ホールド日本新記録 ヤクルト・清水昇の「聞く力」
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、リーグ制覇に向けてひた走る東京ヤクルトスワローズの絶対的セットアッパー・清水昇投手にまつわるエピソードを取り上げる。
優勝マジックが着実に減り、2015年以来、6年ぶりのリーグ制覇が目前に迫って来た東京ヤクルトスワローズ。その原動力と言えば、3番・山田哲人、4番・村上宗隆の100打点コンビが真っ先に思い浮かびますが、投手力も大きな要因です。チーム防御率はリーグ2位の3.34(10月17日現在)と安定感が光ります。
ただ、先発陣は小川泰弘と奥川恭伸が9勝ずつと、現時点ではまだ2ケタ勝利がゼロ。つまりは救援陣の奮闘があってのこのチーム防御率なのです。そんな救援陣のなかでも、ヤクルト快進撃の陰の主役とも言えるのが「8回の男」こと、プロ3年目の清水昇です。特にこの1週間は、清水にとって節目となる日が続きました。
10月14日には、今季49ホールドポイント(46ホールド+救援勝利3勝)を記録し、2年連続での最優秀中継ぎのタイトル獲得が確定。さらに翌15日、自身25歳の誕生日に今季47ホールドを挙げ、2010年に中日・浅尾拓也がマークしたシーズンホールドの日本記録に並びました。1日置いて、17日のDeNA戦で今季48ホールドを挙げ、一気に日本新記録を達成したのです。
その活躍の背景を探ると、清水の人となりにも通じる、ある特徴が見えて来ます。政治の世界においてもトレンドになっている、人の話を「聞く力」です。振り返れば、プロ1年目の2019年は11試合で0勝3敗、防御率7・27。即戦力として期待されたドラフト1右腕だったことを考えると、周囲も本人も到底納得できる内容ではありませんでした。
迎えた2年目の昨季(2020年)、高津新監督のもとでリリーフ起用の方針が固まると、清水はある行動を始めます。先輩投手たちへの「質問攻め」でした。
『神宮でのナイターゲームの際は午前9時半頃に起床し、10時頃家を出る。クラブハウスに早く来て、ストレッチやトレーニングをしながら、石川ら経験豊富なベテランに質問攻めをした。
「あれだけ長く現役を続けられている方が、あれだけ早く来てやっているのに、1年目の自分は1軍に行けたこと自体で喜んでいる部分があった。活躍するには何が必要なのか、ということをわかっていなかった」』
~『サンケイスポーツ』2021年7月10日配信記事 より
こうした朝活以外に、試合中のブルペンでも、待機中には清水による先輩投手たちへの聞き取りが続きました。
『ブルペンでは、先輩である石山泰稚、近藤一樹、五十嵐亮太からの助言も参考になっているという。
「体、心のケアの大事さを教えていただきました。打たれることもあるけど、そこで切り替えて、次にどういう気持ちで臨むのかということや、球場に早く来て体を動かしたり、ほぐしたりなど、毎日の準備についても教わりました」』
~『web Sportiva』2020年8月12日配信記事 より
プロで偉大な記録を残すような選手は、よくも悪くも唯我独尊タイプで、人に意見されてもぶれずに自己流を貫くタイプが多いのもまた事実です。そんななか、先輩たちの声に必死に耳を傾け、日本新記録をつくった清水は異色の存在かも知れません。この「質問魔」で「聞き上手」な一面について、清水本人はこう語っています。
『チームには実績のある方が多くいるので、気になることがあれば聞かないともったいないですよね。僕としては、話を聞かないで終わるんだったら、話を聞いて、最善を尽くして打たれるほうが悔いは残らないと思うんです』
~『web Sportiva』2021年3月10日配信記事 より
さかのぼれば、清水の得意球の1つであるシンカーも、帝京高校時代にツテを頼り、高校OBである亜細亜大時代の山﨑康晃(現DeNA)に教えを請うたもの。初出場となった今年(2021年)のオールスターでは、その“恩人”山﨑と一緒に出場とあって、試合前にはこんな抱負を述べていました。
「心に留めている言葉があります。帝京高の先輩でもある康晃さん(DeNA・山崎)から頂いた『重圧を受け止めるんじゃなくて、重圧を自分で楽しみなさい』という言葉です。まだ重圧を楽しめる域には到達していないですが、そう言われたときに腑に落ちる感じがしました。配球やメンタル面の細かいところも助言していただきました。今回、同じベンチに入れるのは光栄ですし、いろいろ教わりたいです」
~『サンケイスポーツ』2021年7月16日配信記事 より
「聞く力」で得た学びを自らのピッチングに反映し、ついには2年連続での最優秀中継ぎのタイトルと、ホールドプロ野球記録を樹立するまでに至ったのです。今季、残された目標はもちろん「優勝」。実は清水、これまでの野球人生では優勝と縁遠いキャリアを歩んで来ました。
帝京高校時代、最後の夏は東東京大会の決勝まで全6試合に登板する活躍を見せたものの、甲子園にあと一歩届かず。國學院大学時代も2年の春、勝てば東都大学リーグ優勝が決まる試合で先発を務めましたが、初回で3失点を喫して降板、優勝を逃しました。4年生のとき、自身は東都リーグ最優秀防御率のタイトルを獲得しながら、この年もまた優勝の夢は叶いませんでした。
こうした雌伏の期間を経て、目前に迫ったリーグ制覇。先発投手や、胴上げ投手となるクローザーに目が行きがちですが、今年は「8回の男」の投げっぷりにも、ぜひ注目して欲しいと思います。