伊集院光が、ニッポン放送で28年ぶりにワイド番組「伊集院光のタネ」(火~金曜日 17:30~18:00/10月3日スタート)を担当する。ラジオへの思い、新番組への思い、そして番組タイトル「伊集院光のタネ」に込めた思いを訊いた---
――ニッポン放送でのワイド番組はおよそ28年ぶりとなりますが……
流れ流れて戻ってきましたね。紆余曲折、紆余曲曲折折折くらいありまして、恥も外聞もなくこちらに転がり込んでまいりました。
ニッポン放送で久しぶりのレギュラーと銘打って『ニッポン放送ショウアップナイタースペシャル 伊集院光の集まれ!野球おじさん』という番組を既にやっているんですよ。ところが、これはナイター中継がない日に放送される、レギュラー番組なのにとても変則な番組だったので、4月から始まってこの10月までに3回、ローテーションの谷間も谷間で、しかも毎回時間もまちまち、みたいな形でやらせてもらっていて。その時のスタッフの方が「とりあえず、コイツはニッポン放送のビルの中に入れても破壊工作を行ったりはしないだろう」という確認ですよね。執行猶予みたいな。そんな安全確認期間が終わったので、「次は!」ということでナイターオフの6か月やらせてみようか、って思ってくれたんじゃないかと思います。この6か月、何事も、なにもなかったらまた次を考えてもらえるんじゃないかと思っています。
ディレクターの加藤さんは、ニッポン放送で最初に僕がやってた『オールナイトニッポン』時代も知ってくれているので、その頃の感じもちょっと思い出しながら。お互いおじさんになったことで学んだこともあるので、それをぶつけ合っていけたらな、と思っています。
まったく知らないという仲じゃない人がいてくれているのは心強くて、変な感じで心身ともに肥大化して戻ってくると「伊集院“さん”」ってなるじゃないですか。どう接すればいいのか……となるところを、当時から居るディレクター陣が、当時の温度感で「伊集院くん」とか「伊集院」って言ってくれると、それはとても楽ですね。まったく違くなっちゃうと、どう触っていいかもわからないまま、ナイターオフの半年はあっという間に過ぎちゃいますから。
――番組タイトル「伊集院光のタネ」に込めた思いは?
よく「話のタネ」と言いますが、「タネ」自体はこちらで知恵を振り絞って考えて蒔くことはできますが、水や肥料を与えてもらうのはリスナーの方にお願いしたい、というか、「リスナーの方、頼みますよ!」という感じです。だからいいタネをできるだけたくさん蒔こう、と。メールのテーマみたいなものになるんですけど、そのタネに対して「それだったら俺こんなのあるよ」と言ってくれると、タネが上手に芽吹いて、枝分かれして、また新たなタネをつける、というのが僕の理想で、いろいろ迷ったのですが「伊集院光のタネ」に落ち着きました。
――どんな番組にしていきたいですか?
基本的なシステムとしては、メールテーマをたくさん用意します。僕たち一応プロとされている喋り手は、いろいろなところから、広く浅く様々なネタがあるからこそ一応プロを名乗って飯を食っているんですけど、普通にいろんな仕事をしている方のなかにも1個2個必ず面白い話ってあると思うんですね。それをなんとか掘り起こせるような魅力的なメールテーマをたくさん考えて、まず目標は(ニッポン放送の周波数が)FM93.0なので93個メールテーマを目標に、「これだったら書けるよ」「これだったらとっておきのあるよ」というのをどんどん送ってもらうと、そこからまた、芽吹く可能性があると思うんですね。
さっきも、僕にはないけど、もしかしたらラジオを聴いている人の中には痛烈な話があるんじゃないの?というテーマで「泥棒入られたことありますか?」はどうだろうって話をしていたら、早速スタッフが「俺入られたことある!」と。「指紋をとった粉をふき取るのって警察やってくれないんだよ。帰ったあとに指紋ふきとりながら“なんで俺これやってるんだろう”って思った」という話がいきなり出てきて。それを話していたら、ボヤの話も出て来て。もちろん人命に関わってると笑えないんだけど、泥棒にあった話とは別でもう1個タネ植えられるねって話になったんですね。こういうことがトークの途中とか番組の途中とか、リスナーのくれたハガキやメールで、新たなタネを蒔いていくと、最初タネだったものが森になるような、そういう感じにできるかな、と。この森に行くと涼しくていいね、とかこの森に行くと食べ物が生ってるね、という感じになってくれるのが理想ですね。
メールとトークという基本的なところに凝縮した30分×6か月というのは、かなりやりたいことが提案できたし、この番組は本当にオーソドックスなラジオ番組なんですが、いろんなものを入れながら出来そうなので、それはすごく楽しみです。
あと、パートナーが日替わりになります。録音がかなりマチマチな時間になるし、1本録る日や2本録る日、急にここ録ってたけど生放送にする、みたいなことがすごい増えると思うんです。なので「時間が空いてる人はどんどん手伝ってください」という形で。ニッポン放送のアナウンサーさんと、自分が所属しているホリプロのアナウンス部的なものもあるので。「空いてたら出てくれる?」みたいな。それも楽しみですね。
――パートナーに期待することは?
