なぜ中国はこの時期に「ゼロコロナ」政策からウィズコロナへ転換したのか

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戦略科学者の中川コージが1月3日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米ブリンケン国務長官と中国・秦剛外相の電話会談について解説した。

なぜ中国はこの時期に「ゼロコロナ」政策からウィズコロナへ転換したのか

新型コロナウイルスの検査の列に並ぶ中国からの入国者ら=2022年12月30日午後、成田空港 写真提供:産経新聞社

アメリカの国務長官と中国の新しい外相が電話会談

アメリカのブリンケン国務長官は自らのツイッターで、12月30日に就任した中国の秦剛外相と電話で会談したと投稿し、米中関係や対話の維持について話し合ったことを明らかにした。また中国側の発表によると、秦剛外相はアメリカとの関係改善・発展を推進することを期待すると述べたということだ。秦剛外相は直前まで駐米大使を務めていたことから、ブリンケン国務長官との関係について、引き続き緊密な関係を維持することを期待するとも述べた。

駐米大使を経験している秦剛外相

飯田)王毅元外相が昇格し、後任に秦剛さんが就いた人事になりました。これは既定路線なのですか?

中川)安定的な米中関係をつくりたいという中国側の意思が出ているのだと思います。秦剛さんは駐米大使を務められていて、人間関係もできていますし、アメリカ側としても驚きはないと思います。

飯田)新しく外相が変わったということになると、日本の林外相が12月の終わりくらいに中国を訪問するという話が出ていましたが、一旦、沙汰止みになって越年したではないですか。これも「人事があるからいま来られても」というような事情があったのですか?

中川)その辺りはどれくらい前から決まっていたのか、日本側がどれくらい密に向こうと連絡を取り合っていたのかという情報がないので、中国側が発信している公開情報だけでは、軽々には言えないと思います。

ペロシ氏訪台の裏で米中による「エスカレーションさせないメカニズム」が働いていた

飯田)アメリカと中国の関係において、ある程度、「緊張感を持ちながら管理していく体制」を中国側は求めているのですか?

中川)ペロシさんの訪台まで遡ると思うのですが、あれによって台湾問題がエスカレーションしたという話もあったと思います。しかし、米中の双方で「エスカレーションさせないメカニズム」がかなり働いていたのだと思います。逆に言えば、働いていなかったら本当の問題になっていたのではないでしょうか。

飯田)エスカレーションさせないメカニズム。

中川)ペロシさん個人で行ったのか、全体で行ったのかは別にして、いずれにしてもペロシさんが訪台した。そしてペロシさんが出たあとに、中国側は軍事演習を開始しました。

飯田)行いました。

中川)軍事演習を行ったということは、もし連絡が取れていないとすると、あれだけ台湾周辺を囲むようなことをしたら、アメリカ側自体が反応するはずです。

米中電話会談で話し合われていた

中川)しかし、初の海上封鎖のようなことをしても、アメリカ側が今度は逆に動かなかった。当然ながら、連絡がきちんと取れていたということです。直前にあった米中電話会談は、アメリカ側の要請で行われたということが公開情報として出ています。つまりそのときに、きちんと話し合われた上で行っているだろうということです。

飯田)あのときの電話会談のなかで。

中川)双方のトップレベルでは「エスカレーションさせないように」というメカニズムが、少なくとも半年くらい前から働いていたのではないでしょうか。今回のことについても、そのようなメカニズムがある程度はありながら、両方が鍔迫り合いしているところがあります。

7月28日の米中電話首脳会談で「ペロシ氏訪台」が話し合われていた ~問題に発展しないようアメリカが動いた

飯田)確かに、ペロシさんを乗せたアメリカの専用機の飛び方も、まっすぐ南シナ海を行くわけではなく、フィリピンの方を迂回して行きました。あの辺りも気の使い方というか、双方の駆け引きのようなものがあったのでしょうか?

中川)駆け引きというよりも、事前に決まっていなければできなかっただろうということが、結果的に見えてきます。

飯田)事前に決まっていなければ。

中川)では事前にいつ決めたのかということですが、ペロシさんの訪台直前に行われた、7月28日の電話による米中首脳会談です。これはアメリカ側からの要請で行われました。通常であれば1時間半くらいの会談が、2時間を超える程度に及んだ。それにもかかわらず、双方から出てきたコミットメントは少なかった。

飯田)長かったにもかかわらず。

中川)そう考えると別のこと、つまり「公開情報ではないこと」がメインで話されたし、それをアメリカ側が話したかったのだということがわかります。

飯田)なるほど。

中川)中国側が話したかったのではなく、アメリカ側が言ったということは、アメリカ側も「個人的な政治家の動きによって、変な形で問題が動かないように」と考えているところはあると思います。

党や国家が一枚岩の中国と多数意見のあるアメリカ ~それぞれのトップがどう動いているのか

飯田)対立していながらも、意思疎通のチャンネルのようなものは複数あるということでしょうか?

