話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は首位を独走する東京ヤクルトスワローズの正捕手・中村悠平選手にまつわるエピソードを紹介する。
史上最速のマジック点灯で勢いが止まらない、東京ヤクルトスワローズ。チーム打率、本塁打数でともにリーグトップの強力打線を牽引するのは、本塁打・打点でリーグトップを快走する4番・村上宗隆ですが、“攻守の要”という意味ではこの人を忘れるわけにはいきません。昨年(2021年)の日本シリーズでMVPにも輝いた正捕手・中村悠平です。
今季は開幕1ヵ月、下半身のコンディション不良で離脱する出遅れがあったものの、中村の復帰をきっかけにするようにチーム成績も向上。中村は捕手としてのリード面だけでなく打撃面でも、村上の後を打つ5番〜6番打者としてチームを支えています。
特に交流戦後、リーグ戦が再開してからのここ3週間ほどは、打撃面で村上宗隆にも見劣りしない破壊力を披露しています。
6月22日の中日戦で、1試合5打点を記録すると、1日欠場を挟んで迎えた24日の巨人戦ではさらなる活躍を見せました。第1打席で巨人のエース・菅野智之から今季1号の3ランを放つと、3回にも2打席連発となる2号2ランを放つなど計4安打。出場2試合連続で5打点という大当たりを見せました。
「人生初」と語った1試合2発について、中村本人はこんな微笑ましいコメントを残しています。
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『気持ち良かったですし、どうリアクションしていいか分からなかった。ドヤっていいのか分からなかったので、とりあえず平常心で走ってました』
~『スポニチアネックス』2022年6月24日配信記事 より
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さらに、8日後の7月3日、DeNAとの試合でも初回に先制の2ランを放つと、6回にもこの日2本目の2ランで計4打点。SNSでも「さすが27番」「それはマジで古田敦也」といったコメントが飛び交いました。
今季から「27番」をつけている中村。「スワローズの27番」と言えば、1978年に球団史上初のリーグ優勝&日本一を成し遂げた際の正捕手・大矢明彦氏(1971~1985、現ショウアップナイター解説者)や、90年代のヤクルト黄金期を牽引した名捕手・古田敦也氏(1990~2007)がつけた伝統の背番号です。
兼任監督まで務めた古田氏が2007年に退団して以降、「27」は昨年まで14シーズンも空き番号になっていました。いわば「準永久欠番」扱いだったこの「27番継承」について、中村はこう語っています。
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『実は、日本シリーズの前に球団から背番号27の打診がありました』
『日本一になったときに「伝統のある番号を着けて、もう一度日本一を目指すんだ」という思いになったんです。今後の自分の野球人生において、高みを目指していくという思い。また、プレッシャーをかけるという意味でもありました』
~『週刊ベースボールONLINE』2022年2月5日配信記事 より
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特に、27番の前任者である古田氏は、中村にとって最大の憧れ。去年・今年(2022年)と春季キャンプで臨時コーチを務め、徹底指導してくれた“師匠”とも言える存在です。“27番襲名”にあたっては、その古田氏からこんな言葉をかけられていました。
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『打てる捕手として3割2分を目指して。そうすれば27番をつけることに誰も文句を言わない。“古田を超えたな”と』
~『サンケイスポーツ』2022年2月15日配信記事 より(古田敦也氏の言葉)
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当初は「目標は高く、3割を目指したい」と語っていた中村も、憧れの大先輩からハッパをかけられ、目標を上方修正し、こう切り返しました。
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『僕はチームが日本一を目指すとともに、個人的には3割2分を打って少しでも古田さんに近づけるように』
~『サンケイスポーツ』2022年2月15日配信記事 より(中村悠平の言葉)
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ここ3週間の中村の打棒は、まさに「打てる捕手」として古田超えを期待させる頼もしさです。現在の打率は規定打席未満ながら打率3割超え。交流戦以降に限れば46打数15安打で打率.326と、見事に目標をクリアしています。
実は昨季も、打率.279はチームトップで、既に「打てる捕手」の片鱗を見せていた中村。今季は好調なスワローズ打線のなかにあって、ここからどんな役割を見せてくれるのか? リード面だけでなく、背番号27のバットにも注目です。