ひと昔前の「女性アシスタント」はまさにアシストをする立場だったと思うんですけど、そういうことは望んでいないです。僕は知識がかなり偏っているので、本当に当たり前の「子育てしていると……」みたいなことが全然わからなくて。だからそういうことを聞きたいし、とにかく男女関わらず僕の知らないことや目線を話して欲しいです。思わず僕が聞き手に回っちゃう30分があってもいいと思っていて。自分が喋りたいって思ったら喋ってほしいですし。そういう意味でも、スタイルは昔のラジオと変わっていないんだけど、実は僕の中では新しいことで。パーソナリティが「僕にも喋らせて!」って言うことってないじゃないですか、今まで。それで全然いいと思っていて。クイズ番組に出ているから、それなりになんでも知っていると思われてますけど、びっくりするほど、わからないことが多い。かみさんに何回言われても蠣の殻を燃えるゴミに捨てていいかどうかが分からなかったりするので。パートナーさんに主導権をとってもらっていいですし、むしろお願いしたいし期待しています。
――メディアが取り巻く環境が変わってきたなかで、伊集院さんにとってラジオとは?
僕が他局で担当した特番で、痛烈に覚えていることがありまして。開局10周年とか20周年の当時のインタビューなんですが、そのときに「未来のラジオはどうなると思いますか?」という街頭インタビューに、みんな「映像が出ると思う」と答えているんです。聞く人聞く人「映像が出ると思う、未来のラジオは目でも見られるようになる」って話をするんですね。それを思ったときに、映像は出るようになったけど、それはテレビと呼ぶようになったんだっていう。だから、ラジオはずっとラジオのまんまなんだって。さらにまた他局の番組で聞いたんですけど、テレビが出てきた頃のインタビューでは「ラジオはなくなると思う」ってみんな言ってるんですけど、どっこいこれがなくならないんですね。なんかそこに秘密があるような気がして。音声で何かを伝えようとすることは、それがラジオ局からラジオのAM、FM波で流れてなくても、それがラジコであろうが、YouTubeであろうが、僕のなかではラジオというジャンルかなと思います。
“こういうお便りを受け付けてます”という、お便りをもらって読んでいくということ自体は新しいアイデアでもないし、昔からあるラジオの一番基本的なリスナーとの交流の形だと思うんですけど、そのスピードとか広がりとか手軽さとかに関しては相当進化したので、そこを取り入れながら、「本来のラジオってこういう感じなんだよな」みたいのがこの番組で出来たらいいかなと思います。
よくTwitter(現X)が出てきたときに「これって新しい時代のラジオだ」みたいなことを言われたし、いまもそういうSNS系のメディアをラジオに近いと思ってる方もいっぱいいると思うんですけど、僕は、ステーションに集まって、僕もしくは番組というハブがあって跳ね返していくこの感じというのは、実際はTwitterとかSNSにはあまりないのかなと思っていて。同時多発的にバン!って意見をもらって、その人が自分がまた考えてっていうのはあると思うんですけど、いったん伊集院に跳ね返してみようぜっていうのって、なんか僕の思うラジオの大切なところで。ルールなくみんなが話していくことがなんとなくまとまっていくのも、また面白いメディアだと思うんですけども。みんなが「伊集院どう思うんだろう?」とか「伊集院分かってねーな」とか伊集院っていうものに1回ぶつけてくれる感じ。これが僕のなかで手に負えるラジオですね。なんかその絶対的に面白いことって何なの?とか絶対的に正しいことは何なの?みたいなことをみんなの基準でブワ~ってやって、ある意味炎上とかもしながら、そのなんとなくの方向性が決まってくっていうことよりは、「あ、伊集院こんなの面白いと思うんだ」っていう、頼りない基準で申し訳ないけど、その伊集院がアホなことも含めて、その伊集院が分かってないことも含めて、「あいつこんな風に言ってるんだ」っていうのは、いうことの真ん中に居られることの幸せと、プレッシャーっちゃプレッシャーみたいなものを感じているのがラジオですね。
あとやっぱり生放送っていいんですよね。スケジュールとかも考えて、手間も考えていくと、この時間帯にやるのならば録音っていうことだったんですけど、僕はちょいちょい生で来ます(笑)マネージャーとも話し合って、できる限り生放送をやりますって。「伊集院、今日生放送じゃん、得した」って思ってほしいですね。基本は録音番組ですが、うっかりすると生で来ますから。スタッフの方が「え、この日も来るつもり?」みたいな、いいペースで来ますよ(笑)。タイムフリーができたおかげでたくさん聴いてもらえたり、リスナーに負担をかけずに聴いてもらえるのはタイムフリーのすごいいいところなんですけど、やっぱり生放送の、同じ時間を共有する感じが好きなので。洒落のあるスポンサーさんが付いてくれそうで、生放送でやる日だけプレゼントを出してもいいよって言ってくれたりとかしていて。そうするとみんなが「今日どっちかな?」と思いながら聴いてくれたりとか。せっかくだから、時間が合わせられるなら生で聴こうって思ってくれるのもいいことだなって思いますね。
あとやっぱりニッポン放送を1回出て、ほかの局とかも経験したりとか、いまも同時進行で経験したりしていて、他局にはない文化だけどニッポン放送で教わったことで得することが結構あったので、また戻ってくると「あ、ニッポン放送ってこういうことしてたな」とか、あと赤坂でやってるあの感じはこっちに持ってきたほうがいいな、とか、両方経てよかったなとは思いますね。
結構ラジオって違うもので。SSと言うのかジングルと言うのか、とか。細かいことが違うんですよね。
――ヘッドホンとかも違いますもんね。
赤坂ではたぶん僕しかこの片耳のヘッドホンを使ってないですね。(ヘッドホンを持ちながら)このラジオに特化したMT-3っていうヘッドホンはすごく良いですよね。あとトークバックの在り方すら違っていくので。NHKはフロアディレクターがいますし……だから普段は副調を見て、副調のディレクターの指示で喋る癖がついてますけど、NHKではスタジオのなかのディレクターがQを出して喋る、みたいな。あと愛媛みかんって商標なんだ、とか。「愛媛“の”でお願いします」とか言われたりしましたね。
――そんな他局の番組も経験している伊集院さんが感じるニッポン放送の特徴は?
