話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は2年目のシーズンを終えたラグビーリーグワンの「若い希望」にまつわるエピソードを紹介する。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイの初優勝で幕を閉じた2年目のラグビー・リーグワン。そのシーズン表彰式「NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 アワード」が5月22日、都内で開催された。
トップカテゴリー「ディビジョン1」のベストフィフティーンやMVPをはじめ各個人賞が発表され、日本代表の稲垣啓太(埼玉パナソニックワイルドナイツ:プロップ)がトップリーグ時代を含めて9季連続9回目のベストフィフティーン選出の偉業を達成。その一方で、新人にあたる23歳の長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ:センター)と24歳の木田晴斗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ:ウイング)がともにベストフィフティーンに初選出。新人王争いでは僅差の得票差で長田智希が選出されるなど、若手の躍進も目立つ授賞式となった。
そんな「若手の躍進」という意味でもう1人、押さえておかなければならない人物がいる。早稲田大学の現役学生(4年生)、21歳の古瀬健樹(ふるせ・かつき)レフェリーが最優秀審判にあたる「ベストホイッスル賞」を受賞したことだ。
表彰式でこう挨拶した古瀬レフェリーが審判を志したのは東福岡高校在籍時。早稲田大学に進学後、史上最年少となる19歳で、日本協会主催試合のすべてを担当できる「A級公認レフェリー」に合格。リーグワンでは初年度から笛を吹き、2年目の今季、早くも「ベストホイッスル賞」の受賞に至った。
ラグビーの審判は、試合で笛を吹いてそれで終わり、ではない。試合後には各選手たちともコミュニケーションを重ね、そのフィードバックを次に笛を吹く際に生かす……その繰り返しで成長を重ねてきたという。
実際に、古瀬レフェリーの「コミュニケーション」について評価した世界的名選手がいる。2019年W杯で南アフリカ代表を優勝に導いたスクラムハーフで、今回のアワードでもベストフィフティーンに選ばれた横浜キヤノンイーグルスのファフ・デクラークだ。今季第3節、東京サントリーサンゴリアスとの一戦で主審を務めた古瀬レフェリーについて、試合後にこう評していた。
審判といえば、プレーオフ準決勝ではTMO(ビデオ判定)が第1戦で5回、第2戦で6回とそれぞれ多かったことも話題となった。この点について審判目線でどう思うのかを尋ねると、「確かに回数は多かった。ただ、回数が多いから悪いのではなく、正しい判断を目指した結果だと思います」と言及した古瀬レフェリー。その上で、今後に向けての改善点として、やはり“コミュニケーションの重要性”を説いてくれた。
また、今季の審判トピックスといえば、国内トップゲームで通算100試合以上のレフリングを担当し、日本人初のスーパーラグビー主審を務めた実績を持つ第一人者、久保修平レフェリーが先日の3位決定戦での笛をもって「審判引退」の節目を迎えた。この点はどう捉えているのか?
そのレベルアップの先に見据えるのは、ラグビーW杯で主審を務めること。ラグビー界はこれから9月開幕のW杯に向けてますます盛り上がりを見せるが、その大舞台を目指すのは選手だけではないのだ。
「2年目を終えて、間違いなくレベルが向上している」と関係者が口を揃えるリーグワン。その“レベル向上”に合わせてレフェリーも切磋琢磨していること、国際レベルの高みを目指す若手がいることが実に頼もしい。