ファンも「チームスワローズ」 高津監督が築いた強固な絆
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、9月25日にセ・リーグ連覇を飾った東京ヤクルトスワローズ・高津臣吾監督と選手・スタッフの絆にまつわるエピソードを紹介する。
9月23日、優勝マジック「4」で、2位・DeNAとの直接対決3連戦を迎えたヤクルト。勝てばマジックが2つ減るので、3試合で2勝すれば連覇が決まる状況でした。しかし台風接近の影響もあり、天気は大荒れ。23日の初戦は、雨が激しくなって3度も試合が中断しました。
この日、ヤクルトは大西広樹投手を先発させましたが、雨の影響もあってか制球に苦しみ、日本人最多となるシーズン56号本塁打が期待された村上宗隆選手も不発。8回まで1-8と一方的なリードを許す展開になりました。9回ウラ、ヤクルトはようやく反撃。ホームラン2本で5点を奪って2点差まで追い上げますが及ばず、マジック4のまま24日の第2戦を迎えます。
この日、東京都心は試合開始前に豪雨に見舞われ、通常ならおそらく中止になったであろう状況でした。雨はその後何とか上がったものの、神宮球場の外野フェンス手前には大量の水が溜まり、まるで池のような状態に。
筆者も球場にいて「これ、どうやって排水するんだろう?」と様子を見ていると、ポンプだけでは間に合わないので、何と50人以上のスタッフが総出でバケツを片手に水抜き作業を敢行。時間は掛かりましたが、午後7時20分過ぎ、外野の“池”はすっかり消え、1時間半遅れの7時半にプレイボール。スタンドからは大きな拍手が送られました。
「何としても、このホーム3連戦でファンに胴上げを見せてあげたい」というスタッフの熱意に、選手たちも応えます。前日のお返しをするかのように8-1で快勝。これでマジックは2つ減って「2」となり、ヤクルトは連覇に王手を掛けました。
勝てば優勝が決まる25日の第3戦は、幸い好天に恵まれ、ヤクルトは小川泰弘、DeNAは今永昇太が先発。互いに譲らぬ投手戦となり、小川は6回、今永は7回で得点を許さないまま降板。後を受けたリリーフ陣も踏ん張り、試合は0-0のまま9回ウラに。
DeNAのピッチャーは3番手・エスコバー。ヤクルトは先頭のオスナが内野安打で出塁すると、ここで前日途中退場した塩見が代走で登場。続く中村悠平がバントで送って、一死二塁と一打サヨナラのチャンスを迎えます。
本来ならサンタナの打順でしたが、その直前、サンタナは8回の守備中に突然不調を訴え交代。代わりにルーキー・丸山和郁が7番・ライトに入っていました。
ヒットが1本出れば優勝が決まるこの場面。代打の切り札・川端慎吾もベンチに残っていましたし、当然代打だと思いましたが、高津監督は動かず、そのまま丸山を打席に向かわせました。試合後の共同会見でこの采配について聞かれ、「延長戦になった場合の守備のことも考え、そのまま打たせた」と答えた高津監督。そして、この判断が「吉」と出ます。
丸山は1ボールの後、エスコバーの投じた2球目をセンターに弾き返して、塩見が歓喜の生還。劇的な「ルーキーのサヨナラヒット」で、ヤクルトの連覇が決まりました。
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『気持ちの整理がついてないです。丸山だけじゃなく、選手、コーチ、スタッフのみんなを信頼してここまでやってきました。ファンの皆さんも一緒にチームスワローズとして、今日の1勝はチームスワローズであげた大きな1勝なんじゃないかと思っています』
~『サンケイスポーツ』2022年9月25日配信記事 より(高津監督のコメント)
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胴上げ後、グラウンドで行われた優勝監督インタビューで、そう語った高津監督。昨季「絶対大丈夫」という合言葉のもと、選手と首脳陣が厚い信頼関係を築き、チーム一体となって栄冠を勝ち取ったヤクルトですが、それにしても、「新人が、ここで打っちゃうんだ」です。大事な場面でルーキーを打席に送った指揮官と、その采配にみごと応えた丸山。今季はチーム内の絆がより強くなった気がします。
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『7月に入ってチームとしてはコロナが蔓延してしまったのはすごく残念だった。そこから大変な時期が始まったんですけど、和が崩れない素晴らしいチームで一丸となって戦えた結果が今日9月25日を迎えられたんだと思います』