ニッポン放送は新しいものを取り入れるのが早いですね。僕は新しいものを取り入れるのはいいけれど、そこで失うものは何かっていうことを割とと考えるので。せっかくニッポン放送に来たので「それやってみようか?」と思いますけど、そこで振り落としちゃうものが何なんだろうってことは考えたりとかします。
例えば、ネットにすごく積極的だったりすると同時に、僕はネットとハガキをどうやって棲み分けたりとか融合させたりしていこうか、みたいなことは考えますね。わりと慎重です。
あとはほんとに簡単なことなんですよね。「時刻は●時になりました。伊集院光です。」みたいな、基本的なものをわりと崩して崩してこれまでやってきちゃったんで。もう一回、きちんと言っていかなきゃなと思ったり。僕がダメなせいもありますけど、たぶんほかの局よりもそこは、(ニッポン放送は)とてもしっかりしていたりするので。CM明けにもう一回きちんと言う、とか。やっぱりGPS的にこの地点でずっと怒られたことを思い出すので(笑)ここですごい怒られたなーっていう(笑)昔は2時間の生放送を終わって、4時間反省会してましたからね。でも、僕弟子育ちだったこともあり、その時に言われていることとかは、意外とすごいキツイと思ってなかったし、なるほどそうだったなーっていうこととかを思い出します、ここに座ると。あーこういうこと怒られてたなーとか。
――当時はニッポン放送の旧社屋だったと思いますが、旧社屋の想い出はありますか?
旧社屋の思い出だらけです。受付にイワタさんって警備のおじさんがいて、その人に止められなくなったときは「ちょっと売れたな」とか。初めて顔パスで入れて「よかったね」って言われたのも覚えてるし、旧社屋で初めて会った芸能人とか。そこで初めていろんな芸能人に会っていくから。憧れていたTHE BLUE HEARTSに会ったり、仕事がないのにたけしさんのオールナイトニッポンを見に行ってみたりとか。機材倉庫が3階にあったりとか。旧社屋、知ってますか?
――「3ロビ」とかはよく聞くんですけど、実際は分からないですね……
デーモン小暮さんに「初めまして」って挨拶をしたときに「俺は3ロビで世を忍ぶ仮の姿でずーっと君を見ていたよ」って言われたりとか。あと僕は顔が全然売れてなかったから、3ロビで僕の話をしてる人に結構遭遇したりとかありましたね。旧社屋の思い出はいっぱいです、僕のラジオの原点なので。
――最後に、改めてリスナーに向けてメッセージをお願いします。
とにかくたくさんメールテーマを、タネを用意します。「これなら一つあるよ」みたいなことを気軽に送ってもらえると有難いです。それでキャッチボールが出来たり、面白いと思ってくれる人が出来たときに、いい森になる感じがしています。
■番組タイトル:ニッポン放送『伊集院光のタネ』
■放送日時:2023年10月3日(火)スタート 毎週火曜日~金曜日 17時30分~18時 ※2024年3月までの、半年限定での放送となります
■パーソナリティ:伊集院光
■番組メールアドレス:ij@1242.com
■番組ハッシュタグ:#伊集院光のタネ
■番組HP:https://www.1242.com/ij/
番組情報
伊集院光が『伊集院光のOh!デカナイト』以来、28年ぶりにニッポン放送の帯番組を担当!
火曜日~金曜日の夕方、リスナーからのメッセージを次々と紹介していく新番組『伊集院光のタネ』がスタート。
番組で募集したメールテーマがリスナーの皆さんから寄せられたメッセージによって、話題が樹木のように伸びていくような番組を目指します。