2021プロ野球 「劇的すぎたサヨナラシーン」5選
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、2021年のプロ野球で特に印象に残った「サヨナラ打」にまつわるエピソードを紹介する。
両リーグとも前年最下位のチームが優勝するなど、劇的な展開が多かった2021年のプロ野球。今年のサヨナラシーンのなかでも、特にドラマティックだった5つの場面を振り返ります。
■4月21日・10月15日 ロッテ・岡大海
今シーズンのサヨナラゲームを振り返るなら、忘れてはならないのが「ヒロミナイト」こと岡大海(おか・ひろみ)です。2018年、シーズン途中で日本ハムからトレードで移籍。4月と10月の2度にわたって「劇的すぎる」と話題になったサヨナラ弾を放っています。
1度目は、4月21日の対日本ハム戦。1点を追う9回裏、2死一塁の場面で、バックスクリーンに起死回生の逆転サヨナラ本塁打を放り込みました。ロッテの逆転サヨナラ弾は2001年のボーリック以来20年ぶりの“珍事”で、日本人選手では97年の初芝清以来24年ぶりと、球団の歴史に残る一発となりました。
2度目のサヨナラ打は、チームが優勝争いを繰り広げていた10月15日の対ソフトバンク戦。1-1の同点で迎えた9回裏、またもや2死一塁の場面で、今度は左中間スタンドへサヨナラ2ランを放ったのです。
岡は俊足が武器の選手で、シーズン本塁打は2019年と今季(2021年)の6本が最高。決してスラッガータイプではないのに、ここぞという場面で意外な2発のサヨナラアーチは、ファンの記憶に強烈な印象を残しました。
ちなみに「ヒロミナイト」と命名したのは、球団側です。記念グッズも販売、こちらもファンの好評を呼びました。
■6月13日 オリックス・T-岡田
25年ぶりのリーグ優勝を決めたオリックス。生え抜きのベテランも劇的な一発を披露してくれました。6月12日にセ・パ交流戦優勝を決めたオリックスは、翌13日に本拠地・京セラドーム大阪で広島と対戦。序盤に8-4とリードしたオリックスは、8回に1点、9回に3点を失い、土壇場で8-8の同点に追い付かれてしまいます。
9回裏、押せ押せムードの広島は、デビュー以来無失点、不敗記録を続けていた新人クローザー・栗林良吏をマウンドに送りました。
ここで抑えられたら、試合は引き分け。勝ち試合をものにできないと、チームの勢いも止まったりするものです。栗林相手に粘り、2死満塁と一打サヨナラのチャンスをつくったところが、今季のオリックスのひと味違うところでした。
ここで打席に立ったのは、プロ16年目のT-岡田でした。栗林の投じた150キロのストレートをはじき返すと、打球はライト前へ……チームに6連勝をもたらす劇的なサヨナラヒットとなったのです。
このサヨナラ打は、オリックスの「最後まで諦めない野球」を象徴する一打であり、栗林はデビュー23試合目にして、初失点と初黒星を喫することに。今季セ・リーグ新人王に輝いた栗林の不敗記録を止め「プロの厳しさ」を教えた一打でもありました。
■7月6日 日本ハム・高濱祐仁
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『いずれ記録は止まるとは思いましたけど、自分がとめてやるという強い気持ちで打席に入りました』
~『サンケイスポーツ』2021年7月6日配信記事 より
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記録を止めた、という意味ではこちらも劇的な一打でした。7月6日の北海道・旭川スタルヒン球場。試合が進むにつれて雨脚が強くなって迎えた9回裏、3対3の場面で、2死一塁、西武のクローザー・平良海馬から高濱の放った打球は、センターの頭上を越えフェンスを直撃。ここまで39試合連続無失点のプロ野球記録を更新中だった平良にストップをかけるサヨナラ打となりました。
ちなみに、このときサヨナラのホームを踏んだのは、高濱と橫浜高校で同級生だった淺間大基。今年の横浜高勢は、松坂大輔の引退試合で近藤健介が「最後の対戦相手」として打席に立ち、試合後のセレモニーでは近藤、高濱、淺間、さらには万波中正らも松坂の胴上げに加わるなど、「サヨナラ」に縁のあるシーズンとなりました。
■9月7日 広島・坂倉将吾
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『(鈴木)誠也さんが調子良いので、絶対回ってくると思っていた。何とかしてやろうと思っていた』
~『中国新聞デジタル』2021年9月7日配信記事 より
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9月7日、マツダスタジアムで行われた広島-中日戦、3-7と4点差で迎えた9回裏、広島は3番・西川龍馬、4番・鈴木誠也が連続タイムリーを放ち、2点差に追い上げます。なおも2死一・二塁の場面で打席に立ったのは、プロ5年目の坂倉将吾でした。
ここで坂倉が放った打球は、何とライトスタンドへ! 8-7といわゆる「お釣りなし」の逆転サヨナラホームランで、球場のボルテージは最高潮に達しました。23歳の坂倉にとって「野球人生でも初」というサヨナラ弾。お立ち台で「最高でーす!」と3度も絶叫したのも納得です。
ちなみに、最終回、4点差以上つけられた試合で広島が逆転サヨナラ勝ちを収めたのは、実に24年ぶりのこと。カープの歴史に残る一発となりました。
また、今年の坂倉と言えば、打率.317で首位打者に輝いた鈴木誠也とシーズン終盤までタイトル争いを演じ、最終的には打率.315をマークしました。鈴木のポスティング移籍交渉開始で来季は「ポスト誠也」が課題となるカープ。坂倉はその一番手としてますます期待が集まります。
■10月7日 ヤクルト・山田哲人
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「打った瞬間は終わったと思ったんですけど(笑い)。何とか勝ち取ったヒットだったんで良かった」
~『スポニチアネックス』2021年10月7日配信記事 より
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ペナントレースも大詰めの10月7日、神宮球場で行われたヤクルト対巨人戦での劇的なサヨナラ打は、キャプテン・山田哲人が生んだ実に泥臭い一打でした。
9回裏、2死二塁の場面で、山田が放った打球は力なく、ショート坂本勇人のもとへ。引き分けでゲームセットかと思われましたが、山田は最後まで諦めずに全力疾走。その執念が実を結び、一塁へ到達すると同時にファーストが送球を弾いて判定はセーフになったのです。この送球の間に、二塁走者・塩見泰隆が迷わず三塁を蹴ってホームに向かい、1-0でヤクルトが劇的勝利を収めました。
今季からキャプテンに就任し、これまで以上に積極的にコミュニケーションを取ろうとする姿勢が目立った山田。常々「自分は元気がないかも知れないし、覇気もないかも知れない。それでも野球に対する姿勢や考え方、結果で引っ張って行きたい」と語っていたように、言葉よりもプレーでチームを鼓舞するタイプのキャプテンです。
だからこそ、ボテボテの内野ゴロでも全力疾走を怠らなかった山田のひたむきな姿勢は、チームに勇気を、ファンに感動を与えました。
もちろん、印象に残るサヨナラ打は他にもたくさんあります。考えてみればサヨナラはすべて劇的なのですが(笑)。来季(2022年)は延長戦も復活しそうで、サヨナラ劇を見る機会も増えるはず。ファンを沸かせる試合を期待しましょう。