虎の救世主 「高卒2年目」前川右京が期待される理由

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、勝負強い打撃でチームを再三救った高卒2年目、阪神・前川右京(まえがわ・うきょう)選手にまつわるエピソードを紹介する。

虎の救世主 「高卒2年目」前川右京が期待される理由

【プロ野球阪神対中日】3回、適時打を放った阪神・前川右京=2023年6月27日 甲子園球場 写真提供:産経新聞社

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「試合前から『打ってくれよ』と言われていたので、タイムリーを打てて良かった」

~『デイリースポーツonline』2023年6月30日配信記事 より(6月29日 中日戦後の前川のコメント)

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交流戦前、2位・DeNAに6ゲーム差をつけて首位を独走していた阪神。しかし交流戦は負け越し、リーグ戦再開後の直接対決でDeNAに3連敗。阪神はあっという間に首位から陥落してしまいました。

しかし、阪神は続く中日との3連戦に2勝1敗と勝ち越し。一方、DeNAは広島に3連敗を喫し、阪神は再び首位を奪還しました。首位返り咲きに貢献したのが、高卒2年目の左のスラッガー・前川右京です。

前川は、奈良の名門・智辯学園出身の20歳。高校時代は、1年生の夏から4番に座り、3年生の夏には甲子園で2本のアーチを放ちました。2021年のドラフト会議で阪神の4位指名を受け入団。その潜在能力は高く評価されていました。

しかし、1年目の昨季(2022年)は、開幕1軍を期待されながら上半身のコンディショニング不良でファームに落ち、結局1軍出場はないまま終了。2軍戦で外野守備の際、フェンスに激突。負傷したのも響きました。

今季こそ1軍定着、さらにレギュラー奪取を目指し2年目に臨んだ前川ですが、キャンプイン直前、またしても左上肢のコンディショニング不良で戦線離脱。再び調整を重ね、5月30日、交流戦開幕のタイミングで待望の1軍昇格を勝ち取りました。

交流戦では、パの球場でDH制が使えるので、いつもより野手を1人多く打線に並べることができます。かねてから前川の打撃能力を評価してきた岡田監督は、交流戦初戦からいきなりDHで前川を先発起用します。

前川は交流戦18試合すべてに出場。ときに3番打者にも抜擢され、交流戦中は39打数10安打、打率.256、2打点という成績を残しました。うち3試合でマルチヒットを記録。それはすべて3番で記録したものです。高卒2年目でクリーンアップを任されていること自体、かなり凄いことですが、プレッシャーに負けずちゃんと結果も出したところを、岡田監督は高く評価しています。

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『(右翼守備も)全然守ったし、全然心配してない。まず右ピッチャーのときはどんどん使うよ。今一番打ってるやんか』

~『サンケイスポーツ』2023年6月19日配信記事 より(交流戦を終えて、前川について岡田監督のコメント)

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こうして指揮官の信頼を勝ち取り、リーグ戦再開後も起用が続いた前川。高いポテンシャルを発揮してみせたのが、25日に横浜スタジアムで行われたDeNAとの直接対決第3戦でした。

「3番・ライト」で先発出場した前川は、0-3で迎えた5回の第3打席、2死一・二塁のチャンスで、DeNA先発・バウアーのチェンジアップをとらえライト前へ。この試合初得点を挙げ、反撃のノロシを上げました。結局、試合には敗れましたが、サイ・ヤング賞投手から得点を奪い、存在感を示してみせた前川。試合後、バウアーとの対戦についてこう語っています。

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『試合が始まる前から楽しみにしていた。1本出たことは良かったですが、1打席目からしっかり合わせていけるようになりたいですし、満足することなくこれからも1打席、1打席を大切にしていきたい』

~『東スポWEB』2023年6月25日配信記事 より

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DeNAに3タテを喫したあと、27日、甲子園球場で行われた中日3連戦の初戦。「3番・ライト」で先発した前川は、3回、2死二塁のチャンスに、中日先発・柳からライト前へタイムリーヒットを放ち、貴重な追加点を奪います。

さらに5回には、センターオーバーの三塁打。6回、無死一塁の場面で、中日・福のスライダーを、泳ぎながら片手でセンター前へ運び、自身プロ初となる1試合3安打をマーク。猛打賞の大活躍でチームの連敗を5で止め、首位奪還の立役者となりました。岡田監督は試合後、前川の働きを絶賛しました。

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『3番に入れて、すごく打点もあげるし、つなぎもできる。本当にいい仕事をしてくれています』

~『日刊スポーツ』2023年6月27日配信記事 より

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試合後、大山・木浪とともに、プロ初のお立ち台に上がった前川。スタンドの大歓声に感激しつつ、こうコメントしました。

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『きょうお兄ちゃんが誕生日だったので。いい1日になったかと思います』

~『デイリースポーツonline』2023年6月27日配信記事 より

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2つ上の兄・夏輝さんは、6月27日が22歳の誕生日でした。前川によると、夏輝さんは陰でいつも支えてくれているそうで、前川がバースデープレゼントは何が欲しいかと夏輝さんにメッセージを送ると、こんな返事が返ってきたと言います。

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『お前の野球の姿を見てるだけで幸せやからいいで!』

~『日刊スポーツ』2023年6月27日配信記事 より

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こうやって、プロでの活躍を楽しみに見守ってくれる兄の存在は、前川にとって大きな励みになっています。

そんな前川にとって試金石となったのが、29日の中日戦でした。この試合、中日の先発はサウスポーの松葉。岡田監督は、相手の先発が左腕のときには前川をスタメンで起用しませんでしたが、この試合で初めて「6番・ライト」で先発起用します。

阪神は初回、相手のエラーで1点を先制すると、なおも2死一・三塁のチャンスで前川に打順が回ってきました。前川は、松葉が外角低めに投じたカットボールをセンター前に運び、貴重な2点目を叩き出したのです。試合後、前川はこう語っています。

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『右も左も変わることなく、体の開きとかは意識するのですが、いつも通りの準備をしました』

~『デイリースポーツonline』2023年6月30日配信記事 より

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今季2軍戦では、左投手に対して28打数14安打、打率.500をマークしている前川。左投手を苦にしない左のスラッガーは、岡田監督にとっても心強い存在です。今後は相手が左投手でも、3番起用があるかも知れません。

ところで、この試合の先発は、智辯学園の先輩・村上頌樹でした。村上は2016年・春のセンバツの優勝投手で、前川にとっては「憧れの人」です。村上には普段から可愛がってもらっているそうで、先輩に6勝目をプレゼントすることができました。

試合後、村上から冗談っぽく「もうちょい打てよ」と言われた前川。これに対して前川は、こう“反撃”したそうです。

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『1本出たんでいいじゃないですか。あの2点目大きいですよ』

~『日刊スポーツ』2023年6月29日配信記事 より

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物怖じせず、周囲ともいい関係を築き、チャンスをもらったらしっかり結果を出して応える前川。宿舎でも常に素振りを欠かさない練習熱心さも、首脳陣に高く評価されています。前川がさらにバッティングに磨きをかけ、クリーンアップに定着したら、18年ぶりの“アレ”を目指す岡田監督にとってはこの上なく強い味方になることでしょう。

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