~『サンケイスポーツ』2022年9月25日配信記事 より(高津監督のコメント)
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7月2日、オールスター前に史上最速で優勝マジック「53」を点灯させてから、そのまま早々と優勝を決めるような雰囲気でしたが、その直後、突然チームを襲ったコロナ禍。山田哲人ら主力が相次いで罹患し、ベストメンバーが組めなくなったどころか、高津監督まで陽性となり戦列を離れることになってしまいました。
この間、チームを支えたのが主砲・村上でした。チームが苦しいときに打つのが本当の4番。8月には7連敗を喫し、上り調子のDeNAに一時4ゲーム差まで迫られますが、8月26日からの直接対決3連戦、村上は初戦に46号・47号、2戦目に48号、3戦目に49号を放つ大爆発を見せ、DeNA3タテに貢献します。ここで再びゲーム差を7まで広げたことが結果的に大きくモノを言いました。
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『最近は後ろ姿が小さくなってますけど、7月の大変な時も孤軍奮闘でよく頑張ってくれた。バット1本でチームを引っ張ってくれた。ムネ(村上宗隆)、よく頑張ったよ。おめでとう』
~『サンケイスポーツ』2022年9月25日配信記事 より(高津監督のコメント)
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その村上が、9月13日の巨人戦で54号・55号を打って以降当たりが止まると、今度はチーム全体でカバー。優勝を決めたDeNA戦2連勝は、まさにそうでした。誰にでも調子の波はあるもの。誰かが不調のときは誰かが補うという強固なチームをつくり上げたのは、高津監督の「選手を信じる心」でした。
優勝が決まった瞬間、印象的だったのは、キャプテン・山田が号泣していたことです。今季は深刻な不振やコロナ離脱にも見舞われ、思うように活躍できず悩んだことも。それだけに、苦しみながらのゴールインにはグッとくるものがあったのでしょう。キャプテンとして、今季のヤクルトの強みを聞かれた山田は、自分が足を引っ張った試合も多かったと詫びた上で、こう語りました。
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『そこをすごいムネ(村上)にはすごい助けてもらいましたし。ムネだけじゃなくて、他の選手にもたくさん、たくさんカバーしてもらって、勝てたこと、優勝できたこと、すごいみんなに感謝したいと思ってます』
~『東スポWeb』2022年9月25日配信記事 より
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この「全員で助け合い、乗り越える」精神は、他のどのチームよりも強かった。それが、野村克也監督以来、チーム29年ぶりのリーグ連覇を果たせた最大の要因だったように思います。今季の戦いはまだまだ道半ば。高津監督の目は、もう次を向いています。
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「今年2月1日のキャンプスタートする時にキャプテン山田(哲人)が『今年は高い山があります。それを乗り越えていきましょう』と言いました。まだまだ高い壁が待っていますが、クライマックスをしっかり戦い、その先の本当に大きな山の頂点に立ちたいと思っています。これからも頑張ります」
~『サンケイスポーツ』2022年9月25日配信記事 より(高津監督のコメント)
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「本当に大きな山の頂点」とは、野村監督も果たせなかった「日本シリーズ連覇」です。その高い壁を乗り越えるには、ファンの後押しが必要。高津監督がファンに向けて語ったこの言葉も「全員一丸」を象徴する言葉でした。
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『全国のヤクルトスワローズのファンの皆さん、セ・リーグ優勝、おめでとうございます。皆さんも優勝の立役者です。スワローズの一員として頑張ってくださりありがとうございました』
~『サンケイスポーツ』2022年9月25日配信記事 より
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