地政学・戦略学者の奥山真司が6月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナ側の反転攻勢が始まったと言われる現在の戦況について解説した。
ウクライナの国防次官が「反転攻勢で8つの集落が解放された」と述べる
ウクライナのマリャル国防次官は6月19日、ロシアへの2週間にわたる反転攻勢で8つの集落が解放されたと述べた。また、この1週間でロシア側が4600人を超える死傷者を出したとも説明し、反転攻勢の成果が出ていることを強調した。
ウクライナ軍が苦戦 ~攻める側は守るロシア側の3倍の兵力が必要
飯田)ウクライナ側は成果が出たと言っていますが、報道では「苦戦しているのではないか」という指摘もあります。
奥山)その通りです。ウクライナには頑張っていただきたいのですが、客観的に見ると、あまりうまくいっていない印象があります。
飯田)うまくいっていない。
奥山)去年(2022年)の8月には、かなりの領土を取り返した部分がありましたが、あのような劇的な動きはありません。なぜかと言うとロシア側、守る側が陣地の構築をガッチリと固めているからです。
飯田)ガッチリと固めている。
奥山)向こうが守りを固めているときに、セオリーとして攻める側は3倍の兵力が必要だと言われています。それをウクライナがどれだけ用意できているかが1点目です。
戦術が上手くなったロシア軍 ~無能な将校がほとんど戦死し、若く優秀な人たちが必死になって戦い、押し返す
奥山)2つ目は、当然のことですが、ロシア側がここ1年で戦術的に上手くなったのです。
飯田)上手くなった。
奥山)戦略的にはまだ下手なのですが、ロシアは昔のソ連時代から戦い方が変わっていない部分があります。まず、最初に大損害を出します。将校などが死に、無能な将軍がほとんどいなくなったところから、若く優秀な人たちが必死になって戦うのです。そして最終的には、戦争を逆に押し返していくというパターンがあります。
飯田)最終的には押し返す。
奥山)今回も1年目に、上の無能だった将軍たちが次々と死んでいます。
飯田)将校2000人余りが亡くなったのではないかという報道も出ていました。
奥山)長いロシアの戦いの伝統的に、1回そういう人たちが死に、途中で盛り返してくるのです。
「使い捨て兵士」をおとりとして最前線に送りウクライナ軍の場所を把握 ~そこを砲撃する
奥山)イギリスのシンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所」が出した報告書が関係筋では注目されており、「ロシアの戦術がうまくなった」ということが詳細に書かれています。ロシアの戦い方がとてもクリエイティブになっているのです。
飯田)クリエイティブに。
奥山)ワグネルのようなところから、殺していいと言われる4~5人くらいの歩兵を最初に1班くらい、ウクライナとの最前線に出すのです。当然、ウクライナ側はそれに対して撃ちますよね。
飯田)撃ちますね。
奥山)撃つと、「ここで撃ったのだな」というスポットがわかるので、そこに対してロシアが砲撃するのです。戦い方が残忍なのですが、まずおとりとして死んでもいい兵隊を先に出す。
飯田)非人道的ですね。
奥山)非人道的なのですが、ロシアにとって非人道的な方法はトレードマークになってしまっているため、彼らはそのやり方でも構わないと思っています。イギリス側はそれを「使い捨て歩兵」と名付けています。
飯田)使い捨て歩兵。
奥山)報告書のなかでは“Disposable Infantry”と言われています。そのように、非常にクリエイティブな戦いをするようになっています。
工兵の技術が上がったロシア軍 ~障害物を置きウクライナ軍の進軍を防ぐ
奥山)また、ロシアの陣地が堅いのです。ロシアは工兵の技術がとても上がったと言われています。要するに土木技術です。戦場で陣地をつくる際、まずは塹壕を掘りますが、そのうしろに……テトラポッドと言う消波ブロックがよく海岸に置かれていますよね。
飯田)コンクリートでつくった三角形の。
奥山)あの上の部分だけが地上に出ているところをイメージしていただくとわかりやすいと思いますが、あのような障害物をたくさん置いておきます。「竜の歯(Dragon’s Teeth)」と言われています。
飯田)「竜の歯」。
奥山)戦車はさすがに乗り越えられないので、それをウクライナ側の進軍が予想されるところにたくさん置いておくのです。
地雷などで止まったウクライナ側をヘリコプターなどで空から攻撃するロシア側 ~戦術だけは上手くなっているロシア
奥山)また、ロシア側は「航空優勢」において、戦闘機を自由に活動できています。
飯田)作戦行動ができるのですね。
奥山)オペレーションがやりやすくなります。当然のごとくロシア側は地雷などを仕掛けますので、ウクライナ側が入って来たときに一旦、地雷の攻撃を受けて止まります。止まったところに対し、ロシア側は制空権を持っていますから、攻撃ヘリで地上の戦車を攻撃するのです。全般的にこのような形で動いています。戦略はまだ上手くないのですが、ロシア側が「戦術だけは上手くなっている」ということを我々は認識しなくてはいけません。
飯田)対空防衛網のようなシステムをウクライナは持っていますよね。
奥山)もちろん持っていますが、それまでの対空防衛のシステムは首都キーウなどに備えなくてはならないので、最前線に持ってくるというアセットがないのです。足りないのですね。
飯田)キーウ周辺もミサイルや無人ドローンでかなり攻撃されています。
奥山)防衛システムを必ずそちらに置いておくことになりますし、動かせません。守りももちろん必要ですが、攻撃にもそういうアセットは必要です。しかし、絶対数が足りないし、最前線に対空はなかなか持って行けませんので、進軍がそれほどうまくいっていないということです。
飯田)だからこそ、ゼレンスキー大統領は「戦闘機が欲しい」と言っていたのですね。
奥山)そうですね。空対空で戦うことができますから。
ロシアの占領地域を分断するような形を取り、クリミア半島を奪還したいウクライナ
奥山)7月に北大西洋条約機構(NATO)がもう1回会議を行います。
飯田)リトアニアで開催されるようですね。
奥山)それに向けて、ウクライナ側も一定の成果を出さなければならず、焦っている部分があるのだと思います。機動戦である程度の成果を出し、「支援してくれ」と言いたいところがあるのでしょう。
飯田)ウクライナとしては、東部から横に長いロシアの占領地域を分断するような形で……。
奥山)アゾフ海という黒海の内海まで行き、分断する。目標としては当然ですが、クリミア半島を奪還したいのです。
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