中国政府「米気球が10回以上領空侵入」主張はどこまで信じられるか

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数量政策学者の高橋洋一と防衛省防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄が2月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国の偵察気球について解説した。

中国政府「米気球が10回以上領空侵入」主張はどこまで信じられるか

「烈士記念日」の式典に臨む中国の習近平国家主席 2022年9月30日(共同)

中国政府「米気球が領空侵入」と主張 ~米が中国と接触

中国外務省の汪文斌(おうぶんひん)副報道局長は2月13日の記者会見のなかで、アメリカの気球が「中国の関係部門の許可を得ずに10回余りにわたり中国の領空に違法に飛来した」と主張。一方、アメリカのメッリサ・ダルトン国防次官補は12日、2月4日に撃墜した中国の「偵察気球」をめぐり中国側と接触したことを明らかにした。

米気球が中国領空に侵入することは難しい

飯田)誰がどのようなやり取りを行ったのかなど、具体的な内容は示さなかったということです。中国側は「自分のところにアメリカの気球が飛んで来た」と言いますが、そういうことはあり得るのですか?

高橋杉)気球は偏西風に乗せて飛ばすので、その場所より西側から飛ばさなければなりません。ですから、アメリカが中国に向けて飛ばすのは難しい。仮に中国がアメリカの気球と確認できていれば、おそらく見つけた段階で公表していますから、現在まとめられている情報の信憑性は低いと思います。

飯田)偏西風に乗せて飛ばすことになると、ヒマラヤを越えて飛ばすような話になりますよね。

高橋洋)気球だとそうですね。高高度の偵察機U2などであればわかりますが。

飯田)冷戦時代にソ連がU2を撃墜したというような話がありました。

米中の接触は断たれることはない ~2013年にはオバマ元大統領が習近平氏にホットラインを通じてサイバー攻撃を中止させた

飯田)一方でアメリカ側は、中国側と接触したことを明らかにしました。ブリンケン国務長官の訪中は止まりましたけれど、やはり接触はしておかなければならないところがあるのですか?

高橋洋)接触を断つことはないですね。向こうは断っているかも知れませんが。電話に出ないこともあるのでしょう?

飯田)ホットラインはもともとあるけれど、ということですか?

高橋杉)今後、止めさせるためにもコンタクトは必要です。これまでにも米中危機は何回かありました。例えば2001年、哨戒機EP3が南シナ海で中国の戦闘機と接触した事件がありましたし、2013年には中国のサイバー攻撃でアメリカ企業の秘密が盗み出された事件がありました。

最も必要なときに機能しない米中ホットライン

高橋杉)2001年のときは、いまと同じように中国がまったく電話を取らなかったのです。電話を取る担当からすると、どう答えればいいかわからないので、上の指示がない限り取れません。怖いですから。米中のホットラインは、いちばん必要なときに機能しないところがあります。

飯田)なるほど。

高橋杉)2013年には、オバマ元大統領が習近平氏に「サイバー攻撃を止めろ」と強く要求し、そのあと実際にサイバー攻撃が減っています。ですから、どこかのタイミングで申し入れようという考えがアメリカ側にはあるのでしょう。ただし「アメリカも気球を飛ばしているではないか」と反論したということは、2013年のような形でクールダウンしていく可能性は低いのではないかと思います。

レーダーのモードを「すべて映る」ように変えたために気球が発見されている ~以前から飛んでいた可能性も

飯田)連日、気球撃墜のニュースが入ってきますが、これだけ見つかるようになったというのは、何か変化があったのですか?

高橋杉)おそらくレーダーのモードを切り替えたのだと思います。レーダーは映っているものをすべて表示するわけではありません。例えば鳥の群れや雲なども映ってしまいますから、ソフトの設定によって映されないものがあります。気球のような動かないものは脅威ではないので、いままで映さなかったのだと思います。

飯田)いままでは。

高橋杉)その設定を変えて、映っているものを全部表示するように対処した結果、たくさんの気球が見つかるようになったのでしょう。そのため、以前から飛んでいた可能性はあります。

中国政府「米気球が10回以上領空侵入」主張はどこまで信じられるか

撃墜され、落下する中国の偵察用とみられる気球=2023年2月4日、米サウスカロライナ州沖(ロイター=共同)

領空侵犯にあたる気球を撃墜 ~方針を明確化したアメリカ

飯田)気球を撃墜していますが、方針も変わったということですか?

