中日・落合監督(当時)に「きょうは監督の差で負けた」と言わせた阪神・岡田監督の「17年前のゲキ」

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、10月16日に指揮官への復帰会見を開いた、阪神タイガース・岡田彰布新監督にまつわるエピソードを紹介する。

プロ野球 ガリバーオールスターゲーム第1戦 全セ―全パ 中日・落合博満監督(左)と阪神・岡田彰布監督=2007年7月20日 東京ドーム 写真提供:産経新聞社

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『2005年に優勝して、まさかそれから優勝できないとは思ってなかったんで。勝てるチームなんですよ。でも勝てない。歯がゆさはあった。そういう意味で、話をもらった時にやってやろうかなっていうのはありましたね』

~『日刊スポーツ』2022年10月17日配信記事 より(岡田監督、就任会見でのコメント)

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10月16日、大阪市内のホテルで就任会見を行った阪神・岡田新監督。2008年に監督を退任して以来、来季(2023年)は15年ぶりにタイガースの指揮を執ることになります。前回優勝時(2005年)の指揮官でもあり、ファンの間で復帰待望論が多かったのも事実です。

大阪出身の岡田監督は、少年時代から熱烈なタイガースファンで、1979年、早稲田大学からドラフト1位で、憧れの阪神に入団。バース・掛布とクリーンアップを組んだ1985年は、球団初の日本一に貢献しました。

1993年オフ、阪神を自由契約となり、仰木彬監督が率いるオリックスに移籍。1994年から2年間プレーし、リーグ制覇を経験した1995年に現役を引退。1996年から2年間オリックスでコーチを務め、1998年から阪神に復帰します。コーチ・2軍監督を経験したあと、2003年オフ、18年ぶりのリーグ優勝を花道に勇退した星野仙一監督に代わって、指揮官に昇格します。

監督1年目の2004年は4位に終わりましたが、翌2005年は、落合博満監督率いる中日と激しい優勝争いを演じ、2年ぶりにペナントを奪回。1軍監督として初の胴上げを経験しました。リリーフでジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之を「勝利の方程式」として起用。このトリオは、3人の名前の頭文字を取って「JFK」と呼ばれました。

2008年も開幕ダッシュを決め独走態勢に。ところが……北京五輪に出場した主砲・新井貴浩が腰を痛め離脱するなど故障者続出も響き、最大13ゲーム差をつけていた巨人にまさかの逆転Vを許してしまいます。

責任を取って岡田監督は辞任し退団。その後、2010年から3年間オリックスで監督を務めました。以後は解説者として活動していましたので、約10年ぶりの現場復帰になります。

岡田監督就任で、チームはいったいどう変わるのか? 岡田監督は会見で、秋季練習・秋季キャンプの方針について、こう語っています。

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『一番うまくなるのが11月。体ができているから、もう技術だけで十分じゃないですか。白紙ですよね、レギュラーとかそんなんなしに。若手のレベルアップをどんどんやっていきたい。一番楽しみな1カ月になると思いますね』

~『日刊スポーツ』2022年10月17日配信記事 より

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前回監督時の「JFK」に代表されるように、岡田監督の理想とする野球は基本、投手陣を中心とした「守り勝つ野球」です。今季、阪神のチーム防御率はリーグトップの「2.67」。投手陣は問題ないのですが、課題は「守備」です。

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『(阪神は)リリーフ陣、ものすごい良いけど、リリーフ陣で借金10個。防御率は1点ナンボとかでね。やっぱり大事なところでエラーをしているんですよね。だからピッチャーは防御率が悪くならない。でも試合は負けてるから、自分には1勝5敗とか負けが付くとかね。これが一番の悪循環。そのへんを直していかないと』

~『日刊スポーツ』2022年10月17日配信記事 より(岡田監督、就任会見でのコメント)

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阪神のチーム失策数は5年連続でリーグワースト。今年(2022年)のCSファイナルステージ第3戦でも、エラーがきっかけでヤクルトに逆転を食らい敗退が決まりました。「守り勝つ野球」を実現させるために、課題の守備力をどう鍛え直すか? 岡田監督はその問いに、こう答えています。

