中国との経済的相互依存が深まっても、戦争が回避できるわけではない ~米が半導体やAI分野の中国への投資を規制へ

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が8月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。半導体やAI分野の中国への投資を規制する米大統領令について解説した。

中国との経済的相互依存が深まっても、戦争が回避できるわけではない ~米が半導体やAI分野の中国への投資を規制へ

中国の習近平国家主席(中国・陝西省西安市)=2023年5月19日 EPA=時事 写真提供:時事通信

アメリカが半導体やAI分野の中国への投資を規制へ

アメリカのバイデン大統領は8月9日、半導体と量子技術、AIの3つの分野について、中国への投資を規制する権限を財務長官に与える大統領令に署名した。既に実施している先端半導体などの中国への輸出規制を強化するもので、3つの分野について、安全保障上、深刻なリスクをもたらす技術や製品に関わる投資を禁止するとともに、それ以外の特定の取引も政府への届け出を義務付ける。

飯田)中国は対抗措置を示唆し、反発しています。

投資にまで制裁対象を広げるアメリカ ~先端技術はかつての戦略物資と同じ

宮家)もちろんそうでしょうね。大きな流れで見ると、中国を問題視し始めたアメリカは、まず人の流れと、貿易の世界でのモノやサービスの流れを止めた。そして、いまは貿易だけでなく、お金の流れ、すなわち投資にまで制裁対象を広げているということです。

飯田)投資にも。

宮家)戦前の日本を考えてください。アメリカなどがABCD包囲網で石油を禁輸しましたよね。いまの先端技術はAIにせよ、チップにせよ、昔の戦略物資です。それに対して、包囲網とは言いませんが、規制が厳しくなっているというのがこの流れの見方です。

アメリカの対外政策が変わる ~対中政策を断ち切るには、トランプ前大統領のようなタブー破りの政治家が必要

宮家)さらに大きな見方をすると、「フィナンシャル・タイムズ」のコメンテーターであるギデオン・ラックマンさんが、日本経済新聞に重要な記事を掲載しています。少し前にアメリカではトランプ前大統領が出てきて、理解しがたい政策を行い、中国との関係を悪くしてしまった。

飯田)トランプ前大統領が。

宮家)アメリカの伝統的な政策は、あくまでも自由貿易だったのですが、バイデンさんになってそれが元に戻るかと思ったけれど、よく見たらバイデンさんのやっていることは前政権を踏襲している。つまり「トランプさんと同じだ」と言っているのです。

飯田)バイデン大統領も。

宮家)自由貿易の推進など、民主党の中道路線を止めてしまった。第2に、過去40年間のアメリカの対中政策は間違っていた。これは単にトランプさんが出てきたからではなく、アメリカの対外政策が変わってしまい、大転換している。そして、いままでのように40年間も続いた貿易やグローバル化、いい意味で対中政策を断ち切るには、前大統領のようなタブー破りの政治家が必要だった、とまで書いてあるのです。

アメリカの対中政策はトランプ政権の時代から変化している

宮家)これは本質をついた記事だと思います。なぜかと言うと、対中投資の規制だけでは終わらないということです。既に相当大きな流れが始まっていて、政策の大転換が実質的に行われている。つまり、政策はバイデンさんからではなく、「トランプさんの時代から変わっている」と見ているのだと思います。

安全保障上の観点から中国に軍事的に活用される可能性のある技術をどのような形で止めておくか

宮家)我々もこのような見方をしなければいけません。もちろん、投資など細かい部分も個々の商売にとっては大事です。しかし、昔から「対中投資はどうすればいいですか?」と何度も聞かれて、私が常に答えているのは「簡単です。皆さんが中国と貿易や投資をするのはけっこうです、どんどん儲けてください。けれども、もし皆さんの扱う技術が日本の安全保障上、危ないのであれば、申し訳ないけれども帰ってきてください。そうでなければ、進出した日本企業は中国の企業なのですから、そこで儲けてください」ということなのです。

飯田)安全保障上の危険がなければ。

宮家)半導体やAI技術もありますが、中国がこれを軍事的に、安全保障上の観点からどう活用するか。そのような可能性のある技術については、「どんな形で止めておくか」ということを考える時期なのですが、それはもう各企業がよくご存知のはずです。特定の取引についてはこれから規制が広がることの方が多いだろうと思います。

経済的相互依存が深まれば、戦争を回避できるわけではない ~戦争を回避できる安全保障があるからこそ、経済的相互依存が進んだにすぎない

飯田)一時期言われていたのは、米中、あるいは日中の間も、経済的なつながりが強い。貿易などでサプライチェーンもこれだけつながっているからこそ、それほど深刻なことにはならないという見方でした。

宮家)1913年にイギリスの作家であるノーマン・エンジェル氏が、「これだけ経済的相互依存が深まるのだから、戦争はもう不要になった」と言ったのです。

飯田)ヨーロッパにおいても。

宮家)その人はノーベル賞をもらいました。しかし、そのあとに第一次世界大戦、第二次世界大戦が起きた。つまり、「経済的相互依存が深まったから戦争は回避できる」というのは嘘なのです。むしろ戦争を回避できる安全保障が進んだからこそ、経済的相互依存が進んだにすぎません。

飯田)相互依存というのは、ある意味、結果であって……。

宮家)原因ではないのです。そう考えれば、このアメリカの政策は残念ながら正しいということになります。

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