歌人・上坂あゆ美 短歌をつくることで「故郷や生い立ちの呪縛」から解かれた

By -  公開:  更新:

黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(10月6日放送)に歌人・エッセイストの上坂あゆ美が出演。第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』について語った。

歌人・上坂あゆ美 短歌をつくることで「故郷や生い立ちの呪縛」から解かれた

※画像はイメージです

黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。10月2日(月)~10月6日(金)のゲストは歌人・エッセイストの上坂あゆ美。5日目は、上坂あゆ美の歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』からありのままの自分を認めるということについて---

黒木)今回も、歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』から一首、読んでください。

上坂)「『明日暇?フラミンゴ見たい』一行で世界の色を変えてゆくなよ」。

黒木)これは動物園に行ったわけではないのでしょう?

上坂)そうですね。

黒木)フラミンゴが見えたのでしょう?

上坂)これは「フラミンゴが見たいんだけど」っていう連絡がLINEで来たときに、そのたった一行で世界の色が「ブワッ」と変わってしまったという体験の歌ですね。

黒木)そういうことを読者が想像すると、深みが出てきますね。

上坂)ありがとうございます。

黒木)「10代の辛かったご自分を成仏させたい」という思いを表現されているということなのですけれども、読み終わったときに、自虐的になりながらも「呪縛から解き放たれたのだな」という感じを受けました。

上坂)この本をつくる過程で解けたのかなという感覚はあります。最初の方の歌と最後の方の歌は全然違いますよね。

歌人・上坂あゆ美 短歌をつくることで「故郷や生い立ちの呪縛」から解かれた

第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』

黒木)子どものころは好きではなかった地元の沼津市が、自分が大人になったら「あら、こんなだったんだ」というような、そういう風景の歌もたくさんありますけれども。

上坂)逆に私、黒木さんにお伺いしてみたかったのが、お名前に出身地を背負っていらっしゃるではないですか。名前を付けるときや活動していくなかで葛藤はなかったのですか?

黒木)私の場合は名前を付けていただいたので。

上坂)そうなのですね。

黒木)ですので、「いただきました」という感じなのです。でも、私も子どものころは田舎に住んでいたので、地元が好きではありませんでした。

上坂)あ、そうなのですか。

黒木)「早く東京に行きたい、田舎から飛び出したい」と思っていました。

上坂)では、こちら側の人間だったのですね。ありがとうございます。

黒木)でも大人になってくると、「故郷が自分を支えてくれていると思える」というような、上坂さんと同じ体験をしています。

上坂)いつごろ、そう思いましたか?

黒木)まず宝塚に行ったときにホームシックになったのです。帰りたかったですね。

上坂)なるほど。

黒木)その後、東京に出てきたのですが、それからは、「このままでは故郷には帰れないな」と思うようになりました。その一歩一歩が最終的には支えてくれていたということに気付いたのだと思います。それは仕事をするようになってからですね。

上坂)感覚としては、とても近いと思います。私も地元や自分の生い立ちを認める過程は、「一歩一歩だった」という感覚があります。「自分に自信がなかったんだな」と思ったことがあったのですね。

黒木)自信がなかった。

上坂)仕事なり表現なり生き方なりで、だんだん自分を認められるようになったときに、初めて「地元に助けられていたな、家族に助けられていたな」と思えるようになりました。歌をつくりながら、その過程を感じました。

黒木)歌集を読んで、上坂さんの人生の軌跡が見えたような気がします。でも結局は、魂が「たくましい方向に向かっているのではないか」と、読み終えたときに「ニタッ」としてしまいました。

上坂)嬉しいです。

黒木)「うわ、何だこれ、すごい」とか言いながら『老人ホームで死ぬほどモテたい』を読みましたが、つらい思いをご自分の言葉で書いていらして、それが文学になっています。読んでいる側も勇気付けられたので、ぜひ皆さんにも体感して欲しいなと切に思います。

上坂)自分の作品は、自分みたいに悩んでいる子や地元でモヤモヤしている若い子、もしくはそういう気持ちを持っているすべての人に届けたいなと思っていたので、黒木さんに汲み取っていただいて嬉しいです。

上坂あゆ美/ 歌人・エッセイスト

上坂あゆ美/ 歌人・エッセイスト

上坂あゆ美(うえさか・あゆみ)/ 歌人・エッセイスト

■1991年、静岡県沼津市生まれ。
■東京の美術大学へ進学し、その後、会社員として働き始める。
■2017年から短歌をつくりはじめ、新聞歌壇などにも投稿。
■2022年に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』を発表。家族や地元への葛藤など、自身のそれまでの辛さを成仏させるかのような作品群と、ユーモアでありながら、心をえぐられるような言葉選びで大きな話題を集めた。
■現在は歌人としてだけでなく、エッセイストなど幅広く活動。

番組情報

黒木瞳のあさナビ

毎週月曜〜金曜 6:41 - 6:47

番組HP

毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳

Page top