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『アウトにできるボールはアウトにする。もう1回基本に返るというか。はっきり言うて、臨時で守備コーチとか来て、その教えがあったかも分からないけど、やっぱり再生は本人ですよ。一番痛いのはスローイングのエラー。いかにキャッチボールからやるか。アウトにできるものを確実にアウトにする』

~『日刊スポーツ』2022年10月17日配信記事 より

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「エラーが多いのは本人の問題」と断じ、完璧にできないなら基本からもう1回やり直す。当たり前のことですが、方針は実にシンプルです。

そんなディフェンス重視の手堅い野球を目指す岡田監督ですが、それは「勝ちたいから」。就任会見で「岡田監督の考えるファンサービスとは?」と問われ、岡田監督は明快に、こう答えました。

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『負けるより勝つことじゃないですか。ファンの人に喜んでもらうために勝たないといけない』

~『日刊スポーツ』2022年10月17日配信記事 より

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この「勝ちにこだわる姿勢」で思い出すのは、優勝した2005年に行われた、いまも語り草になっている「竜虎決戦」です。この年、阪神は5月から首位に立ちましたが、中日が猛然と追い上げ、9月上旬、ナゴヤドームで直接対決2連戦が行われました。初戦は中日が制し、首位・阪神に2ゲーム差と迫ります。

負ければ1ゲーム差、まさに天王山の第2戦。阪神は3-1とリードし9回ウラを迎えます。マウンドには守護神・久保田。ここで中日が粘り、久保田は無死二・三塁と一打同点のピンチを招いてしまいます。

ここで谷繁はセカンドゴロ。三塁走者・アレックスは本塁へ突入し、二塁手・関本はホームへ返球。クロスプレーで、タイミングはアウトでしたが、判定は「セーフ」。その瞬間、ベンチを飛び出し、球審に「アウトやろ!」と詰め寄った岡田監督。間に入った平田ヘッドコーチが「暴力行為」で退場となり、球場は騒然となりました。

納得がいかない岡田監督は、阪神ナインをベンチに引き揚げます。試合再開に応じるよう説得する審判団に対し、頑として拒否。実は9回表の阪神攻撃時にも本塁での際どいクロスプレーがあり、そのときは「アウト」判定だっただけに、怒りが爆発してしまったのです。このままだと放棄試合で負けに……。

阪神の球団社長がベンチに出向いて岡田監督を説得。18分後、ようやく試合が再開されました。しかし、久保田は井上の犠飛で同点に追い付かれ、続く荒木のセンターフライを、名手・赤星が何と落球! 勝ちゲームが一転、阪神はサヨナラのピンチを迎えてしまいます。次打者・井端は敬遠で1死満塁。

ここで岡田監督はマウンドへ。試合中、マウンドに行くのは投手コーチに任せていたので、これは異例の行動でした。そして岡田監督は、久保田に何と、こんな「ゲキ」を飛ばしたのです。

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『打たれろ! メチャクチャやったれ!! 俺が責任をとるから』

~『サンケイスポーツ』2020年5月3日配信記事 より

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いかに頭に血が昇っていたにしても、自軍の投手に「打たれろ!」とは前代未聞のゲキですが、久保田はこの言葉を聞いて開き直りました。後続を2者連続三振に仕留めて、試合は延長戦に。

そして11回表、中村豊の決勝アーチが飛び出し、阪神は優勝に大きく前進したのです。中村豊は、のちにこう語っています。

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「岡田監督が九回にマウンドに行ったとき、『きょうは負けられない一戦なんだ』と思った。あれからベンチ内が『絶対に勝つんだ』という空気になった。あの試合を落としていたら、優勝はなかったでしょうね」

~『サンケイスポーツ』2020年5月3日配信記事 より

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試合後、中日・落合監督はこうコメントしました。

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『きょうは監督の差で負けたよ』

~『サンケイスポーツ』2020年5月3日配信記事 より

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あの名将にここまで言わせた岡田監督。「何がなんでも勝つ」という執念をチームに注入し、来季、18年ぶりの胴上げを目指します。

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