話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回はラグビー・リーグワンレギュラーシーズンを1位通過した埼玉パナソニックワイルドナイツと、プレーオフに挑むトップ4にまつわるエピソードを紹介する。
2年目のラグビーリーグワン、16節に及んだレギュラーシーズンが終わった。改めて存在感を見せたのは昨季(2022年)王者の埼玉パナソニックワイルドナイツ。1位で5月に行われるプレーオフトーナメント進出を決め、リーグ連覇を目指す。
今季の埼玉ワイルドナイツは、第15節で静岡ブルーレヴズに25対44で敗れ、昨季から続いていたリーグワンでの連勝記録が「30」でストップ。旧トップリーグ時代から数えれば2018年12月以来となる敗戦で、公式戦での無敗記録が「47」でストップしたことがニュースになったほど、今季も安定感ある戦いを見せた。
彼らの強さの根源はどこにあるのか?
1つの要因としてはもちろん、戦力の充実。「笑わない男」として前回W杯で話題を集めた稲垣啓太、「日本代表キャプテン」坂手淳史、圧倒的な存在感の「ラスボス」堀江翔太、ケガから復帰した「司令塔」松田力也、リーグワン初の「フルハウス」達成者の山沢拓也……。さらには南アフリカ代表のダミアン・デアレンデなど強豪国の代表経験者も多い。
ただ、トライ数をはじめとした各種個人ランキングにおいて、埼玉ワイルドナイツからリーグ1位の選手は出ていない。圧倒的な「個」の力に頼りすぎるのではなく、「チーム全体での意思統一、意識の高さ」こそが強さの要因であることが見えてくる。
その「意思統一、意識の高さ」について選手に話を聞くと、何度も出てくる考え方がある。揺るぎない「土台」をベースに「その上にいかに積みあげるか」という視点だ。
哲学者のような冷静な言説でも知られる稲垣は、今季第11節の宿敵・東京サンゴリアス戦後、チームの強さの要因についてこんな言葉を述べていた。
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この土台があるからこそ、苦しい試合展開になっても立ち返ることができるという。
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同じ考えを持っているはず、と言われた堀江も、サンゴリアス戦後にこんな言葉を残している。
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キャプテンの坂手も、積み上げてきたチームの価値について、プレーオフに向けての記者会見でこう語った。
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もちろん、埼玉ワイルドナイツがこのまま連覇を果たすとは限らない。埼玉を倒そうと、リーグワン全体のレベルもまた上がっているからだ。
準決勝で対峙する4位の横浜キヤノンイーグルスは、世界的スクラムハーフ、南アフリカ代表のファフ・デクラークのもと、何を仕掛けてくるかわからない怖さがある。
実際、今季リーグ戦での対戦(第6節)では埼玉に敗れはしたものの、19対21と王者撃破まであと一歩。この試合でもトリックプレーからのトライでファンの度肝を抜いた。プレーオフに向けた記者会見でも、デクラークは攻撃オプションの数について「たくさんあるよ」と、大胆不敵な笑みを浮かべていた。
準決勝のもうひと試合。昨季4位から2位へとジャンプアップしたクボタスピアーズ・東京ベイは勢いそのままに頂点獲得を目指す。
そのクボタと対戦するのは、今季3位の東京サントリーサンゴリアス。昨季、一昨季とプレーオフ決勝でどちらも埼玉ワイルドナイツに敗れた、もっとも「打倒・埼玉」に燃えるチームだ。
5月のプレーオフが終われば、日本ラグビーは9月開幕のW杯へ向け、一気に代表モードへ。つまり、このプレーオフが代表入りをかけた最後のアピールチャンスになる。
「日本ラグビーの世界への飛躍」を掲げて誕生したリーグワン。その世界への道標として、5月開催のプレーオフが楽しみでならない。