。「アウトになったらどうしよう?」という恐れが、スタートを躊躇させていたのです。
しかし、「アウトになってもいいから、思い切って行こう」と腹をくくった途端、面白いように盗塁が決まるようになりました。本多コーチの助言も後押しとなり、10月だけで22盗塁を記録(29日現在)。ここ最近の「走れば決まる」状況は何かをつかんだ感があります。
周東が塁に出て盗塁すれば、二塁打を打ったのと同じことになります。たちまち、得点圏に快足ランナーがいるという状況ができ上がり、続く中村晃・柳田・グラシアルに一打が出れば1点。ソフトバンクが10月に入って12連勝の快進撃を見せ、一気に優勝を決めたのは、周東のスチール量産による得点力アップも一因でした。
チームを引っ張る韋駄天・周東の目標は、もちろん自身初の「盗塁王」です。29日現在、2位の西川遥輝(日本ハム・40盗塁)に8個差の48個と独走態勢に入り、不慮のアクシデントがない限り、まず当確と言っていいでしょう。
このまま逃げ切れば、ソフトバンクでは2011年に本多コーチが獲得して以来、9年ぶりに盗塁王が誕生することになります。師匠・本多コーチから継承されたノウハウを武器に、残り試合でどこまで記録を伸ばすのか? 更に、クライマックスシリーズ、日本シリーズでどんな走りを見せてくれるのか? いまから楽しみでなりません。