「米中間ホットライン」の設置を「拒否」する中国 アメリカとの「危機的な関係性」

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地政学・戦略学者の奥山真司が6月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。北京で行われた米ブリンケン国務長官と中国の習近平国家主席の会談について解説した。

「米中間ホットライン」の設置を「拒否」する中国 アメリカとの「危機的な関係性」

あいさつする中国の習近平国家副主席(当時、右)と、バイデン米副大統領(当時)=2011年8月19日、北京市内(共同) 写真提供:共同通信社

米ブリンケン国務長官と中国の習近平国家主席が北京で会談

中国を訪れているアメリカのブリンケン国務長官は6月19日、中国の習近平国家主席と北京で会談した。中国外務省によると、習近平国家主席はアメリカとの関係改善に意欲を見せつつ、中国が「核心的利益」とする台湾問題などを念頭に「アメリカは中国を尊重し、中国の正当な権益を損ねてはならない」と牽制した。

飯田)ブリンケン氏は「米中には関係を管理する義務と責任がある」というバイデン大統領の考えを伝えたそうです。

奥山)この米中会談はまず、「最悪の状態から始まっている」という認識を持った方がいいと思います。

「アメリカの責任だ」と突き離した態度の中国 ~そこに訪中したブリンケン国務長官

奥山)米中会談に至るまでの経過を見ると、もちろん見方にもよると思いますが、中国側が態度を硬化させているというより、中国側は「既にやることはやった」と思っているのです。

飯田)やることはやったと。

奥山)「ボールはアメリカ側のコートにあるのだから、我々はあなた方が対話するのを待っているだけだ」という態度です。

飯田)ボールはアメリカ側にあると。

奥山)厳しい態度であると同時に、「自分たちはもう対話をオープンにしている」と示し、「アメリカの責任だ」と突き離すような態度でマッチオンしているのです。結果として、その状況でブリンケン氏はバイデン政権の閣僚として、初めて訪中することになったのです。

中国の傲慢な態度に「仕方ない、対話するしかない」とするアメリカ

奥山)そういう意味では、中国は「アメリカよりも自分たちの方が上だぞ」とアピールしているように見えます。

飯田)「お前たちから来いよ」と。

奥山)そういうことです。次に、アジア太平洋経済協力(APEC)のサミットがカリフォルニアのサンフランシスコで開かれます。

飯田)11月ですね。

奥山)ブリンケン氏は「そこに至る布石だ」と言っていますが、アメリカ側から見ると中国側はとても傲慢な態度に出ています。しかし、「仕方ない、我々も対話するしかない」というところだと思います。

飯田)アメリカとしては。

新たに米中間にホットラインを設置したいアメリカ ~中国側は設置を拒否

奥山)今回、1つの焦点になったのが「ミリタリーミリタリー」です。「ミリミリ」などと言いますが、軍隊と軍隊の間でつくるホットラインの存在です。これまで、ホットラインがないことが米中間の最大の懸念だと言われており、その関係改善をしたいのです。

飯田)ホットラインを。

奥山)これまでの経緯を見ると、2月に中国の気球事件がありました。

飯田)ありましたね。

奥山)気球がアメリカ本土を横断して大騒ぎになった。その後、最近も2回ほど大きなインシデントがありました。1つは、南シナ海の上空付近を飛行していた米空軍偵察機に対し、目の前を中国人民解放軍の戦闘機が横切った一件です。

飯田)動画も公開されました。

奥山)もう1つは米海軍のミサイル駆逐艦が、カナダ海軍のフリゲート艦と台湾海峡で「航行の自由作戦」を行っていたところに、中国側の艦船が船首から約140メートルの距離を横切ったのです。船にとって、140メートルはほぼ衝突です。

飯田)ギリギリですよね。

奥山)カナダ側の船が撮影し、世界に動画を公開しました。そんなインシデントもあり、最低限でも軍の衝突が起こらないよう、メカニズムをつくっておきたいのです。「ホットラインが大事だ」ということを言いに行ったのですが、中国側はそれを拒否しました。

「米中間ホットライン」の設置を「拒否」する中国 アメリカとの「危機的な関係性」

インドネシアのバリ島で、握手する中国の習近平国家主席(左)とバイデン米大統領=2022年11月14日 (ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

映画『博士の異常な愛情』にも描かれているホットラインの重要性

奥山)相当態度を硬化させているので、「危ないな」と思います。ホットラインの重要性については、歴史を振り返ると、有名な映画監督のスタンリー・キューブリック氏も描いています。

