EUが中国製EVを調査するのは「EV推進勢の内ゲバ」のようなもの

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戦略科学者の中川コージが9月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。EUによる中国製EVの調査について解説した。

EUが中国製EVを調査するのは「EV推進勢の内ゲバ」のようなもの

中国で開かれた上海国際モーターショーの中国の電気自動車(EV)メーカー「比亜迪(BYD)」のブース=2021年4月19日 写真提供:産経新聞社

EUが中国製の電気自動車の補助金めぐり調査へ

欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は中国製の電気自動車(EV)について、「国からの巨額の補助金で価格が人為的に低く抑えられている。我々の市場を歪めるもので容認することはできない」と述べ、中国当局が不当な補助金で輸出を支援していないかどうか、調査に乗り出す方針を表明した。

飯田)ビジネスにおいて、中国とヨーロッパの関係が良好だったのは、過去の話になりますか?

欧州と中国のEV推進勢の内ゲバ

中川)EU、欧州側の対中強硬が強まった形ですよね。でも、欧州と中国のEV推進勢の内ゲバという感じがします。

飯田)なるほど。

中川)欧州がルールをつくり、自分たちも利益を上げて、中国としても自分たちで生産して外に出す。ある意味の一蓮托生で進めてきたけれど、経済安全保障も含めて、EU側が押されすぎた。「EVが売れなくなってしまうと困る」というメーカーの意向もあって、「内ゲバをしているな」という気がしますね。

飯田)欧州と中国で。

中川)あまり言ってはいけないけれど、両方が体力を削いでくれるなら、自動車を頑張りたい日本勢にとってはよいことかも知れません。

既定路線としてある欧州における「対中政策の強硬化」

飯田)ヨーロッパの立ち位置も国によって違います。中国に対して「フランスはウェルカムだ」というところがあり、決して一枚岩ではありません。

中川)先日のG20で、イタリアが一帯一路から抜けるという話がありましたが、当然、政治的には対中強硬路線が強まっています。経済的なデカップリングも進んでいるので、対中政策の強硬化は既定路線としてあると思います。

補助金は中国だけではなくEUも出している ~「俺の権益を侵すな」という話

中川)EVに関しては、ヨーロッパ自体がEV推進であり、自分たちの産業を保護する方向で、中国に泥を投げつけたのだと思います。

飯田)泥を投げつけた。

中川)補助金と言っても、EUもやっているわけです。両方やっていることなので、表面上は意識の高い言葉を使っているけれど、要は「俺の権益を侵すな」という話です。

飯田)EUも補助金はつけている。

中川)日本側の立場としては、「両方が泥を投げ合ってくれればいい」ということで、漁夫の利を得たいところです。

G20に習近平氏が出席しなかった理由

飯田)今回のG20に習近平さんは出席しませんでしたが、どんな意図があるのですか?

中川)意図分析については、非公開で動いている政治的な話なので明言できませんが、基本的にはインドに対する当てつけだと思います。また、習近平政権の第3期目が発足し、政権が盤石になったので、習近平指導部がそれほど弱腰になる必要がなくなったこともあります。

飯田)政権が盤石になり。

中川)さらに李強氏は、いままでの李克強氏よりも完全な子飼いなのでハンドリングが効くため、「小習近平」のようなものなのです。ですから、「行かせても変なことはしないだろう」という判断があったと想像できます。

G20開催時のインドの新聞には、一面にモディ首相の顔を大きく掲載

飯田)G20を開催したとき、インドの町中のペナントにモディさんの顔写真があったと聞きましたが。

中川)モディ、モディ、モディ……でした。

飯田)選挙対策感が丸出しで。そのあともいろいろ感じましたか?

中川)手元に当時のインドの新聞がありますが、一面にモディさんの顔が「バーン」とあるわけです。

飯田)『ヒンドゥスタン・タイムズ』という現地の英語新聞ですけれど、これは一面広告ではないのですか?

中川)一面広告ではなく、記事として載っています。日本で言えば、G7の記事に岸田さんの顔が「バーン」と載っていたら、野党から相当批判が出るではないですか。

飯田)「これは自民党の広報紙か!」などと。

「独裁国家か?」と思うような側面も

中川)政権がやっていることとして、公私混同というか……。

飯田)新聞社の意思でモディさんの顔を載せるという判断をしたのですか?

