元航空自衛官で評論家の潮匡人が12月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。尖閣諸島の沖合に72時間以上に渡り領海侵入した中国海警局の船について解説した。
中国海警局の船、72時間以上に渡り尖閣諸島沖合に侵入
12月22日から尖閣諸島の沖合で日本の領海に侵入していた中国海警局の船2隻が、25日に領海から退去した。領海侵入を続けていたのは72時間45分で、2012年に日本が尖閣諸島を国有化して以降、最も長くなった。
海上保安庁が撃ってこないことを知って「舐め切っている」中国
飯田)尖閣周辺への領海侵入は今年(2022年)37日目ということです。いままで最も長かったのは7月で、64時間あまりに渡っていたそうですが、それよりも長くなりました。丸3日です。
潮)報道によると、「警告した」という表現を使っているメディアもあるのですが、いずれにせよ、結果的に3日間ずっと侵入していたのですから、警告にもなっていません。
飯田)居座り続けたわけですから。
潮)そうです。警告というのは「止まれ。止まらないと撃つぞ」と言って、実際に撃つ行為がそのあとに控えているから警告になり、撃たれたら困るので犯人側が止まるわけです。
「船体には射撃していい」と改正されてから大きな変化はない
潮)海上保安庁、または自衛隊が「絶対に撃ってこない」ということは中国も知っているわけです。いわば舐め切っている。こういった問題はもう10年以上前から繰り返し指摘されてきたことですが、結局、具体的な法改正については以前「船体については射撃してもよい」と改正されたこと以外、大きな変化がありません。
「海上保安庁は軍隊ではない」と海上保安庁法の25条に明記 ~憲法改正を視野に入れた議論を避けていることが根本的な問題
潮)つい最近、これはまた別の論点だと思いますが、防衛費を上げる過程のなかで国内総生産(GDP)比2%という、北大西洋条約機構(NATO)の基準に近付けるために、「海上保安庁の予算もカウントしていいのではないか」という声があります。一方で「いやいや、それはおかしい」という議論にもなりました。
飯田)海上保安庁の予算もカウントするかどうかと。
潮)結局、「海上保安庁は軍隊ではない」と海上保安庁法25条に書いてあることがネックになっていて、具体的な議論が1歩も進んでいないのです。今回もその問題には手を付けずに来年(2023年)を迎えることになってしまうというのが、根本的な問題だと思います。
飯田)その問題には手を付けずに。
潮)具体的にはアメリカの沿岸警備隊が1つのモデルになると思います。海上保安庁の船には、「Japan Coast Guard」の頭文字を取って「JCG」と書いてあるわけですが、いわば本物のアメリカのコーストガードは法執行機関であると同時に軍隊でもあります。
飯田)アメリカの沿岸警備隊は。
潮)はっきりとアメリカの法典にそう書いてあるわけです。ところが日本は「海上保安庁は軍隊ではないと書いてあるから」と言って、自衛隊の対象と海上保安庁の対象を分けて論じており、「別なのだから」と。「防衛費にカウントしてはいけない」と、いわゆる保守派は主張しているわけです。
「海上保安庁は軍隊ではないから防衛費にカウントするべきではない」と言うならば、自衛隊は軍隊なのか? ~本腰を入れて対処を考えるべき
潮)私が聞きたいのは、「では、自衛隊は軍隊という考え方でいいのですか?」ということです。「国際法上、防衛出動が下令されているときの行動などにおいて軍隊として取り扱われることがある」という趣旨の国会答弁が繰り返されてきたことはもちろん、私も承知していますが、一応、「軍隊ではない」ということになっているのです。
飯田)自衛隊は。
潮)それと同じようなレベルで、(海上保安庁は軍隊ではないということが)海上保安庁法の25条に書いてあるだけだと理解してきたわけですが、結局は根本的な問題、つまり憲法改正を視野に入れた問題を避けて来年を迎えることになるのは、悲しい展開だなと思います。そろそろ日本も本腰を入れて対処を考えた方がいいのではないかと思います。
25条の規定に縛られ、いざとなったら退避するというシステムに ~きちんと議論するべき
飯田)確かに警察官が拳銃を使うのと同じような形での対処の仕方はできるけれど、それに対して向こうがミサイルなどを撃ってきたらどうするのか。もちろん自分の防衛のためには撃てることにはなっていますけれど、「行ってもいいリスト」のなかで対応していると、想定外のことが起きたときに「どうしよう」となってしまいます。この問題には一切手を付けていないですよね。
潮)そうなのですよ。海警局も「警」という字を使いながらも、軍隊の1つだという扱いに中国当局が方針及び関係法令を変えているところもあるわけです。日本の海上保安庁だけがとは言いませんが、25条の規定に縛られたまま、いざとなったら退避するというシステムになっているので、それでは向こうはこちら側の要求に従わないでしょう。そろそろそこはきちんと議論するべきだと思います。
合理性のない現在の対処法 ~自衛隊の船を出せば「先に軍隊を出したのは日本側だ」と言われることになる
飯田)例えば付与される任務が違うということになると、装備品や訓練の仕方なども変化せざるを得ないことになってくるかも知れない。
潮)もちろんそれも1つの道ですし、「絶対に軍隊にはならない」と言うのであれば、そこはきちんと「防衛費には計上しない」ということも含めて、別の道もあるでしょう。
飯田)軍隊にはならないということであれば。
潮)よくも悪くも曖昧にして、なし崩し的に軍拡路線へ突き進んでいるかのように報道されるのは、おかしいと思います。
飯田)もし退避して海上自衛隊と入れ替わることになると、「灰色の船を出したのはお前たちだろう」となる可能性だってあるわけですよね。
潮)そういうことです。「先に軍隊を出したのは日本側だ」と言われる場合もあるので、現状の対処方針に合理性があるとは思いません。
飯田)それがエスカレーションや危機を生んでしまう可能性もある。
潮)そう思います。
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