習近平氏の「独裁体制」が強まる中国への懸念
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経済アナリストのジョセフ・クラフトが3月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国・李強首相の初会見について解説した。
中国の李強首相が初会見、5%の成長目標について「努力が必要」と述べる
中国の李強新首相は3月13日、全国人民代表大会(全人代)の閉幕後、初の記者会見に臨んだ。5%前後に設定された2023年の経済成長目標について「達成はおそらく容易ではなく、一層の努力が必要だ」と述べた。
飯田)李強氏は習近平氏の側近中の側近だとも言われています。新体制が明らかになってきました。
習近平氏の独裁体制が確立 ~習近平氏の判断で中国が変わっていく
クラフト)李強氏はもともと経済の専門家ではないので、どこまで経済運営ができるのか手腕が問われるところです。アメリカの高官と話したのですが、何が最も懸念事項なのかと言うと、全人代が終わって習近平体制、つまり独裁体制が確立されたことだと思います。
飯田)独裁体制が確立された。
クラフト)いままでの中国はどんな主席になっても、共産党の政治体制でチェックと歯止めがかかっていました。主席1人の意向では自由にできなかった状況が、ロシアのプーチン大統領と同じように、1人のリーダーによって国全体が動く体制になってしまった。プーチン大統領ほどとは言わないまでも、習近平氏の判断1つで中国が大きく変わっていくという体制に、アメリカは懸念を抱いているのです。
70年代の共産党の主義・主張に戻ろうとしている
飯田)文化大革命のあとに鄧小平氏が目指したのは、チェック・アンド・バランスがしっかりと効くような集団指導体制だったのですよね?
クラフト)それが一切なくなってしまった。今回は台湾統一や共同富裕など、習近平氏の思想が打ち出されています。私のイメージでは70年代の共産党の主義・主張に戻ろうとしているのではないかという印象を受けました。
飯田)50年以上、先祖返りをしてしまう。
クラフト)そうなのです。今後の情勢には注意が必要です。
アメリカの経済制裁が強まっているなかでの5%成長は難しい ~日本への影響も大きいので注意が必要
クラフト)そのような脅威もあって、アメリカとしては半導体の輸出制限など、経済制裁を強めています。そのなかで「5%成長」を達成するのは難しいと思います。中国としても、いろいろな策を講じて経済を上げていこうと動くでしょう。米経済もそうですが、中国経済の動向は日本への影響も大きいので、よく見ておかないといけません。
飯田)習近平氏の意を体しているであろう李強氏が「成長目標の達成には努力が必要だ」と言ったということは、何がなんでも達成したいのでしょうか?
クラフト)一応、「5%前後」という曖昧な目標を立てているので、少し振れ幅はあると思います。李強氏としては初めて首相に就任し、達成しないと本人の今後の将来もあるので、必死なのだと思います。
結果ありきの景気刺激策を打ち出す傾向のある中国 ~世界経済の両輪となる米中には大きな景気後退は避けていただきたい
飯田)数字をつくるような動きとして、公共投資で「住まないマンション」をたくさん建てるようなことを、かつてやっていたではないですか。また同じようなことになってしまうのですか?
クラフト)その教訓を汲み、もう少し頭のいい経済対策を立てて欲しいと思いますね。しかし、中国は結果ありきで、そこに辿り着くために「何でもやる」というような傾向があるため、同様の景気刺激策が今後も出てくる可能性は否定できません。
飯田)そこで生じる不動産バブルのリスクなどは、前々から言われています。
クラフト)いま徐々に不動産業界は苦難に接していますが、アメリカが金融リスクにあるなかで中国の景気も減速してしまうと、世界経済が落ち込んでしまいます。世界経済の両輪として、大きな景気後退は避けていただきたいと思います。
アリババなどのIT企業の経営を乗っ取った中国共産党 ~中国経済の不安材料
飯田)経済政策全体も見えづらいところですが、IT企業等に対してもかなり統制を厳しくしていますよね?
クラフト)テンセントやアリババの社長は、既に海外に逃避しています。それが何を意味するのかと言うと、実質、共産党がこれらのIT企業の経営を乗っ取ったということです。
飯田)共産党が乗っ取った。
クラフト)いままでのような民間主導の経済発展、イノベーションはかなり収まると思います。長期的には、アメリカや日本にとって、IT覇権においては悪くない傾向ですが、世界経済の1つのエンジンである中国の経済成長が今後どうなるのか、不安な状況であることは間違いありません。
1つ間違えると「ウクライナ侵攻」のような事態になりかねない習近平氏の独裁体制
飯田)独裁が強まる形で習近平氏が何でも決められるようになったということは、側近たちは彼の思いを何かしらの形で察知しなければいけない。対応が難しそうですね。
クラフト)常に上を見ながら動く。国民や世界を見るのではなく、リーダー1人を見てみんなが動くのですから、非常に非効率かつ怖いです。1つ間違えるとロシアのようになり得るので、危惧すべき状況だと思います。
飯田)昔のように、イベントなどの撮影の際に「写っている順番でいろいろなことがわかる」というような世界になってしまうのでしょうか?
クラフト)昔は順番で見ていましたが、もう順番すらありません。習近平氏だけが現地の新聞に大きく出るので、「習近平氏以外は誰もいない」という見方です。そのようなところからも伺えますよね。
飯田)そうなると、外交交渉と言っても……ということになりますよね?
クラフト)ですので、バイデン大統領は早々に習近平氏と話したいと言っています。つまり、下と話してもそれがどのような形で上がるのかわからない。プーチン氏も同じです。外相と話しても、どこまで伝わるかわからない。習近平氏と話さなければいけないという状況が、中国の国内政治情勢を表していると思います。
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