話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、プロ野球ドラフト会議で読売ジャイアンツから1位指名された高松商業の浅野翔吾選手にまつわるエピソードを紹介する。
異例の9球団事前1位公表となった2022年のドラフト会議。抽選を避けた結果、とも言われているが、それだけに高校生で唯一競合指名となった高松商業、浅野翔吾がいかに特徴のある選手だったか、という証にもなるだろう。
身長170cmと小柄な体格でありながら、高校通算68本塁打。この夏の甲子園では3本塁打に加えて打率7割とミート力でも評価を上げ、木製バットで出場した18歳以下のワールドカップでは本塁打1本を含む打率.333と対応力の高さも証明してみせた。
そんな浅野の真価は成績面だけでなく、常にレベルの高い人から学びを得よう、という意識の高さにあるように思う。これまでの浅野の発言を見ていくと、その都度いくつもの課題を持って、プロ選手のフォームや考え方から自分の成長へのヒントを見つけようという姿勢が見てとれるからだ。
例えば、目指している打撃フォームについて、浅野は以前こんな言葉を残している。
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『ずっとヤクルトの山田哲人選手を意識し、大きく構えていたのですが、どのみち、トップに入れる際にグリップは下がる。それならばあらかじめ下げておいたほうが無駄な動きを省くことにつながると考え、巨人の岡本和真選手の構えをヒントにし、変更しました。手を下げて構えたほうが肩の力も抜ける。今のフォームはすごくしっくりきています』
~『週刊ベースボールONLINE』2022年9月16日配信記事 より
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構えのヒントにした、と語る岡本和真のいる巨人に指名されたのは実に運命的と言える。指名直後の会見で、岡本に対して「バッティングを教えていただきたいです」と弟子入りを志願すると、迎え入れる岡本も、浅野の1位指名に大きな刺激を受けたことをコメントしている。
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『僕が言えることであれば伝えたい。ぜひ、僕もそこ(中軸)にいられるように頑張りたいなと思います』
『ここから注目もされて大変なこともあるでしょうけど、一緒に出来るのはすごく楽しみです』
~『スポーツ報知』2022年10月23日配信記事 より(岡本和真の言葉)
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山田哲人と村上宗隆が切磋琢磨することでヤクルトが強くなったように、巨人でも岡本と浅野が刺激しあうことで、新たな化学反応を生む可能性は大いにある。
もっとも、浅野が参考にしているのは岡本だけでなく、視線の先はすでにメジャーへ。夏の甲子園終了後、高校日本代表で一時調子を落とした際は、身長168cmと同じ小柄な体格でありながらメジャーで首位打者を3度獲得したホセ・アルテューベ(アストロズ)の打撃を参考にフォーム修正に臨んだことを明かしていた。
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『アルテューベ選手みたいになりたいなと思っています。身長(170センチ)も似た感じで体つきも似ている部分があるので』
~『スポーツ報知』2022年9月12日配信記事 より
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そしてもう1人、影響を受けた偉大な野球人として忘れるわけにはいかないのがイチローの存在だ。2021年12月、高松商の指導に訪れたイチローによる2日間の「特別講義」を受けた浅野は、考え方の部分で大きな影響を受けていた。
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「イチローさんと出会って、たくさんのことを教えてもらった。一番大切にしている言葉が『全力の中で形をつくる』(疲れたときでも常に全力でバットを振り、打撃の形をつくる)。疲れたら手を抜いていたけど、それがなくなった。しんどい練習も全力でやった。チャンスでプレッシャーを感じることなく『打てる』という自信がついた。感謝したいです」
~『スポーツ報知』2022年10月15日配信記事 より
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このように、いつも高い目標を掲げ、意識の高い学びを続けてきた結果として、高校屈指のバッターへとのぼりつめた浅野。その高い野球脳があるからこそ、周囲から「スラッガーに」「ホームランを打って欲しい」と期待を集めるなかでも、自分自身では冷静に「中距離打者としてアベレージを求めていきたい」と自己分析ができている点も期待を抱かせてくれる。プロではスイッチヒッターを目指す意向も語っており、ミート力は右打席以上という左打席での活躍の場面も増えてくれば、さらに野球ファンの注目を集める存在になりそうだ。
これまで浅野自身がプロ選手から刺激を受けて成長したように、今度は浅野が野球少年たちの憧れとなり、手本となる番がやってくる。指名後の会見で力強く語ったこの言葉を是非とも期待したい。
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『身長は小さいんですけどそれを言い訳することなく、小さい選手に夢を与えるような選手になりたいと思います』
~『サンスポ』2022年10月20日配信記事 より
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