「ラオウ」杉本を覚醒させた、“イチロー・ジョーンズ・浅村の教え”

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、6月の月間MVPを受賞して波に乗るオリックス・バファローズの杉本裕太郎選手にまつわるエピソードを取り上げる。

プロ野球 パ・リーグ6月度「大樹生命月間MVP賞」を受賞し、会見で=2021年7月6日 写真提供:産経新聞社

『奇跡のような一ヶ月というか、我が生涯の一ヶ月で一番調子がよかったです』

~オリックス公式サイト 2021年7月7日公開記事 より(杉本裕太郎のコメント)

座右の銘でもある『北斗の拳』ラオウの名台詞「我が生涯に一片の悔いなし」をもとに喜びの声をあげたのは、6月のパ・リーグ月間MVPを受賞した“ラオウ”こと、オリックスの杉本裕太郎。今季途中から4番を任されると、6月は打率3割7分5厘、5本塁打、19打点と大暴れ。7年ぶりの単独首位で沸くオリックスを牽引する1人です。

昨年(2020年)までのプロ5年間で1軍出場は76試合だけ。通算本塁打もわずか9本だった男が、今年(2021年)は前半だけで20本に迫る勢いで、一時は打率、本塁打、打点ともリーグ2位につける絶好調ぶり。月間MVP受賞発表の2日前には監督推薦でのオールスター初選出も決まっています。

30歳での遅咲きの覚醒を導いたものは何か? 杉本自身はこんな言葉で今季の意識改革を語っています。

『飛ばそう、飛ばそうと思うと、体が突っ込んでしまうので。そういう意識もなくしているんです。力は8割の意識。あまり振らないようにしているんです』

~『週刊ベースボールONLINE 』2021年5月23日配信記事 より(杉本裕太郎コメント)

ただ、この「8割の意識」に辿り着くまでには、日米を代表する偉大な打者たちの影響もありました。その1人はオリックスの球団OB、イチローです。

杉本が2015年のドラフト10位でオリックスに指名された直後の2016年1月。神戸で自主トレしていたイチローが「一緒に動ける外野手」をオリックスにリクエストした際、たまたま該当したのが杉本だったことから幸運にもイチローとの自主トレが実現。これをチャンスとばかりにイチローを質問攻めにし、すでにいまにつながる打撃の極意は教わっていたのです。

『イチローからの主なアドバイスは2つだけ。「追い込まれてもフルスイングしたい」と考えていた杉本に対し、イチローは「それは違うよ。追い込まれたら冷静に考えた打撃をしないといけない」。さらにメンタル面については「楽しんでやりなさい」』

~『東スポWeb』2018年7月18日配信記事 より

象徴的だったのが今年4月20日、西武戦での決勝打です。3球で追い込まれた後、際どいコースをファウルでしのぐと、9球目の内角球をレフト線へ。「簡単に三振しないように、コンパクトに」という意識がもたらしたタイムリーでした。

また、「楽しむ」ことについても、月間MVP受賞の際に次の言葉で実践できていることを明かしています。

『30歳での才能開花に「1軍の試合に毎日出る経験が、去年まであまりなかった。今は、すごい楽しい」とし「心の余裕が1番、大きいと思う。ここで打たないと2軍に落ちるとか、そういう変なことを思わなくなりました」

~『日刊スポーツ』2021年7月7日配信記事 より

2人目は、2020年からチームメイトになったメジャー通算282発を誇るアダム・ジョーンズの教えです。オリックスの外野陣を集めたジョーンズ主催の食事会で、杉本はイチローのときと同様、ジョーンズを質問攻めにしたと言います。

『「バッティング練習ではどういう意識で打っているんですか?」と杉本が尋ねると、ジョーンズは、「ホームランをバカバカ打つんじゃなく、例えばランナー二塁の場面を想定して、どうやってランナーを返すのかを意識して打つ。そういうことを常に心がけている」と答えたという』

~『Number Web』2020年2月26日配信記事 より

さらに、コロナ禍で生まれた自主トレ期間中にも、杉本はジョーンズと練習時間を合わせてさらなる学びを得たのです。

『コロナ禍の昨年の自主トレ中、杉本の打撃を見て「お尻をボールにぶつける感覚が大事。両手と上半身はくっついてくるからバット(のヘッド)が出る」と指摘。腕力に頼っていた打撃から、軽く振っても飛ぶ。大きなコツを会得した』

~『BASEBALL KING』2021年5月13日配信記事 より

今季は、代打の切り札としての起用が多いジョーンズですが、スタメンの際は4番杉本、5番ジョーンズという並びで打線をつなぐことも増えています。後半戦もこの師弟コンビのバットがオリックスの浮沈の鍵を握りそうです。

そして3人目は、楽天の浅村栄斗。実は杉本、今季の使用バットを浅村選手と同じタイプのものに変更しているのです。

『1学年上の楽天浅村のフリー打撃を見た。「あんなすごい打球なのに、『浅村さんのバットは軽い』と聞いて。打者として好きだし、取り入れようと」。自主トレをともにする楽天森原を通じてバットを入手。試合前にあいさつするようになり「バットは軽い方が操作性が良い」と助言ももらった』

~『日刊スポーツ』2021年3月23日配信記事 より

この“浅村バット”の効果もあって、今季はこれまで以上にポイントを近づけて対応することができるようになり、ボール球を振ることが少なくなったと言います。

何よりすごいのは、彼ら偉大な打者たちを質問攻めにし、面識がなくてもバットが欲しいと直言できるハートの強さなのかも知れません。来たるオールスターでは、そんな憧れの浅村とも初共演するだけに、すでに「いろいろ聞いてみたい」と“質問攻め宣言”をしています。

もちろん、浅村以外のパ・リーグの強打者たちも質問攻めにする絶好の機会。だとすると後半戦、さらに進化したラオウの打撃が見られる可能性も。後半戦もその打棒に期待です。


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