ジャーナリストの佐々木俊尚が9月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。9月5日に開幕したASEAN首脳会議について解説した。
ASEAN首脳会議が開幕、中国の新しい地図に反発の声
東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会議が9月5日、インドネシアの首都ジャカルタで開幕し、議長を務めるジョコ大統領は会議の冒頭、インド太平洋地域で激しくなるアメリカや中国など大国の競争とは距離を置く姿勢を強調した。一方、中国が先週発表した新しい地図をめぐって、南シナ海で中国と領有権問題を抱える加盟国から反発の声が上がった。
中国の新地図にアジア各国が反発 ~主張する領有権を「十段線」に拡大
飯田)マレーシアのアンワル首相は、新しい地図について「一方的な主張で認められない」と批判しています。
佐々木)中国はもともと南シナ海周辺の領有権を主張する「九段線」を用いて、マレーシアやインドネシアに近いところまで「我が国の領土だ」というようなことを言い、「何を言っているのだ」と批判されていました。
飯田)九段線に対して。
佐々木)台湾は中国の東側にあり、いままでは中国と台湾周辺に国境線があるという感じでしたが、今回ついに台湾の東側、つまり日本の与那国島などの辺りまで迫ってくる形で線が1本増やされ、九段線が十段線になった。
飯田)その線を一般の地図と重ねてみると、与那国島に被っているようにも見えます。
佐々木)線が太いので交わっているようにも見える。「ここまで言うのか?」という感じですよね。
インドネシア・ジョコ大統領「ASEANは平和維持のため、いかなる勢力の代理にもならない」 ~中国に寄るつもりはないが「日米欧」側に寄るわけではない
佐々木)ASEANが注目されていますが、そもそもASEANはどういう立場になるのか。もちろん十段線には激しく抗議していますが、一方で中露と対立する日米・西側諸国とASEANが完全に「歩調を合わせてくれるか」と言うと、そういうわけでもなさそうです。
飯田)西側と歩調を合わせるかと言えば。
佐々木)議長国はインドネシアなのですが、ジョコ大統領は開幕式で「ASEANは平和維持のため、いかなる勢力の代理にもならない」と言っています。中国に寄るつもりはまったくないけれど、だからと言って「日米欧」側に寄るわけではない。それについて一応、釘を刺している感じです。
ASEAN諸国は今後、中国との関係をどうするのか ~中国と西側とのバランスをどう取るのか
佐々木)どうやってバランスを取るのか。もちろん経済的にASEAN・東南アジアは中国と深い関係があるので、そう簡単に手を切れません。
飯田)そうですね。
佐々木)一方で、政治的に中国へ寄ってしまうと侵略される心配があるので、それもできない。その舵取りをどうするのか。
飯田)中国との関係を。
日本はグローバルサウスの問題と向き合ういい機会になる
佐々木)今回、日本からは岸田さんが行っていますが、中露でもなく日米欧でもないグローバルサウスの問題について、向き合ういい機会になるのではないでしょうか。
飯田)今回のASEAN首脳会議で。
佐々木)どういう形で仲よくできるのか、こちら側に引き寄せられるのか。それが試されているのが1つ。
G20サミットで中国・李強首相はどのような発言をするのか ~岸田総理との個別対談はあるのか
佐々木)もう1つは、そのあと20ヵ国・地域(G20)首脳会議がありますよね。
飯田)インドで開催されます。
佐々木)そこにも岸田さんが出席しますが、中国からはナンバー2の李強首相が来ます。そこで何が話されるのか、もしくは個別対談があるのかどうかも注目ポイントだと思います。ちなみに李強さんは首相なのですが、以前は上海の市長を務めていました。
飯田)首相になる前は。
佐々木)そこから習近平氏の側近のような感じで引き上げられ、ナンバー2になってしまった人ですから、実は経済に詳しくないなどとも言われている。いま中国では、習近平氏の経済失策が問題になっています。
飯田)不動産など。
佐々木)不動産の大不況で、日本のバブル崩壊に近いような状態だとも言われています。失業率が上がっており、経済成長率もはっきりとした数字はわからないけれど、相当低いのでしょう。中国の長老が集まる会議がありますよね。
飯田)北戴河会議。
佐々木)そこでも長老陣から「大丈夫なのか?」と釘を刺されたというような報道もあります。このあと習近平氏がどう出るのかに注目が集まっており、そのなかで李強首相が何を言うのかも気になるところです。
「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は中国を排除するものではない ~その前提であれば、ASEANも入りやすい
飯田)ASEANに関して言うと、彼らは大国の従属変数のようにはなりたくない。自分たちで自分たちのことを決めていくという考えがあり、それは当然のことです。
佐々木)そうですね。
飯田)日本はそこを尊重するようにアプローチしてきた部分があります。
佐々木)安倍さんが掲げた「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は、中国を排除するような構想ではありません。インド洋から太平洋に至る一帯を自由で開かれたものにして、「1つの強権国家が支配する構図にしない」という枠組みなわけです。
飯田)この枠組みは。
佐々木)ASEANも肯定できる、仲間にできるものであり、「中国を排除しない」という前提であればASEANも入りやすいと思います。
日本が持つ「自由で開かれたインド太平洋」構想と「法の支配」という理念が新しい世界秩序の中心的な概念になりつつある ~日本の立場は大きい
佐々木)あとは、日本が打ち出してきている「イデオロギーによる支配ではなく、法の支配である」という考え方です。
飯田)法の支配。
佐々木)アメリカのようにキリスト教的なリベラリズムに基づいた考え方で進めると、「我々はアメリカのイデオロギーの味方ではないので」ということになってしまう。
飯田)ASEAN諸国としては。
佐々木)しかし、日本が示すのは法の支配です。国際法に基づき、国際法に違反した国に関しては徹底的に批判するけれど、違反しないのであれば、みんな仲間にできるという考え方です。
飯田)法の支配というのは。
佐々木)これもやはり中国を排除していないので、ASEANとしても同意しやすいと思います。アメリカが世界の警察から撤退し始めて10年ほど経ち、なおかつヨーロッパの力も衰えている。そのなかで、日本が持つ「自由で開かれたインド太平洋」構想と「法の支配」という理念は、新しい世界秩序の中心的な概念になりつつある。そう考えると、日本の立場は大きいと思います。
アメリカは台湾問題にどこまでコミットするのか ~「十段線」によって台湾問題にどのような変化が起こるのか
飯田)9月6日はASEANプラス3(韓中日)首脳会議、7日は東アジアサミットがあります。それには中国も参加するし、アメリカからもハリス副大統領が来る。ここで日本が何を打ち出していくのか。
佐々木)アメリカは台湾問題にどこまでコミットしてくれるのでしょうか。中国が十段線という謎の領土地図を出したことによって、台湾問題にどんな変化が起きるのかも気になります。
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