地政学・戦略学者の奥山真司が8月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米軍とホットラインを通じて語ろうとしない中国の意図について解説した。
なぜ中国は米軍と語らないのか ~米中間のホットラインがまったく機能していない
奥山)アメリカのシンクタンク「スティムソン・センター」にいるユン・サンさんという女性研究員の方が、7月後半に「フォーリン・アフェアーズ」という有名な外交雑誌で発表した論文が話題になっています。「なぜ中国は米軍と語らないのか」というタイトルです。
飯田)なぜ中国は米軍と語らないのか。
奥山)いま米軍と中国人民解放軍の間で、ホットラインがまったく機能していないのです。ホットライン自体はあるのですけれど。
飯田)シンガポールでアジア安全保障会議(シャングリラ会合)が開催されたときに、国防大臣同士が会談しようとしたけれど、結局は流れてしまいましたね。
奥山)いま中国側がなぜ強硬的な態度を取っているのか、上手く説明した論文なのですが、中国側は危機を望んでいると言うのです。
飯田)軍の人たちは、自分たちに何かあったら当事者となる部下が死ぬかも知れない。だから基本的に、そういうことは回避しようとするという話を聞いたことがありますが、真逆ですね。
奥山)真逆なのです。通常、ホットラインの機能では、危機的状況になったときに軍のトップ同士が話して、「いま何が起こっているのか」という情報を共有し、危機を回避しようとするものです。
危機を望む中国 ~太平洋からアメリカを追い出すまで押し込む
奥山)中国の戦闘機がアメリカの戦闘機に異常接近したり、中国の軍艦が米海軍の駆逐艦の近くを通過したことがあったではないですか。
飯田)船の目の前を通ったという。
奥山)150メートルくらい前を通って衝突しそうになった事件がありました。それに関して、アメリカ側はホットラインを使って非難したけれど、答えがなかった。ユン・サンさんが言うには、中国側は太平洋からアメリカを追い出すまで押し込んでしまうと。リスクがいくらあってもいいのだということです。
かつて「キューバ危機」を経て関係性がある程度安定した米ソ ~ギリギリで核戦争を回避したことで関係が安定
奥山)1962年に「キューバ危機」があり、『13デイズ』という映画にもなりました。「キューバ危機」の際、アメリカと当時のソ連は「こんな際どい状況になったら危ない」ということで、その後はアメリカとソ連の関係がある程度安定したのです。
飯田)そうなのですね。
奥山)「核戦争になってしまうかも知れない」ということで、安定させたのです。
飯田)そこからホットラインもできた。
奥山)ホットラインもしっかりできました。
「キューバ危機」を再現しようとする中国 ~危機を起こしてお互いに線引きする
奥山)いま中国はそれを狙っているのではないかと、ユン・サンさんは言っているのです。
飯田)キューバ危機を。
奥山)核戦争になってしまったらまずいのですが、そこまで至らないような危機を起こして、「危ない」という線引きを行う。「では米軍は、もう南シナ海に入らないですね?」という状態まで持っていきたいのではないかということです。
飯田)危機を起こして線引きする。
奥山)彼女は中国出身の方なので、中国はそういうメンタリティを持ち得ると言っているのです。かなり説得力のある議論だと思います。危機を使うことによって、ある程度米軍との間に線を引く。
飯田)危機を高めることによって、線引きする基準のスタート地点を上げる。
奥山)お互いに「これ以上いかない」という「暗黙のルールをつくりたい」という考えが見え隠れすると書いてあるのです。
いまの中国は第二次世界大戦前の日本に似ている
飯田)過剰な自信というのは危険ですよね。
奥山)中国側を取材している各国のジャーナリストが言っているのは、「いまの中国は第二次世界大戦前の日本そっくりだ」ということです。「一帯一路」が当時の「大東亜共栄圏」のような考え方だと言われています。
飯田)ここでブロック経済をつくるために構築しようとしている。
奥山)アジアナンバーワンの立場であり、太平洋から米軍を追い出すという考え方が戦前の日本にそっくりではないかと、危機感を抱いている人が多いのです。
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