侍ジャパンの秘密兵器・ヌートバー 少年時代の“日本チーム”との意外な縁

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、野球日本代表・侍ジャパンに日系選手として初めて選出されたセントルイス・カージナルス、ラース・ヌートバー選手のエピソードを紹介する。

侍ジャパンの秘密兵器・ヌートバー 少年時代の“日本チーム”との意外な縁

【野球 WBC2023記者会見】会見でラーズ・ヌートバーのメンバー入りを発表するWBC侍ジャパンの栗山英樹監督=2023年1月26日 東京・大手町のよみうり大手町ホール 写真提供:産経新聞社

3月に行われる野球世界一を決める国際大会・WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)。その日本代表=侍ジャパンのメンバー30人が、1月26日に正式発表されました。

今回の発表に先立って、12人の名前が既に発表されていましたし、予測記事も一部で出ていましたので、大きなサプライズはありませんでした。2021年・東京五輪の侍メンバーと比べると、20代の選手が中心で、過去4回のWBC代表と比べても、平均年齢がいちばん若い代表チームになっています。

メンバー発表会見の席上、侍ジャパン・栗山英樹監督は、今回の人選についてこう語っています。

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『若い選手を選ぼうとしたつもりはまったくなく、とにかく僕にとっては勝つことが僕の使命なので一番勝ちやすい選手を選ぼうとしたということと、この状況、この場面でいく投手ならだれが一番いいのかとか、こういう展開になったら野手としてこういう選手が必要なのかと考えただけなので、若い選手をあえて選ぼうとしたというのは実はないです』

~『中日スポーツ』2023年1月26日配信記事 より

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あくまでも「勝利優先」で選んでいったら、結果的に若い選手が多くなったということで、それだけ近年、若くして力を発揮する選手が増えたということでしょう。22歳にして、令和初の三冠王に輝いたヤクルト・村上宗隆はその代表です。

そして、今回の侍の目玉は、何と言っても「現役メジャーリーガー」の多さです。過去の大会では、WBCがメジャーリーグ開幕前に行われるため、球団側が選手の出場に難色を示したり、選手本人がシーズンを優先するケースが多々ありました。日本人メジャーリーガーが出場に踏み切るには、さまざまなハードルがあったのです。

しかし今回は、過去最多タイとなる、5人のメジャーリーガーが出場。特に、出場を明言していなかったダルビッシュ有(パドレス)は昨年(2022年)、自身のツイッターで「栗山監督に『来年のWBC出場しなさい』と言われたので出場します」と表明しました。栗山監督が日本ハムの監督に就任したのは、ダルビッシュがメジャーに移籍したあとですが、監督直々にダルビッシュに会いに行き、熱意を伝えたのが実りました。

また、いちばんの目玉であるエンゼルス・大谷翔平の出場は、これも日本ハム時代の恩師であり、「二刀流」を提案した栗山監督が指揮官だったことも大きかったでしょう。この2人を呼んだだけでも「栗山監督はすでに大仕事をした」と評価する声もあるほどです。

その他、カブスの鈴木誠也、レッドソックスと大型契約を結んだばかりの前オリックス・吉田正尚の出場も決定し、ファンを沸かせました。さらにもう1人が、今回の侍では最大のサプライズかも知れません。カージナルス所属のラース・ヌートバーです。

普段から熱心にメジャーリーグの試合を観ている人でない限り「誰、それ?」という方がほとんどだったと思います。1997年9月、米国・ロサンゼルス生まれの25歳。身長190センチ、体重95キロ。右投げ左打ちの外野手です。

ヌートバーは、2018年のMLBドラフト8巡目でカージナルスに指名され、2021年にメジャーデビュー。母親が日本人で、WBC規定で日本代表として出場できる要件を満たしているため、今回の抜擢となりました。

メジャー実績は2シーズンしかなく、通算166試合に出場して、打率2割3分1厘、19本塁打、55打点、6盗塁を記録しています。有力候補として彼の名前が浮上したとき「何でこんな実績のない選手を呼ぶの?」という声も上がりましたが、栗山監督は1月11日、正式発表に先立って、ヌートバーを代表に呼ぶと記者たちの前で明言。こうコメントしました。

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『野球、スポーツの力で閉塞感がある世の中に対して我々が何ができるのか。日本代表という形のつながりだけれども、元々、人はみんな一つだったはず。そういったメッセージ、形を示すこともスポーツの力。そういう意味でもWBCがあるはず』

~『スポーツ報知』2023年1月12日配信記事 より

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たとえ国籍は違っても、日本にルーツを持ち、野球を愛する選手であれば、侍ジャパンとして共に戦える……なるほど、と思いました。