飯田)名前は聞いたことがあります。

奥山)キューブリック氏が脚本・監督を務めた『博士の異常な愛情』(1964年)という映画では、冷戦下の米ソを描いているのですが、アメリカの司令官が突然、ソ連への水爆攻撃を命令するのです。

飯田)水爆攻撃を命令してしまう。

奥山)その状況を、皮肉を込めて描いたブラックコメディなのですが、映画のなかでは防止するメカニズムがない状態です。最終的には世界戦争になってしまいます。終わり方は悲劇ですが、喜劇のような形になっている映画です。そのような「フィクション」が認識できていると、「ホットラインは大事だ」と感じます。「あの映画観た?」となるわけです。

飯田)あの映画のようになってはいけないと。

奥山)いままでアメリカとソ連は、小説やフィクションのようなものを共有し、「未来に衝突すると世界戦争になってしまうから止めよう」と、お互いにホットラインをつくっていた。いざというときにはトップ同士が「いま何をしているの?」と確認し、「それは勘違いだから止めてくれ」などとお互いに融通して、偶発的な戦争が起こらないようにする。ホットラインにはそういう役目があるのです。

飯田)確認して、互いに融通する。

奥山)それがまだ、アメリカと中国の間にはありません。今回、ブリンケン氏が「少なくともホットラインだけはつくろう」と示したけれど、それができなかったのは非常に残念です。

1962年「キューバ・ミサイル危機」を契機に設置された米ソ間のホットライン

飯田)米ソ間には「キューバ危機」もありました。

奥山)1962年に「キューバ・ミサイル危機」がありました。キューバにミサイル基地が設置されていることにアメリカが勘付いて、「どういうことだ」と米ソで睨み合いが起き、一触即発になりました。当時もメカニズムがなかったという話があります。

飯田)キューバ危機の際も。

奥山)『博士の異常な愛情』の原作である『赤い警報』という小説もつくられていたので、「やはりホットラインをつくらなくてはいけない」となり、実際にアメリカとソ連の間にはホットラインができたのです。

飯田)そこでつくられた。

奥山)そのような経緯もあって、いままさにライバルであり関係も悪化しているアメリカと中国の間で、「最低限のホットラインをつくっておこう」という話になった。しかし、それすら北京側は許さない状況です。米中関係が危機的状況にあるのだと思います。

海南島事件ではアメリカ側の連絡に出なかった中国 ~ソ連とは性格が違うことに戸惑うアメリカ

飯田)かつて、海南島でアメリカの偵察機と中国の戦闘機が衝突し、不時着したことがありました。

奥山)2001年4月の海南島事件ですね。

飯田)当時、アメリカ側は必死になって北京の中南海に連絡を取ろうとしたけれど、電話に一切出なかった。その際もホットラインはなかったのですか?

奥山)基本的にないのです。中国側も「つくるよ」とは言うのですが、公式にはつくられていません。ソ連のときとは性格が違うので、アメリカ側も悩んでいるところです。

世界政治に影響を与える「フィクション」

奥山)私は、フィクションが世界政治に影響を与えているのではないかと思います。『ウォー・ゲーム』という1983年の映画があります。高校生がハッキングしたアメリカの核施設から、実際に核ミサイルが発射されそうになり、米ソ核戦争に突入しかけるというサスペンス・コメディ・スリラーです。この映画によって「ハッキングは危険だ」と認識されたという話があります。

飯田)映画によって。

奥山)映画のような状況にならないために、レーガン大統領が「アメリカの核施設をもう1回調べてくれ」と部下に命じたら、実際は『ウォー・ゲーム』以上にアメリカの核施設がハッキングに弱かったという実態がわかり、必死に改善したという話もあります。

飯田)映画以上に現実はハッキングに弱かった。

奥山)映画や小説が、実際の世界を救ったとは言いませんが、認識をつくってくれた側面はあります。しかし米中間では、何らかのフィクションをお互いに認識し、「危機を何とか救わなくてはいけない」というものがないのです。

飯田)そこで表現しようと思っても、今度はポリティカル・コレクトネスなどがあり、「中国人を悪者にするのは人種差別だ」となりかねない。ある意味、それも情報戦かも知れません。

奥山)「共通認識ができていない」ところが大きな問題になってくると思います。

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