「核共有」議論を進めざるを得ない日本
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数量政策学者の高橋洋一が3月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。全人代に合わせて北京で行われた中国・秦剛外相の記者会見について解説した。
中国外相が初会見 ~アメリカを強く牽制、ロシアとの関係重視
中国の秦剛外相は、北京で開かれている全国人民代表大会(全人代)に合わせて3月7日、就任以来初めて記者会見を行った。対立を深めるアメリカを強く牽制する一方で、関係改善も呼びかけた。また、ロシアとの関係を重視する姿勢を示すなど、3期目入りした習近平指導部の外交方針を明らかにした。
飯田)2022年12月に王毅氏の後任として就任した秦剛氏が、初会見を行いました。戦狼外交というか、強気な感じがしますね。
高橋)でも、この人は部長でしょう?
飯田)役職名で言うと、外交部長なのですよね。
序列としては王毅氏の下になる秦剛氏
高橋)中国の序列からすれば、王毅さんの方が上です。
飯田)王毅氏は政治局員です。
高橋)政治局員で、その上に習近平さんがいるのですが、王毅さんは習近平さんに跪くような感じでしょう?
飯田)実際に文書を渡すときのしぐさなどは、そうらしいですね。
高橋)王毅さんが日本に来ていたとき、安倍さんが「(王毅さんは)ゴルフが好きなのですよ」と習近平さんの前で言い、王毅さんは狼狽して大変だったと言われています。
飯田)そうだったのですね。
高橋)そのくらい王毅さんから見れば、習近平さんは雲の上の存在なのです。秦剛さんはその下でしょう。その人がいくら強気な話をしても、交渉できないのですから。王毅さんだって無理です。習近平さんだけですよ。
飯田)結局のところは。
すべては習近平氏が決めている中国
高橋)あの国は道を誤ると大変なことになりますよね。独裁国家の常ですが。
飯田)修正が効くかと言うと、難しい。
高橋)効かないですよね。無理です。外相が何か言ったとしても下っ端ですから。王毅さんでもダメでしょうし、習近平さんが思い込んだらアウトです。だからアメリカはいろいろな牽制球を投げているのです。
飯田)結局のところ、習近平氏なり国家主席のようなトップと話さないことには、物事が動かないとよく言われますね。
高橋)共産圏はみんなそうですよ。下の人が何を言おうが、関係ないのです。
習近平氏の3期中に台湾と尖閣については核心的利益として着々と進める
飯田)そうなると、習近平氏の思惑を読むことがとても大事になってきます。その部分はコロナ禍もあって、なかなか表に出てきませんでした。
高橋)国際会議などで接している安倍さんであれば、どのように変わってきたかわかるのですが。わからないから大変なので、アメリカも接触してきたり、いろいろなメッセージを出しているのだと思います。
飯田)アメリカが。
高橋)でも、台湾だけは着々と進める。台湾・尖閣だけが残っている核心的利益なのです。着々と進めなければ、習近平さんの3期目の仕事になりません。「3期目の間には必ずやるだろう」というのが普通の見方です。台湾の総統選までは見守ると思いますが。
2024年の台湾総統選で反中派が選ばれればいろいろなことを仕掛けるのでは
飯田)2024年1月初頭には台湾の総統選があります。
高橋)総統選で、親中なのかどうかを見極めるのではないでしょうか。親中政権ができれば、それに越したことはないのだと思いますが。
飯田)親中派が選ばれれば。
高橋)そうではない政権になれば、自分の3期目の任期との関係で、いろいろなことを仕掛けるのではないでしょうか。
蔡英文氏の次の台湾総統には誰がなるのか ~民進党か国民党か
飯田)習近平氏の任期は、2022年の党大会で選出されていますので、1期5年で2027年までです。一方、台湾の総統は3選できません。いまの蔡英文さんは、2024年1月の選挙までとなりますので、次を誰が獲るのか。
高橋)誰が担うか。
飯田)現政権の民進党が獲るのか、国民党が獲るのか。
高橋)国民党が獲ったら、籠絡して併合することができるかも知れませんが、いまの民進党であれば併合は無理でしょう。そうすると、武力の話が強くなるのではないでしょうか。
飯田)イメージと違うのが、国民党と言うと、かつて国共内戦で蒋介石と毛沢東は干戈(かんか)を交えた仲ではないかと思うのですが、実は……。
高橋)かなり違うのでしょうね。面白いと言っては失礼かも知れませんが、そういうところがあるのでしょう。国民党でも、もし併合がダメだったら武力になると思います。
国民党であれば人民投票して併合を狙う
飯田)国民党の前総統である馬英九氏は以前、シンガポールで習近平氏と会い、「これは歴史的な会見だ」というようなことを言っていました。
高橋)国民党であれば、習近平氏は人民投票して併合する形を最初に狙うと思います。いちばんコスパがいいですし、何もしなくてもいいですから。一応、民主主義の弱点は突くのですが、「民意で」という方向で動く。民意はいくらでも操作できるので、ロシアがクリミア半島の併合を宣言したときのようにすればいいのです。あそこまで露骨に動くとわかってしまいますが。
