中国・秦剛前外相「解任」の影に「アメリカの影」

By -  公開:  更新:

青山学院大学客員教授でキヤノングローバル戦略研究所主任研究員の峯村健司が8月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国の秦剛前外相について解説した。

中国・秦剛前外相「解任」の影に「アメリカの影」

中国の秦剛国務委員兼外相=2023年4月2日、中国・北京の釣魚台迎賓館[代表撮影] 写真提供:時事通信

中国・秦剛元外相はなぜ解任されたのか ~不倫疑惑、外交部内での権力闘争などと言われているが

飯田)中国の秦剛前外相が突然、解任されましたが、なぜでしょうか?

峯村)ネット上では不倫疑惑、それに加えて隠し子や、外務省(外交部)内での権力闘争などが言われていますね。

飯田)親米派、反米派に分かれていたとも。

峯村)それらは「まったくもってあり得ない」と断言できます。秦剛氏と話してみても、自身の強い信念というよりは、「上の顔色ばかり見る人だな」と強く感じたからです。

王毅政治局員と秦剛氏の権力闘争はあり得ない ~外交部の力はなくなり、習近平氏の言うことがすべて

峯村)王毅政治局員と秦剛氏とのバトルだと言われていますが、考えてみてください。王毅さんは今回の「バトル」で何を取ったのか? 外交部長を再び兼務しましたが、それは嬉しいことでしょうか? 一般的な会社で言えば、常務になった人が少し前まで務めていた「○○部長を兼務していいよ」と言われて、嬉しいかどうかという話なのです。

飯田)「仕事が増えたな」というだけで。

峯村)責任が増えるだけです。そうでなくとも、外交部長は危ないポジションなのです。

飯田)危ないポジションなのですか?

峯村)責任を負わされて詰め腹を切らされかねないポジションなので、再びそれをやりたいわけがありません。また、秦剛氏が「親米派」云々という話は証拠がありません。習近平政権下で、外交部は力をなくしているので、そのような路線対立をするパワーは残っていない。習近平国家主席が言っていることがすべてなのです。

習近平氏直属の共産党幹部が外交部を取り締まる ~ロケット軍を含め、組織が腐っているから

峯村)秦剛さんに関して、複数の中国筋から聞いたところによると、いま取り調べを受けているという話があります。

飯田)取り調べを受けている。

峯村)取り調べをしているのは外交部ナンバー2の斉玉・共産党委員会書記です。もともとは彼も習近平さんの直属で、外交官でも何でもない人物です。党が政府をグリップしているので、外交部自体の力がなくなっています。それが今回の事件によって、より弱体化していくのは間違いありません。

飯田)外交官ではない人が政治将校的にナンバー2にいて、その人が取り調べを行う。

峯村)おっしゃる通りです。ロケット軍も自殺してしまったり、行方不明になったりする幹部が続出していますが、これも同じ構図です。先日、司令官とナンバー2の政治委員が解任されました。そして空軍・海軍からミサイルを扱ったこともない素人が来た。組織が腐っているからこそ、習近平閣下直属の党の人間が送りかまれて綱紀粛正をする構造になっているのです。

中国・秦剛前外相「解任」の影に「アメリカの影」

中国の秦剛国務委員兼外相(右)と握手する林芳正外相=2023年4月2日、中国・北京の釣魚台迎賓館[代表撮影] 写真提供:時事通信

秦剛氏の疑惑は汚職か情報漏洩のどちらかしかない

飯田)スキャンダルでもないとなると、憶測ですが汚職や着服、不正蓄財などの方向ですか?

峯村)そうですね。私も一時期、中国の汚職について、過去の判例をすべて調べたことがあります。過去の外交部長で李肇星さんという人がいましたが、この方にも愛人疑惑がありました。このため外交部長は1期しかできませんでしたが、処分されることはありませんでした。そのケースからしても今回、秦剛さんに不倫・愛人・隠し子等の疑惑だけでは、処分されることはないのです。

飯田)中国の感覚で言うと、それくらいのことであれば。

峯村)そうですね。となると、もはや2つしかない。その1つが蓄財などの汚職です。もしくは情報漏洩。この2つしかないだろうと思います。

習近平氏を知りすぎた男でもある秦剛氏 ~側近としてかつては習近平氏の外遊を取り仕切ることも

峯村)現在、中国共産党内で取り調べ中なので、何かを判定するには時期尚早ですが、もし情報漏洩だとすれば、問題は大きいだろうと思います。秦剛氏は駐米大使になる前は、習近平氏の外遊をすべて取り仕切る儀典局のトップを務めていました。すべての習近平氏の外遊について行った。つまり、いちばんの機密情報である習近平氏の体調や精神の状況をすべて知っているのです。

飯田)なるほど。

峯村)昔、北朝鮮の金正日さんが中国に行くとき、私も行って取材しましたが、当時もトイレの排泄物を持ち帰る専属の担当者がいたことを、中国の人から聞いたことがあります。

飯田)排泄物を持ち帰る係。

峯村)排泄物から健康状態などがすべてわかってしまうからです。それくらい機密性の高い仕事を、秦剛氏は2年間ずっとやっていた。知りすぎた男なのです。

習近平氏が抜擢した秦剛氏と肝入りで新設したロケット軍幹部がいなくなったことは何を示しているのか

峯村)もう1つは、秦剛氏は56歳で外交部長に就任しています。初代外交部長だった周恩来さんの次に若いのです。習近平氏が異例の抜擢をした、まさに「習近平人事」の象徴のような存在でした。

飯田)習近平人事のいちばんの人事。

峯村)相次いで「習近平人事」の幹部が失脚したことは何を意味するか。最も損をしたのは、実は習近平氏だということです。習近平政権にとって大きなダメージになっていると思います。

飯田)いちばん損をしているのは習近平氏。

峯村)先ほど申し上げたロケット軍もそうです。ロケット軍も習近平氏の肝入りで2017年に格上げされ、「これから台湾併合に使うぞ」と言ってつくったのですが、それが汚職でみんないなくなった。これらが同時に起きているのは、一体どういうことなのか。

影にアメリカの匂い

峯村)1つ重要なパーツを言うと、「米中対立」ということです。「一連の事件の背景にアメリカの存在があると、この事件の本質が深まるのではないか」ということです。

飯田)汚職対策で虎もハエも叩いて上がってきた人が、叩いていなかったのは自分の身内だけだった。いまそれが噴き出してきている。

峯村)事件の前後して、バイデンさんが習近平主席を「独裁者」と表現したり、中国の経済問題を酷評したりしている。すべてが符合するのです。

番組情報

飯田浩司のOK! Cozy up!

FM93/AM1242ニッポン放送 月-金 6:00-8:00

番組HP

忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。

Page top