話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、ラグビー日本代表が新たに目指すスタイルと、その体現者として注目を集める南アフリカ代表、チェスリン・コルビ選手にまつわるエピソードを紹介する。
年が明け、1月1日(2024年)付で正式にラグビー日本代表ヘッドコーチ(HC)に就任したエディー・ジョーンズがいきなり精力的だ。
花園ラグビー場で高校ラグビーを観戦したかと思えば、国立競技場で行われた大学選手権準決勝ではゲスト解説を担当。そして、リーグワン新年最初のカードとなった6日には秩父宮ラグビー場で東京サントリーサンゴリアス対コベルコ神戸スティーラーズの試合を観戦。翌7日には等々力陸上競技場で行われた東芝ブレイブルーパス東京対クボタスピアーズ船橋・東京ベイの一戦を熱心にチェックしていた。
エディー・ジョーンズといえば、前回ヘッドコーチを務めた際には「ジャパン・ウェイ」というコンセプトを提唱するなど、メディアもファンも食い付きやすいキーワードを提示してくれる人物でもある。
2023年12月14日に行われた就任会見において、エディー・ジョーンズが掲げた日本ラグビーが目指す新コンセプトは「超速ラグビー」。体格差で劣ることが明確な海外勢との戦いにおいて、相手より速く走るのはもちろんのこと、速く考えて速く決断する。考え方や頭の回転も速くして戦っていくことを目指すと宣言していた。
その「超速ラグビー」の体現者であり、日本人プレーヤーが“目指すべき”と名指しした選手がいる。6日の試合でリーグワン初トライを決めた東京サントリーサンゴリアス所属のチェスリン・コルビ。南アフリカ代表としてW杯連覇に貢献した世界的なウィングではあるものの、公称身長は172センチ。その小さな体で爆発的なスピードを誇ることから「ポケット・ロケット」の異名で呼ばれている選手だ。
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「日本ラグビーが目指すべき可能性を示す選手として際立っているのはコルビです。彼は76kgしかないが雄牛のように強く、チーターのように速く、忍者のように機転のきく戦い方ができます。素晴らしいお手本です。彼のようになれる選手を見つけ、育てたい。大学やリーグワンにいるはずです」
~2023年12月14日 エディー・ジョーンズHC就任会見より
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コルビの魅力、そして日本人選手に見倣って欲しい点について、こう言及したエディーHC。では、コルビ自身はどのようにして現在のプレースタイルを掴んだのだろうか。今季開幕前に行われたサンゴリアスへの入団会見、そして練習後のインタビューでその一端を明かしてくれた。
いまでこそ世界的名選手の地位を確立しているコルビではあるが、彼も少年時代にはサイズの小ささについて悩むことがあったという。
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「10歳、11歳くらいから『身長が足りない』『体重が足りない』というのは言われてきて、その言葉に抗うチャレンジは自分のなかではずっとありました。そこで私が心がけてきたのは、ハードワークが全てだ、ということ。犠牲を払わなければならない、ギブアップしない、信じることをやめない。
過去には、コーチ陣、プレーヤー陣からも信じてもらえないこともありました。サイズがないことへの猜疑心もあったと思います。自分としては、その疑念を逆にひっくり返したいと、ハードワークをする糧に変えてきました。それに、毎週サイズのある選手と対戦することになるので、メンタル・フィジカル両面でスタンダードを上げることができた、とポジティブに考えています」
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その言葉を証明するように、1月6日の試合で決めたリーグワン初トライは、相手陣地でのこぼれ球を「まさかそこから追いつくの!?」という自陣から諦めずに走って追いかけ、掴み取って決めたもの。まさに「ハードワーク」と「ネバーギブアップ」が生んだトライだった。
そんな自身のプレーを通して、自分と同じようにサイズに悩む若い選手たちに、「身長がすべてではない」という部分を訴求していきたいという。
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エディー・ジョーンズは「超速ラグビー」の象徴としてチェスリン・コルビの名前を出したわけだが、むしろ学ぶべきは、彼の「ハードワーク」と「ネバーギブアップ」の精神なのではないだろうか。
今季の東京サンゴリアスの試合は、コルビ効果もあってか、連日スタジアムが大入りだ。彼の爆走っぷりは、ラグビーに詳しくなくてもわかりやすく、カタルシスがある。日本ラグビーが目指すべき姿として一見の価値アリ。ラグビーファン以外からも、もっともっと注目を集めてしかるべき選手である。