産経新聞台北支局長の矢板明夫氏が9月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。台湾情勢について解説した。
日米外相、台湾海峡の安定維持を確認
上川陽子外務大臣は9月18日夜、米ニューヨークでブリンケン国務長官と初めて会談した。覇権主義的行動を強める中国を念頭に、台湾海峡の平和と安定の維持や、東シナ海、南シナ海での国際法順守の重要性を再確認した。またロシアによるウクライナ侵略や、北朝鮮による核・ミサイル開発、拉致問題への対応でも緊密に連携することで一致した。
台湾周辺に中国軍機が103機 ~中国軍機が来ることは数年前から続いていて珍しいことではない
飯田)台湾周辺で延べ103機の中国軍機が活動したという報道は、日本でも大きく取り上げられています。台湾内部での受け止め方はいかがでしょうか?
矢板)飛行機の数は多いのですが、ここ数年間、毎日のように中国機が来ており、60機~70機という数はよくありました。18日は103機、19日は55機が確認されています。
飯田)珍しいことではない。
矢板)最近、中国国内では国防相の李尚福氏が行方不明になっています。国防相不在のなかで行われる軍事行動の意味を、台湾社会はかなり気にしています。
飯田)どうなっているのかと。
矢板)ただ、飛行機がたくさん来ている状況は数年前から続いているので、今回はたまたま数が多いということです。
外交と安全保障のトップがともに失脚 ~習近平政権の内部を結束させるために台湾を侵攻しないかと気にする台湾社会
飯田)李尚福国防部長が行方不明で、それ以外にも戦略ミサイル部隊「ロケット軍」の司令官が交代しました。人民解放軍内が混乱しているのかどうか、台湾内での分析はいかがですか?
矢板)いまの国防相もそうですが、前の魏鳳和国防相もいなくなっていますし、数ヵ月前には秦剛外相も失脚しています。
飯田)そうですね。
矢板)外交と安全保障は、国にとって最も重要な2つの柱ですが、外交トップと安全保障トップが突然失脚してしまった。台湾から見ると、「習近平政権は大丈夫なのか」と感じます。もし習近平政権の内部に大きな混乱が起きた場合、「内部を結束させるために台湾を侵攻するような暴走につながるのではないか」と台湾社会は気にしています。
ウクライナ情勢におけるポーランドの役割を求める台湾社会
ジャーナリスト・佐々木俊尚)以前、台湾国内で世論調査をしたら、「日本の自衛隊に期待したい」という声が多かったと聞きました。中国が侵攻した際、日本への期待はいかがでしょうか?
矢板)日本がいちばん近いわけですし、近年の日台関係も良好です。ウクライナで紛争が起きていますが、ウクライナの隣国ポーランドはウクライナに対する支援を一生懸命行っています。武器供与の他、軍事訓練も行い、物資を送り、難民の受け入れもしています。
飯田)ポーランドが。
矢板)もし台湾海峡で同じような戦争が起きた場合は、ウクライナ紛争におけるポーランドの役割を日本に期待する台湾人は多いと思います。一方で、日本の法整備を見ると難しいのが現状ですね。
安倍元総理や麻生氏の発言から、有事における日本に対する期待が高まる台湾社会
佐々木)台湾側としては、日本がそこまでコミットできないという日本国内の難しい状況を認識しているのでしょうか?
矢板)人によると思います。ただ、安倍晋三元首相の「台湾有事は日本有事」という発言や、8月の自民党・麻生副総裁訪問時の演説での「日米台には戦う覚悟が必要だ」という発言は、日台関係をさらによくする側面があり、日本に対する台湾社会の期待が高まったとも言えます。
日台での安全保障に関する対話を深めるべき ~台湾で起きていることは日本の安全保障にとっても大事なこと
飯田)日本の大使館に相当する対台湾窓口機関の台北事務所に、防衛省の現役職員が入ったことがニュースになっています。実務的に連携しようという動きが出てきているのでしょうか?
矢板)いままで入っていなかったのは、日本が中国に対して配慮しすぎたところがあったのです。例えばアメリカや韓国などの主要国は現役の武官を置いたり、現役の防衛省職員を置いていますが、日本だけがいわゆる退役した自衛隊OBなどの方しか入らなかったのです。
飯田)日本だけ。
矢板)去年(2022年)、アメリカのペロシ下院議長(当時)が台湾に来たとき、中国は軍事演習を行い、台湾周辺にミサイルを撃ちました。12発撃ったのですが、日本で確認できたのは9発だけです。そのうち5発が日本のEEZ内に入っています。日本のレーダーシステムの範囲が狭いため、日本は「何発撃ったのか」すら把握できなかった。台湾の南の方がカバーできない状況なのです。
飯田)日本のレーダーシステムの範囲が狭く。
矢板)台湾で何が起きているのかは、日本の安全保障にとっても非常に大事であり、日台で防衛に関する情報交換を行う必要があります。そういう意味で当然、日台で安全保障に関する対話をもっと深めるべきだと思います。
2024年1月に行われる台湾総統選の行方 ~野党の3候補の支持率を合わせると50%に
飯田)来年(2024年)1月の総統選が迫っています。ここへ来て、鴻海の会長である郭台銘さんが無所属で出馬すると発表されましたが、現在の情勢はどうなっているのでしょうか?
矢板)与党・民進党の頼清徳候補が世論調査でトップを走っていますが、支持率は3割後半です。いま、郭台銘さんを入れると野党は三分裂しています。郭台銘さんは10%強前後ですが、それぞれの野党候補は20%台の支持率がある。それを合わせると50%くらいになるのです。
与党・民進党の頼清徳候補が世論調査でトップだが、野党が候補を一本化すれば厳しい選挙に
矢板)もし明日投票すれば、与党の頼清徳さんが勝つのですが、野党のなかで一本化を模索する動きが出ています。野党候補の一本化が実現すれば、与党にとって厳しい選挙になってしまうわけです。
飯田)野党候補を一本化すれば。
矢板)一方、民進党は親米・親日という路線をはっきりさせていますが、野党の3候補はいずれも中国との関係を深めるべきだという立場を取っています。そういう意味で「親米・親中」という構図になり、「米中の代理戦争」と言う人もいます。
「中国と対話を深めて軍事的な緊張を下げよう」という側面が野党3候補にはある
飯田)野党候補は他に最大野党・国民党の侯友宜氏、中間派である台湾民衆党の柯文哲氏がいます。侯友宜さんは、いまアメリカへ行っていますよね? この辺りは親中という印象を払拭したい向きがあるのですか?
矢板)台湾にとって、日本とアメリカは外交的に重要な国です。そういう意味でどの政党も、立候補したら日本・アメリカの支持をもらわなければ選挙は戦いにくいのです。
飯田)どの政党であっても。
矢板)当然、いま親中派は国際社会でも受け入れられません。台湾内でも受け入れられないのですから、みんな「自分は親中派ではない」という立場です。でも、そのなかで「中国と対話を深めて軍事的な緊張を下げよう」という側面が野党3候補にはあるのです。
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