ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月26日放送)に政策研究大学院大学教授で政治学者の竹中治堅が出演。自民党総裁選について解説した。
自民党総裁選、9月29日投開票
菅総理大臣は8月25日、自民党本部で二階幹事長らと会談し、9月17日に告示、29日に投開票を行う日程を正式決定した。
飯田)「総裁選を粛々と実施して欲しい」ということを菅総理は幹事長に伝えたそうです。今回の総裁選、まず現職の菅さんが出るかどうかというところも含めて話題になっていますが、どうご覧になりますか?
竹中)いま飯田さんが、「菅さんが出るかどうか」ということをおっしゃったこと自体が、状況の厳しさを表していたと思います。普通、現職の総理が出るのが当然なので。
投開票を9月29日に設定する理由~それまでにワクチン接種率を上げて感染を抑える
竹中)注目したいのは、投開票を9月29日ギリギリに持って来たなということです。菅総理はワクチンが進みさえすれば感染は収まると期待していると思うのです。そうすると、総選挙もそうなのですが、新規感染者数と支持率が連動しているのは明らかですので、総裁選をできるだけあとにすれば、感染が収まり、支持率も上がるのです。全国民の4割や5割というような話を、首相が昨日(25日)もしていたのですが。
飯田)ワクチンの接種率ですね。
竹中)重要なのは、15歳~64歳、現役世代のワクチン接種です。高齢者はいま約85%と驚くべき数字を叩き出していて、これは菅首相の功績だと思うのですが、これだけ感染が拡がってしまっているのは、15歳~64歳の人たちのワクチン接種が進んでいないからです。この世代で2回目の接種が済んでいるのは30%くらいです。
1日0.5~0.6%で上がっている現役世代のワクチン接種率~総裁選までには40%台後半に
竹中)大体1日0.5%~0.6%くらいで接種率が上がっています。総裁選まで30日くらいあるので、単純に考えると40%台後半くらいまでは行くのではないかと思います。しかし、いまのデルタ株のパワーからすると、感染を抑えるには少し弱いなというところで、支持率が回復するかどうかは、少し厳しい状態で臨まなければいけない。今回重要なのは、一般党員の投票があるということなのです。
一般党員の投票もあるフルスペックの総裁選~支持率に影響される一般党員
飯田)フルスペックの総裁選ということですね。
竹中)フルスペックではやらないのではないかという報道も見た記憶があるのですが、やらないわけにはいかない。一般党員は、皆さん内閣支持率的な行動をするので、首相が出馬する場合は、かなり厳しい。現職だから有利に戦いを運べるかどうかはわからない。
飯田)地方票、党員票は別の候補に行く可能性もあるし、今度はそこと国会議員票との食い違いのようなものをどのように捉えるのか。
竹中)そうですよね。ただ、国会議員も岸田さんが出るということです。これで菅さんと岸田さんの一騎討ちということになる。下村さんと高市さんも出ると言われていますが、軸は「菅対岸田」になると思います。そのときに重要なことは「感染状況と支持率」です。この先、メディアも支持率を出して来ると思います。テレ朝のANNが直近で出した支持率は25%という数字でした。
総裁選にも大きく影響する支持率
飯田)低いところはそのぐらいで、高いところであっても30%台前半ぐらいの支持率になっています。これだけの低迷のなかで、トップを決めるということになる。このようなことはかつてあったのですか?