中川)そうだと思います。中国側はある意味、党や国家、情報機関などが一枚岩なのですが、アメリカ側はいい悪いという意味ではなく、当然ながら、さまざまに動くタイプです。我々日本もそうですが、政治家が1人の思いで動くこともあるのです。

飯田)アメリカは。

中川)そのなかでアメリカはどのように、統一的な意思としてトップが動いているのか。そして中国側は、相対的な意思としてどのように動いているのか。それを見ていくことは重要だと思います。

なぜ中国はこの時期に「ゼロコロナ」政策からウィズコロナへ転換したのか

中国の習近平国家主席(タイ・バンコク)=2022年11月19日 EPA=時事 写真提供:時事通信

中国にとって日本は「日米同盟のなかでアメリカに追従する国」でしかない

飯田)翻って日本を考えたときに、チャンネルや意思疎通のパイプ、分析の緻密さのようなものは、中川さんから見ていかがですか?

中川)中国から見ると、日本はプレイヤー同士という感覚ではありません。超大国同士のアメリカとは違いますし、もっと言うと、大国として欧州を惹きつけておかなければいけないこととは違います。

飯田)中国にとっての日本は。

中川)日本は「日米同盟のなかでアメリカに追従する国でしょう?」というような感覚に近いのだと思います。とは言っても、十分な経済大国なので、日本に対してそれほど蔑ろにはしないけれども、やはり超大国との接し方とは違いますよね。

日本はインテリジェンス能力を高めなければならない

中川)その意味では、日本をみくびっているところもありますし、日本側の問題としては諜報力がないので、中国が言っていることはわかるけれども、実際に何が行われているのかは想像でしかない。

飯田)諜報力がないために。

中川)我々は正常性バイアスのもとに、「独裁国家なのだから、このようなことをやっているのだろう」という決めつけが多いのです。その辺りについては、我々もインテリジェンス能力を高めておかなければいけないという改善点はあると思います。

ゼロコロナからウィズコロナへ政策転換した本当の理由

飯田)中国は「ゼロコロナ」政策からいきなり方向転換しました。「独裁国家だからこのようなことをやるのだ」と思いがちですが、中川さんはそうでもないと指摘されていますよね?

中川)ゼロコロナからウィズコロナに変わったわけですが、あれだけ経済的にも圧迫され、自ら首を絞めるようなことをして、なおかつ人民の生活も抑えこむようなことをしていれば、どう考えてもプラスではないのです。

飯田)ゼロコロナ政策が。

中川)ではなぜ行ったのかというと、大きな背景としてあるのは医療リソースのひっ迫や、実際に中国製のワクチンがあまり効かないなかで、「これを打ったところでオミクロン株の感染は大変なことになる」と。それは当然、北京などではわかっていたはずです。

ウィズコロナへの転換時期は当初は北京オリパラだった

中川)独裁が云々は別にして、科学的にどちらを選べばいいのかについては、ずっと迷っていたと思います。とは言え、オミクロン株なのだからウィズにしなければいけないということも、2022年の北京オリンピックの前辺りから早々にわかっていたのです。「ではいつウィズにするのか」という政治的なタイミングだったのだと思います。

飯田)やるかやらないかではなくて。

中川)オミクロン株に関して、世界がそうなのだから仕方がないということは、もちろんわかっていたはずです。政治的なタイミングを見ると、イベントとして北京オリパラがあり、全人代などがあって、もう1つは第20回の党大会が10月ごろにありました。(タイミングは)このどれかだろうとは言われていたのですが、最初の予定としては、専門家も「北京オリパラぐらいだろう」と思っていました。

中国共産党第20回党大会のあとにウィズコロナへ ~上海市と北京市のトップだった李強氏と蔡奇氏を人事的に抜擢するため

中川)しかし、最終的には第20回党大会のあとだったことを考えると、結果から見れば、上海市と北京市のトップだった李強さんと蔡奇さんを人事的に大抜擢させたいがために、というところがあったのです。彼らは強権的に北京と上海をロックダウンさせた張本人です。もし彼らを抜擢する前にウィズに転換させるとなると、「あの人たちの政策は間違っていたのに、なぜ大抜擢するのか」となってしまうのです。

飯田)人事の前にゼロコロナからウィズコロナにしてしまうと。

中川)彼らに政治的失点をさせないため、タイミング的にあのあとしかなかったということは、結果的に見えてきます。大抜擢したかったから、ウィズコロナは党大会のあとでなければいけなかったのです。

党大会の前であれば蔡奇氏と李強氏は糾弾されていた

中川)人事的なところからすべてが決まっているとは言いませんが、少なくとも、もし事前に行ったとすると、蔡奇さんと李強さんは政治的に糾弾されていたと思います。

飯田)いまのようには上がれなかった。

中川)そうですね。今回の人事でもかなり紛糾したという話は出ています。その意味では習近平指導部の、習近平さん周辺の人事を固めるために、第20回党大会のあとでなければいけなかった。習近平さんの周りから見ると、そうだったのだろうということがわかります。

飯田)そのロジックを見ておかないと、こちらも対応できない。経済政策などよりも、人事や権力闘争がより前に出るところは、我々とは違うのでしょうか?

中川)科学的には我々と同じです。右に行けばいいのか、左に行けばいいのか。トロッコ問題のようなものです。オミクロン株である程度確定したときに、「もう次に行くタイミングだよね」というところで、政治的な問題が出てきたのだと思います。

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