高橋杉)そうだと思います。ただし、領空は領海と違って通り過ぎてはいけないのです。領空に入って来たら領空侵犯になるので、いろいろな条件が満たされれば撃墜したとしても合法です。ましてや無人なわけですから、そういう意味では方針を変えたというか、明確化したのだと思いますね。

飯田)いまおっしゃった「入ってはいけない」というルールですが、海の場合は無害通航権があります。沿岸国に危害を加えなければ、仮に軍艦や公船であっても通過できるルールになっていますが、空にはそれがない。

高橋杉)そうですね。空は基本的に領土と同じで、入りたければ事前に了承を得る必要があります。民間機の場合は必ずそうしていますから。

中国においての「民間の気球」とは

飯田)今回の場合は、気球とされるものが「我々はこういう者です」と、自己紹介的な電波を出していなかった。

高橋杉)そうですね。わかってしまってから、中国は初めて「民間の気球だ」と言った。でも、その民間が誰かということはまったくわからないわけです。そういう意味では非常に怪しいですね。

飯田)中国が「俺たちは知らないよ」と否定すると思ったら、「俺たちのものだけれど民間なのだ」という否定の仕方をしましたね。

高橋洋)「民間とは誰なのか?」ということですね。そもそも中国にどこまで民間があるのか。厳密には、中国に民間はないのですよね。

飯田)「プライベートカンパニーだ」と言われても、共産党の組織などが入っていたら、そうではないだろうということですか?

高橋洋)基本的に株式会社には「共産党の委員会をつくれ」と言われているから、純粋な民間とは言いにくいのです。民間会社だと思っていたら「違った」ということはよくあります。

飯田)去年(2022年)辺りから、IT企業への締め付けも厳しくなっています。自由にやっているように見せて、いざというときは締め付ける。

高橋洋)会社のなかに「共産党の委員会組織をつくれ」と言われたら、西側諸国の定義からすれば、それは民間ではないですよ。そういう組織が株主総会で上に立つわけでしょう?

飯田)その場合は経済学的な視点から言うと、経営者は誰になるのですか?

高橋洋)株主がいませんから、上の人は共産党委員会になってしまいます。そもそも中国はすべてが共産党の組織です。軍隊もそうでしょう? 憲法の上に共産党があるのだから。そういう国で純粋な民間企業と言われても、我々の頭のなかでは理解しがたいですよね。

すべてを習近平氏が決定する中国の難しさ

飯田)抑止論や戦略論で考えたときに、ホットラインの話もそうでしたが、意思決定権者・最高のトップ以外はある意味、相手にしても「どこまで決められるかわからない」ということになる。相手の意図を見誤る可能性もありますか?

高橋杉)十分ありますね。いずれにしても、主席のご意向に反したことはできません。外から見ると、何とか主席の意向に沿わなければならないので、2013年の場合はオバマ元大統領が直接言ったのです。

飯田)なるほど。

高橋杉)そこで(意向を)変えさせれば、あとは全部変わります。そういう意味では難しい相手ですね。

飯田)結局、その意図をどう取ってくるか。あるいは直接会って交渉するか。コロナ禍でなかなか直接会うことができませんが、やはり各国がどう情報を取るか、腐心している部分はあるのですか?

高橋杉)あると思います。また、それを中国が逆用し、習近平氏に会わせること自体が取引材料になることもあるので、その辺りも加減が難しい部分です。

飯田)習近平さんに会うこと自体が。

高橋杉)習近平氏が何かを言ってしまうと、仮にそれが情勢に合わなかったとしても変えられなくなってしまうのです。毛沢東氏の「一人っ子政策」がそうです。そういう意味では、中国自身も難しいところだと思います。

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