竹中)最近では政治改革をしたあとに、現職の支持率が低いなかでのフルスペック総裁選は記憶にないですね。大体、現職の支持率が高いままやるのが、これまでのフルスペック総裁選です。福田赳夫元首相と、そのとき幹事長だった大平正芳さんがガチンコでやった1978年の総裁選があるのですが、このときは天の声にも変な声があると言って、福田さんが負けたということで、禍根を残した総裁選でした。私はこれについて、福田さんの支持率が高いのに負けたから、変な声だと思っていたのですよ。
飯田)そういうイメージがありますね。
竹中)ところが改めて調べたら、そのようなことはなく、福田内閣の支持率は20%台で、不支持率が35%ぐらいだったのです。このときの一般党員に対して、私たち政治学者が信じている説は、「田中派の秘書軍団が自民党の党員のところに個別訪問をして、『大平に入れてくれ』と言ったから勝った」という説で、伝説として残っているのですが、いやいやと。
飯田)そうではなかったと。
竹中)秘書によるローラーはあったのかも知れませんが、福田さんの支持率が高ければ、一般党員も現職の福田さんに入れていた可能性はあります。そのくらい、支持率は大事だと思っています。
派閥よりも大事な支持率と感染状況
竹中)「派閥、派閥」という報道が多いのですが、派閥の統率力は政治改革後、弱くなっています。麻生派がどうのとか、二階派がどうのとか、そのような話をされるのですが、派閥が「現職総理を推す」と言ったところで、特に若手の人たちは、自分の選挙区では「どうなっているのか」と言われているわけです。その人たちは、「次の選挙の顔として、どちらがいいか」ということを考えて判断すると思います。
飯田)自分の選挙にとってどちらがという。
竹中)その意味では、支持率と感染状況は非常に大事で、首相にとっては感染を抑えるということが大事なことなのだと思います。ですので、菅さんはいま以上のドラスティックな対策を取った方がいいと思います。
多くの国民はより強い対策を求めている~調査ではロックダウン法制を求める人は60%
飯田)いまのままの感染対策、経済と両睨みなのかどうか。宣言は出すけれども、それがズルズルと続くということが、イメージとしても続いてしまっています。
竹中)ロックダウン法制を求めろということは、ANNの世論調査では60%台なのです。「Yahoo!ニュース」の「みんなの意見」(※注1)では、約80%の人がロックダウンと言っていて、このデータが示しているのは、多くの国民はよりドラスティックなものを求めているということです。ロックダウンは無理ですが、休業要請をもう少し広範にかけて、人の流れを抑えるということを、「みんなが従うのなら、自分も従う」ぐらいの発想でいるのではないかと思います。そうすれば、都市ではまだかなり感染者が伸びていますが、それを抑えられると思います。どうしてそのようなことをしないのかなと、私は思って見ています。
わかりやすい数値を示して国民に訴えるべき
飯田)竹中さんは横浜の市長選が終わった直後に、「Yahoo!ニュース」に論考を出されていますが、そこでもイギリスの例なども引きつつ、ロックダウンの可能性も論じています。
竹中)菅首相は、「ロックダウンは日本には馴染まない」と言っていて、「ワクチンが最も効くからワクチンをやって行く」と言っています。イギリスもワクチンで平常まで回復したということは確かですが、ワクチン接種率が上がる前までは、行動を制限していたのです。
飯田)そこについて、「そうなのか」と思いながら読みましたが、イギリスも制限していたのですね。ロックダウンをしながらワクチンを打ち続けていた。
竹中)ロックダウンを徐々に緩和しながら、しかし、レストランなどは閉めていたのです。日本はやっていますから、そこまでは厳しくない。
飯田)イギリスはそのとき、「ワクチンの接種率がここまで行ったら緩和する」というようなことは数値で示していましたか?
竹中)数字では示していなかったと思います。
飯田)数値で示してくれると、「ここまで頑張ればいいのか」と指標でわかりますよね。
竹中)本当にそうなのです。このまま行けば、現役世代のワクチン接種率は10月には60%ぐらいになると思います。そうすると相当変わって来るはずです。首相もいまが最も辛いときなのだと。「しかし、必ずよくなるはずだ」と昨日(25日)も言っていましたけれどね。
飯田)「光が」と言っていましたね。
竹中)だからこそ、いまは医療の負担を緩和するということを言えば、みんなも納得して安心すると思うのですが。
飯田)しかも「1日0.5~0.6%ずつ上がって来ている」というようなことは、いま聞いて初めて知ったのですが、そのようなところも言ってくれれば、具体的な説得力が見えて来るのですが。
竹中)そのようなことを、フリップなどを出して言えばいいのです。昨日もよく聞いていたら言っていましたよ。「50歳台の1回目の接種率は50%を超えた」と言っていました。
飯田)よく聞くと、というところですか。
竹中)冒頭に「このようなスパンで行く」とフリップを出せばいいのですよ。そのようなことをなぜしないのでしょうか。
※注1:統計に基づく世論調査ではありません
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