中川)他のところも全部載っているのですよ。メディアの方も、その辺りに対する違和感がなくなってしまっている。

飯田)政権には忖度するものだと。

中川)忖度という考えもないかも知れません。モディさんは支持率も約7割で抜群に高いし、「どこの独裁国家だ?」という感じはあります。

飯田)よく世界最大の民主主義国家と言われるではないですか。

中川)最近は人権問題なども言われますが、コミュナリズムというイスラム・ヒンドゥーの対立を煽ってしまったり、ヒンドゥー・ナショナリズムや、BBCのオフィスを家宅捜索するなど、情報統制もあります。

飯田)BBCの事件がありました。

中川)「人権弾圧」となると「赤い国か?」と思うのですが、日本では考えられないような政権上げ的なことを行います。

アフリカ連合(AU)をG20に入れたことは、G20に中国の影響力があるワンポストを用意したことになる

飯田)それが外交にも入ってきますか?

中川)最近はアフリカ連合(AU)がG20への参加を決めました。習近平氏がBRICSの首脳会談に行ったときも、AUと会談しています。「G20への参加をあと押しする」と言っていましたが、規定路線通りG20では、議長国のインドも「参加」に合意しています。インドとしては、自分が議長国のときにG20へAUを入れたことになり、これも選挙目的です。

飯田)選挙目的。

中川)外交的にプラスだと彼らは思っているのです。内政も外交もプラスだと思っているけれど、外交的には、AUは中国の影響力が高いアフリカ諸国の集まりですので、G20に中国の影響力があるワンポストを用意したことになります。

飯田)敵に塩を送ったような。

内政のためにアフリカ連合を警戒もなくG20に入れてしまったインド ~今後の外交を考えるとプラスにはならない

中川)インド側にとって、内政はプラスかも知れないけれど、果たして外交的にG20にとってプラスかと言うと、そうではありません。

飯田)AUを入れたことは。

中川)AUが入るのは悪いことではないけれど、インドが議長国でないときに行われるG20もあるわけです。警戒もなく、諸手を上げて歓迎する感じだったので、「G20のお祭りムードに飲み込まれているな」と思いました。

飯田)すべてをモディ上げに使うと。

理解不能な自信を持つインド

中川)政権の方ではなく、比較的政権から遠い識者にも聞いたのですが、「アフリカではインドの方が中国よりも影響力が大きいから」と不思議なことを言っていました。

飯田)実際は中国の影響下にあるのに。

中川)もちろん、民主主義という側面ではいいのかも知れませんが、そもそもアフリカ諸国は民主主義に対して、別に教条主義的な考え方にウェルカムではないところもあり、専制国家も存在します。なおかつ「経済的な投資」という実利をアフリカ諸国は喜ぶので、中国の投資を喜んでいるのですが、中国からの投資額は全然違います。

飯田)多い。

中川)イデオロギー的にも微妙だし、投資をきちんと受けているという意味では、アフリカにははるかに中国シンパの方が多いのに、謎の自信がインドの識者にはあるのです。モディさんの強権的な体制や、内向きの選挙対策、外交有識者たちの謎の自信もあり、インドはよくわからない自信をつけている気がしますね。

インドが大国化した場合、日本は毎回、相当な外交コストを掛けた計算をしていかなければならない

飯田)いまのところ日本には、そのベクトルはきていませんが、そのうち訪れますか?

中川)日本の難しいところは、アメリカに関して利害が合わない場合、主従的な関係が我々の頭に浮かびますし、中国については「イデオロギーが違う」という話になります。

飯田)アメリカや中国に対しては。

中川)要は、極限状況になったときの意思決定において「敵、味方」という判断ができるのですが、インドに関しては、我々は定義がないのです。

飯田)「この人は敵か味方かわからない」というような。

中川)「日本にとって間違いなくいい」と判断できればいいのですが、「どちらか判断がつかない」という場合、インドに乗った方がいいのか、悪いのか、毎回計算して判断しなければならないのです。外交コストが相当、大変な国だなと思います。

飯田)その上、いろいろな商習慣が違うし、騙してくる。

中川)「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」ができましたが、これにも「乗るか」と言われたら、日本は毎回計算しなければいけない。今後、インドが大国化していくときに、日本は相当な外交コストをかけた計算を行う必要があり、「コスト増の要因が増えたな」という感じがします。

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