これは意外と忘れられがちなことですが、そもそもWBCはなぜ始まったのか? 野球を世界に広め、競技人口とファンを増やすためです。ヌートバーの侍ジャパン選出は、野球文化が世界に拡がっていることを示す意味もあるのです。

26日の正式発表の際にも、記者からヌートバーを選んだ理由について質問があり、栗山監督はこう答えています。

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『肩の強さだったりとか、がむしゃらさだったりとか、一球一球本当に一生懸命プレーし続ける姿だったりとか。学び続ける姿勢をもってあの若さで形にしていってくれると僕は信じたので、皆さんが思っているような活躍をしてくれると信じています』

~『中日スポーツ』2023年1月26日配信記事 より

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成績だけ見ると、確かに抜きんでた数字は残していませんが、昨季(2022年)の7月以降の成績を見ると、メジャー77試合に出場し12本塁打をマーク。昨年12月の練習では打球速度109.2マイル(約176キロ)を計測しました。まさに才能が開花しつつある選手で、メジャー通の間では「2023年のブレイク候補」に挙げられています。

おそらく侍の外野陣は、吉田・ヌートバー・鈴木のメジャートリオが守ることになると思われますが、俊足・堅守もヌートバーのストロングポイント。2番が想定される大谷と、1・2番コンビを組むことも考えられます。

また、ヌートバーは「野手視点」で、メジャーリーガーたちの生きた情報を持っているのも強みです。今回、米国代表や中南米のチームもメジャーの精鋭メンバーを揃えてきていますし、彼らと初めて対戦する侍メンバーにとっては貴重な情報源となるでしょう。

もう1つ、明るいキャラクターで誰からも好かれ、チームを盛り上げる性格も栗山監督は高く評価しています。カージナルスナインの間では昨季、「ペッパーグラインダー」(胡椒挽き)というパフォーマンスが流行しました。味方に好プレーが出たとき、胡椒を挽くように手を回すというもので、その中心になっているのがヌートバーなのです。この「ペッパーグラインダー」、ファンにも大好評で、本人いわくWBCでも「望まれたらやりたい」とのこと。侍ジャパンの間でも流行るかも知れません。

日本語は簡単な言葉しかわからないそうですが、こちらも猛勉強中で「君が代」も練習中とのこと。「テイラー・タツジ」という、母方の祖父(達治さん)の名前に由来するミドルネームも持っています。言葉の壁を越えて、侍メンバーたちにすぐ溶け込む姿が浮かんできました。

ところで今回、ヌートバーの名前が浮上した際、野球ファンの間で、意外な過去のつながりが話題になりました。何とヌートバーは少年時代、当時早稲田実業高3年だった元日本ハム・斎藤佑樹さんと接点があったのです。

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『高校3年の時 日本代表としてアメリカで親善試合をしました。その時 日本チームのバットボーイをやってくれたのが ヌートバー君』

『あれから17年。こんなにも素晴らしい野球選手になって 今度は彼が日本代表に内定したという記事を見て 本当に嬉しいです。自分が代表入りするわけではないのですが 野球の神様に感謝します!』

~斎藤佑樹インスタグラム(2023年1月13日の投稿)より

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2006年、斎藤さんが「高校日本代表」の一員として米国遠征した際、ヌートバー家は日本代表のホストファミリーを務め、一部選手のホームステイ先にもなりました。まだ幼かったヌートバー少年は日本代表のバットボーイを務め、明るくお茶目な性格で、選手たちの間でも人気者になったそうです。

斎藤さんは、ヌートバー家にホームステイした元チームメイトから「あのときの坊やが、侍に選ばれたぞ!」と連絡を受けて驚き、当時撮影した記念写真とともにこの投稿をアップしました。そのとき、栗山監督もスポーツキャスターとして現地へ取材に来ていたそうで、縁というものは面白いなあ、とつくづく思います。

高校日本代表の「JAPAN」のユニフォームを見て憧れたヌートバー少年は、その後、リトルリーグのオールスターチームに選抜された際、選手紹介用のビデオで、こんな挨拶をしました。

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「My name is Lars Nootbaar。NO21。I`m Japanese」(私はラーズ・ヌートバー。背番号21。日本人です)

「I`m representing my country Japan」(私は自国の日本を代表しています)

~『日刊スポーツ』2023年1月24日配信記事 より

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こんな挨拶をした米国の少年が、本当に「JAPAN」のユニフォームを着てWBCで戦うことになるなんて、何とも素敵な話ではないですか。母の祖国・日本で好プレーを見せ、母国・米国でも勝って「君が代」を歌う……野球は国境を越えるスポーツだということを、ヌートバーが世界にアピールしてくれることを期待しましょう。

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