「ロシア寄り」に舵を切りきれない「中国の事情」
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ジャーナリストの佐々木俊尚が3月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。黒海上空で起きたアメリカの偵察ドローンとロシアの戦闘機の衝突について解説した。
アメリカの偵察ドローン、ロシアの戦闘機と黒海上空で衝突 ~偶発的な事故
米軍は3月14日、黒海上空の国際空域を飛行していた米軍の偵察ドローンがロシアの戦闘機と衝突し、黒海に墜落したと発表した。ロシアの戦闘機2機がアメリカのドローンを迎撃し、うち1機が衝突。衝突前、ロシアの戦闘機はドローンに向かって燃料を投下し、ドローンの前方を危険な操作で飛行した。
飯田)プロペラと衝突して無人機は墜落したそうです。
佐々木)「衝突」という見出しなので、「ついに軍事衝突か」と思ったら、どちらかと言うと事故ですね。
飯田)物理的な衝突事故。
佐々木)「ロシアは一体何をやっているのか」という感じです。燃料を投下、ガソリンのようなものを浴びせかけて、そのあとドローンのプロペラがロシアの戦闘機の機体に当たってしまったという、それだけの話ですよね。
飯田)そうですね。
佐々木)このような偶発事故が戦争の引き金になることもあります。抑止だけでは計り知れない偶発性のようなものがあるのでしょう。アメリカ側は冷静に対処していて、エスカレーションする様子もないのでよかったですが。
飯田)一報が入ったときは驚きましたが、さすがに偶発的なエスカレーションに関しては、両国ともそのリスクは見ているということですね。
ロシアの戦闘機がドローンに向かって燃料を投下したのは上官からの指示なのかどうか
佐々木)ロシア側の戦闘機がどこまでコントロールされて、このようなことを行ったのか。上官からの命令なのか、プーチン大統領そのものの命令なのか。あるいは単に現場の判断で「少しいたずらを仕掛けてやろう」と思ったのかなども気になるところではあります。
飯田)かつて、中国とアメリカの間で「技量を見せよう」と、偵察機に異常接近した中国の戦闘機が衝突してしまい、墜落したことがありました。
佐々木)ありましたね。
飯田)偶発的な部分はどう作用するか本当にわからないですね。
佐々木)そうですよね。
ロシアに寄りすぎると国際社会のなかで孤立し、グローバルサウスの国も離れてしまうかも知れない中国の不安
飯田)ウクライナ情勢をめぐっては、中国の習近平国家主席がロシアを訪問するという報道も出ています。
佐々木)中国は厳しい立場にあると思います。いまの状況のなかで、ロシアは中国の大事なパートナーですよね。
飯田)そうですね。
佐々木)石油・天然ガスをロシアから輸入しているし、武器を供与するのではないかという話も出ていて、アメリカが牽制している。中国にとっては強権国家連合のメンバーとして、ロシアはなくてはならない存在です。
飯田)ロシアは。
佐々木)しかし一方で、あまりにもロシアに寄りすぎると、今度は国際社会のなかで孤立しかねない問題があります。先日の国連総会でも、ロシアのウクライナからの即時撤退について、140ヵ国以上が賛成に手を挙げています。ここでロシア寄りになってしまうと、中国が味方にしたいと思っていたグローバルサウスの途上国からも離反されかねない。その離反したグローバルサウスが、逆に西側諸国・G7の方に寄ってしまうと、ますますロシアと中国だけが孤立してしまうという不安があるのではないでしょうか。
中国の和平案に不満を持つウクライナ ~和平案としては難しい
佐々木)中国は独自の和平案を提示していますよね。その案に対してロシア側は「そうだ! それだ!」と言っているのだけれど、ウクライナ側は「和平案と言いながら、ウクライナからの撤退という領土保全に関して1ミリも入っていないではないか。停戦と言っているだけだ。そんなもの呑めるわけがないだろう」という話になっています。
飯田)ウクライナ側は。
佐々木)多分、習近平氏はプーチン大統領に会って和平案を出し、「いよいよ停戦できますよ」と持ち掛けるのではないでしょうか。そこで停戦の言質を引き出し、「私がロシアとウクライナの仲を取り持ったのだ」と世界に見せたいのだと思いますが、あれでは和平案にはならないですよね。
プーチン大統領から「核兵器を使わない」という言質を引き出そうとしている習近平氏 ~「核兵器を使わない」と言った瞬間に「ウクライナにもっと兵力・武力を供給しましょう」となる
佐々木)ただ、いろいろな安全保障専門家の意見を見ていると、1つ言えるのは、プーチン大統領から「核兵器は使わない」という言質だけでも引き出せるのではないか、と見込んでいるという話があるようです。
飯田)核兵器を使わないと。
佐々木)和平でなくても、「核兵器を使わない」という言質を引き出せれば、それは大きな成果になります。
飯田)確かにそうですね。
佐々木)習近平氏としては、国際社会に対して「我々はここまでやった」と言えるのではないか。ただ、プーチン大統領は「核兵器を使わない」とは言わないと思います。それを言った瞬間に核抑止が効かなくなってしまいますから。
飯田)そうですよね。「核兵器を使うかも知れない」とみんなが思っているから、今回のドローンの話も「ここで収めておかないと」とアメリカ側が思うわけですからね。
佐々木)「ロシアが使わない」とわかった瞬間、「ウクライナにもっと兵力・武力を供給しましょう」という方向になってしまうので、ロシアが得することは何もありません。
習近平氏の目論見通りにはならない
飯田)「核兵器を使わないのであれば戦闘機も出そうか」という話になってもおかしくはない。
佐々木)そこも習近平氏は考えているのだろうけれど、彼の目論見通りにはいかないと思います。
飯田)アメリカ側が「オンラインではなく、ウクライナのゼレンスキー大統領と2人で会ったらどうだ?」と言っているということですが。
佐々木)それはどういう話になり得るのかわかりません。
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