黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「あさナビ」(4月6日放送)に健康社会学者で気象予報士の河合薫が出演。「信頼」という言葉の持つ意味について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「あさナビ」。4月4日(月)~4月8日(金)のゲストは健康社会学者で気象予報士の河合薫。3日目は、人生を生きていくなかでたどり着いた「信頼」の持つ意味について---
黒木)2022年3月に『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』というご本を出版されました。「半径3メートルの幸福論」というサブタイトルがありますが、やはり周りの環境が大事だということなのでしょうか?
河合)社長賞をもらうようないいパフォーマンスを発揮したとしても、会社のなかで、日常的に「ねえねえ」と声をかけられる人たちとのいい関係性がなければ、「いいパフォーマンスを発揮できたな」と心が温まることもないのです。
黒木)周りの人たちとのいい関係性があってこそということですね。
河合)どれほど数値的に素晴らしいことをやっても、半径3メートルの人との「心が温まるような触れ合い」が持てなければ、孤独感を募らせてしまうし、居場所を得ることはできませんよね。
黒木)「信頼と安心はイコールではない」、「信頼というのは人を頼ることで、日本人はそれをイコールにしているから何かがあったときに壊れていく」と書かれていましたが、その辺りのお話も伺えますか?
河合)私たちは、「人から信頼されるためにはどうすればいいのか」ということをよく考えますが、人は自分が信頼されるからこそ相手を信頼するのだと思うのです。
黒木)自分が信頼されるからこそ。
河合)安心というのは自分のためにすることなのです。私がここで言う信頼というのは、「1人の人間として、まずは握手してみようよ」と自分の心を開いてみることです。そうしたなかで、その人と触れ合うことによって、「この人は苦手だな」、「この人は嘘をつく人だな」と思えば、そこからは自分で決めればいいことなのです。
黒木)そのときに決めればいい。
河合)まずは自分で胸を開いて、ただの人として握手をすることから始めてみる。「信頼しないで裏切られるよりも、信頼して裏切られた方がいい」と思うことができます。
黒木)そのようなこともご本のなかで書かれていましたね。
河合)「裏切られてもいいや」と思ってみると、意外と気楽に人のことを信頼できます。
黒木)それは年齢を重ねていった人生の経験のようなものから、そのような言葉が生まれてくるのかなとも思いました。
河合)そうですね。私は「信頼」という言葉をなかなか使えませんでした。健康社会学を学ぶために大学院に入ったときは当時38歳でした。そこで人を信頼する、信頼できる人がいるということが、人の生きる力であり、幸せへの力を引き出すことにつながるということを学びました。
黒木)健康社会学から。
河合)自分のなかで「信頼とは何なのだろう」ということを考えると上手い言葉が生まれてこないのです。私がストレートに信頼という言葉を公に伝えたのはこの本がはじめてかも知れません。
黒木)それはやはり年齢のなせる技ですか?
河合)そうですね。言葉は自分と向き合うものになるではないですか。文章を綴るときに出てくる言葉は、自分の心のなかにあるものを乗せる船のようなものだと思います。
黒木)言葉は。
河合)なかなかその言葉と向き合い、心のなかにあるものを紡いでいくことができない。しかし、50歳を過ぎて、「信頼」という言葉をシンプルに使えている自分がいて、それは自分でも驚きでした。
黒木)「信頼」という言葉を。
河合)いままで、なぜあれほどまでに信頼という言葉を使うことを拒んでいたのだろうと。それは私自身で「どこか安心したい」というような気持ちがあって、自分の言葉として使えていなかったのだなと思うのです。でもいまは、「信頼して裏切られてしまうのなら、もうそれでいい」と本気で思えている自分がいます。
黒木)信頼をしないで裏切られるよりは、信頼をして裏切られる方がまだマシだと。
河合)この本でも何回も書いているのですが、「愛をケチるな」ということを人にも言っていますし、自分のなかでもテーマになっています。愛をケチるなと思えば、「もう信頼しよう、いいじゃないか、裏切られても。向こうには向こうの事情があるのだ」と思えるようになります。
河合薫(かわい・かおる)/ 健康社会学者・気象予報士
■小学4年から中学1年まで米国アラバマ州で過ごす。
■千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸入社。
■1994年、気象予報士第1号としてテレビ朝日系 「ニュースステーション」等多数のメディアに出演。
■2004年、東京大学大学院医学系研究科修士課程修了。2007年に博士課程を修了(Ph.D.)。
■産業ストレスやキャリア発達、健康生成論の視点から調査研究を進め、働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数はおよそ900人にものぼる。
■長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学医学系研究科講師、早稲田大学非常勤講師等を務め、現在は健康社会学者として、執筆・講演活動、テレビ・ラジオ等でも発信を続け、「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究に関わるとともに、活動を行っている。
■2022年3月16日、『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』を発売。
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