金正恩体制での「叱責」の変化が北朝鮮の「軍事技術」を急速発展させたか

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軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が8月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。8月24日~31日の間に打ち上げを通報してきた北朝鮮の「人工衛星」について解説した。

金正恩体制での「叱責」の変化が北朝鮮の「軍事技術」を急速発展させたか

新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射実験を視察する金正恩朝鮮労働党総書記(手前)=2022年3月24日、平壌(朝鮮中央通信=共同) 写真提供:共同通信社

北朝鮮、24日~31日に「人工衛星」打ち上げを通報

海上保安庁は8月22日、北朝鮮の船舶の安全に関する業務を行う水路当局から海上保安庁の海洋情報部に対し、メールで24日午前0時~31日午前0時までの間に「人工衛星」を打ち上げると通報があったと発表した。落下が予想される海域は、いずれも日本の排他的経済水域(EEZ)の外側にある黄海や太平洋の3つの海域で、海上保安庁は航行警報を出して注意するよう呼びかけている。

打ち上げられる「衛星」は米韓の軍事的行動を監視するための偵察衛星

飯田)北朝鮮が「人工衛星」と称するものですが、どんなものだと考えられますか?

黒井)人工衛星は人工衛星ですが、低い軌道を通って軍事用に写真を撮る、軍事衛星のなかでも「偵察衛星」と呼ばれるものです。

飯田)以前から北朝鮮が欲しがっているものですか?

黒井)2021年1月、正式に「偵察衛星をつくって米韓の軍事的な行動を監視する」と宣言していましたので、それに向かって進めていくのでしょう。

飯田)米韓の軍事的な行動を監視するため。

黒井)ただ、前回も1回発射して失敗し、落ちています。7月上旬に韓国がそれを回収して解析したらしいのですが、まだまだ性能が低いということです。北朝鮮は今後も積極的に打ち上げ、徐々に性能を上げていこうとしているのだと思います。

技術者に対しては優遇しており、1回1回の失敗に対する叱責は少なくなっている ~それが技術の急速な発達に結びついている

飯田)5月に打ち上げが失敗していますが、今回はある意味、リベンジのようなものと考えていいのでしょうか?

黒井)そうですね。失敗した原因も北朝鮮は素早く発表しています。エンジン系統と燃料系の問題だということなので、改善にはもう少し時間が掛かると思ったのですが、3ヵ月が経ち、ある程度自信ができたので今回も打ち上げるのでしょう。

飯田)北朝鮮のような国では、何か失敗があると関係者が処罰されるのではないか、そのために遅れるのではないかというようなことも言われていますが、このタイミングだと、そういうことはなかったのでしょうか?

黒井)早かったですよね。ただ、北朝鮮側もさまざまな会議があり、そのなかで幹部の怠慢を叱責したこともありますので、責任追及がなかったわけではないと思います。

飯田)なかったわけではない。

黒井)ただ、技術者に対しては優遇しており、金正恩体制になってからは「どんどんやれ」という方針で、1回1回の失敗に対する叱責は少なくなっています。

飯田)金正恩体制になってから。

黒井)それが技術の急速な発達に結びついているのではないでしょうか。褒めてはいけませんが、リーダーとしてうまくやってきたとは言えると思います。

北朝鮮とロシアが接近するお互いの理由

飯田)ウクライナ情勢についてですが、ロシアと北朝鮮のつながりもいろいろと言われています。実際にはどうなのでしょうか?

黒井)ロシアとしては「孤立したくない」ということで、パレードにショイグ国防相を派遣するなど、アメリカと敵対する北朝鮮に近付いています。北朝鮮側としても、アメリカを刺激するようなことを行うためには、国連の常任理事国であるロシアの後ろ盾があるのは大きいですからね。

飯田)兵器や人員についてもロシアに供与しているのでしょうか?

黒井)人員はまだ明確に確認されてはいません。ただ砲弾の供与に関しては、アメリカ当局が小出しに情報を出していますので、そういったことがあると言われています。

飯田)経済的にも苦しいのに、よく打ち上げられるなと思うのですが、ロシアからお金を引っ張ってきているのでしょうか?

黒井)北朝鮮はああいう国ですので、国家経済のなかで、国民福祉などに掛かる予算をすべて軍事優先に回しているのでしょうね。

中国との定期航空便を再開した北朝鮮

飯田)北朝鮮が中国との航空便を再開させたことが話題になっていました。これから経済も回していこうという意思があるのでしょうか?

黒井)コロナ禍になってから金正恩氏はコロナ対策として、素早く中国やロシアとの関係を切りました。これは金正恩氏にしか決められないことですので、本人が相当、コロナに対して神経質だったということです。しかし、重症化が減ってきたこともあり、開いていくのでしょう。これもトップ判断です。

8月24日が打ち上げの計画日

飯田)8月24日午前0時~31日午前0時までの間に打ち上げるという通報がありましたが、いつごろという見込みはあるのでしょうか?

黒井)宇宙ロケットを打ち上げるときには、このような予告をするのですが、基本的には最初の日が計画日なのです。天候が悪かったり、直前のテストで不具合があった場合の予備日として、うしろに期間を設けます。何ごとも問題なければ、おそらく初日か2日目くらいに行われると思います。

飯田)午前0時から引っ張っていますが、夜間なのか昼間なのかに関してはどうでしょうか?

黒井)それも北朝鮮の考え次第ですので、はっきりとはわかりませんが、夜でも昼でもすべて可能性があるということです。ただ、タイミングとしては早朝に打ち上げる可能性が高いと思います。

飯田)その方がいろいろなデータが取りやすいのですか?

黒井)南北にグルグルと回すのですが、太陽光線が入る時期なども考えると、そのような時間帯が多いのだと思います。

何か不具合がなければ、日本の海域に落ちる可能性は低い

飯田)今回、北朝鮮が指定した海域は日本のEEZ外ですが、万が一、国内に何かが落ちてきたら大変なことになりますよね。対策はあるのでしょうか?

黒井)破壊措置命令として、北朝鮮の計算ミスで日本の海域や陸上に落ちる可能性がある場合は、自衛隊のイージス艦や地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が展開します。

飯田)南側に打ち上げることになれば、南西諸島辺りが警戒域に入ってくるのですか?

黒井)基本的には、宮古島、宮古海峡の辺りの上空を通過することになると思いますが、万が一にも韓国・中国・日本の方へ行かないよう、ジグザグにコースを取ります。特に何か不具合がなければ、日本の海域に落ちる可能性は低いので、それほど気にしなくていいと思います。

飯田)むしろ、獲得される能力の部分が問題でしょうか?

黒井)そうですね。北朝鮮がこれから軍事偵察衛星を実用化するには、何年か掛かると思います。しかし、弾道ミサイルに関しては技術を持っていますので、北朝鮮全体の軍事戦力が急速に高まっていることは大きな問題だと思います。

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