飯田)あの住民投票は疑わしいと言われています。
高橋)でも、操作は可能です。そういう民意を使って、合法的な併合を狙うのではないでしょうか。
中距離ミサイルを第1列島線に配置してくる中国 ~中国の保有する中距離ミサイルは2000発
高橋)それができなければ、違う方針になるのでしょうね。
飯田)武力によるものなのか。「動くか・動かないか」ではなく、「いつ動くのか」だけだという指摘もあります。
高橋)そう考えたら、習近平氏の3期目の任期までに何かがあると読むのが普通でしょうね。アメリカも当然わかっていますから、中距離ミサイルを第1列島線に配置してくると思います。いまの状況だと、中距離ミサイルは圧倒的に差がありますから。(アメリカの)中距離ミサイルはどこにもないではないですか。でも、中国は核付きのものをたくさん持っています。
飯田)アメリカは、旧ソ連との間で「INF全廃条約」があり、中距離核戦力に関してはすべて廃棄する約束になっていた。そのため実質上、ほとんど持っていません。一方で中国は、アメリカ本土には届かないけれども、ハワイ、グアム、日本、台湾、フィリピンなどに届く中距離のものを2000発以上持っていると言われています。
日本の反撃能力におけるトマホーク400発では対抗できない ~かつてのドイツのように「核共有」の議論を日本でも
高橋)2000発以上です。そうすると、日本の反撃能力におけるトマホーク400発では足りないのは明らかです。軍事的に考えたら、中距離ミサイルを第1列島線に配備するのは軍事的合理性があります。昔、欧州で中距離ミサイル「パーシング」を配備したときと同じような話が、おそらく起こると思います。
飯田)ユーロミサイルと呼ばれたもので、まさにソ連がSS20という、ヨーロッパには届くけれどアメリカ本土には届かないミサイルを、核付きで配備しようとした。そのときに、核を持っていないドイツはどうするのかという問題が起きた。フランスやイギリスは核を持っていて反撃できるから狙われないけれど、ドイツは持っていませんでした。
高橋)それで核共有の話が進展するわけです。
飯田)しかも当時、ドイツの政権は進歩(党)系である社会民主党のシュミット政権でした。そう考えると左派的な政権であっても、リアリズムで動かざるを得なかったわけですよね。
高橋)同じようにいまも突き付けられているのです。これから緊張が緩和したら、脅しがくるでしょう。その前に第1列島線に配備すれば別ですよね。そうなると、核共有の議論は出るはずです。
日本での「核共有」議論を進めざるを得ない
飯田)きょう(3月8日)の読売新聞トップにこんな記事が掲載されています。
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『「核の傘」日米韓で協議体創設、対北抑止力を強化…米が打診』
~『読売新聞オンライン』2023年3月8日配信記事 より
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飯田)まずは北朝鮮を念頭に置くということですが。
高橋)念頭はそうでしょうけれど、中距離ミサイルを配備して、弾頭を変えれば中国にも届きますからね。
飯田)韓国では、すでに自分のところでつくるか、あるいはアメリカの核を使うかという議論が出てきている。
高橋)当然でしょう。韓国が議論しているのに、日本は議論しないということもないではないですか。
飯田)安倍さんは2022年に核共有を提起しました。一時期は盛り上がりましたが。
高橋)誰が運用するかという話ですよね。非核三原則に関して、「持ち込ませず」はやめにするという議論があります。
飯田)「持たず」「つくらず」はそのままで。
高橋)核共有の議論が出るのは普通の流れです。そうなると、ヨーロッパのパーシングの議論にとても似てくるのではないかと思います。
飯田)どこまで当時と同じように動くかはわかりませんが、アメリカのミサイル「パーシング」を配備しようとしたら、ソ連側が「では」と話し合いに応じ、SS20ミサイルを撤去したという話でした。
高橋)そうでしたね。
飯田)ところが、そのミサイルが今度は極東に来るかも知れないとなったとき、当時の中曽根政権がレーガン氏に「勘弁してくれ」と。「こちら側に持ってくるな」と交渉したというようなことも、いま言われていますが。
高橋)いまは日本の問題として考えざるを得ないのではないでしょうか。歴史は繰り返すという感じがします。これから数年の間に。
飯田)そうなると、あまり時間はない。
高橋)日本のなかでもたもたしていると、議論できずに終わってしまい、最悪なことになってしまいます。
飯田)アメリカに巻き込まれるという話ではなく。
高橋)ないですね。いまの中国とアメリカの対立も、その予兆ではないかと思っています。
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