台湾総統選「安全保障よりも経済」 現地取材でわかった「有権者の意外なポイント」

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地政学・戦略学者の奥山真司が1月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。民進党・頼清徳氏が当選した台湾総統選について解説した。

民主進歩党本部の近くに集まり、台湾総統選の開票の行方を見守る同党の支持者ら=2024年1月13日午後、台北(松本健吾撮影) 写真提供:産経新聞社

民主進歩党本部の近くに集まり、台湾総統選の開票の行方を見守る同党の支持者ら=2024年1月13日午後、台北(松本健吾撮影) 写真提供:産経新聞社

中国が台湾周辺で総統選以降初の大規模な軍事行動

台湾の国防部は1月17日夜、18機の中国空軍機が台湾周辺を飛行し、中国の軍艦と「共同戦闘準備哨戒」を行っているのを確認したと発表した。13日に実施された台湾総統選以降、初めての大規模軍事活動としている。

安全保障よりも経済にポイントを置いている

飯田)総統選の際、奥山さんとは台北でお会いし、日本語の堪能な台湾の方をご紹介いただきました。

奥山)私も現地で取材していました。日本から見ると、今回の選挙は「中国との関係」にフォーカスされがちですが、現地の人に話を聞くと、「とにかく経済だ」と言います。

飯田)そうですね。街頭インタビューをして驚きました。「何にポイントを置いて投票しましたか?」と聞くと、「経済です」と皆さんおっしゃるのです。

奥山)安全保障はもちろん大事なのですが、そこは大前提の部分であり、インフレに対して給料が上がっていないところが問題とされています。

民進党にかつての勢いはなく、総統選はギリギリで勝利 ~立法院は過半数を維持できず

奥山)現地に行って思ったのですが、民進党自体が既にエスタブリッシュメントというか、既存のエリートのような状態になっていて、かつての「中国に対抗する新しい政党になろう」というような勢いはありませんでした。総統選は「辛勝」という形で、「ギリギリで勝った」という印象でした。

飯田)4年前は蔡英文さんが約800万票を獲りましたが、今回は約558万票でした。

奥山)議席も、日本の国会にあたる立法院では、62議席から51議席に減らしています。

飯田)第1党は国民党の52議席です。

奥山)野党の方が多く、ねじれになってしまったところが「内向きだな」と感じます。

民進党、国民党、民衆党、それぞれの違い

奥山)3陣営すべて見ましたが、最もお年寄りが多いのが野党・国民党で、ものすごく組織立っている。民進党は少しばらけていました。今回、大躍進した野党の第3党にあたる柯文哲さん率いる民衆党は、若者しかいなかった。踊りや人形を使っていましたが、世代の差を感じました。

飯田)民衆党(支持者)は家族で来ていても、お子さんがとても小さかったですね。

奥山)国民党へは最後に行きましたが、目立っていたのが椅子です。

飯田)プラスチックの。

奥山)高齢者の方が多いので、椅子が並べられているのです。しかも、国民党のイベントは分刻みで決まっており、秩序立っていました。地方から婦人団体や農業団体のような形で来るのです。「陸軍40期の同期会」というような団体もありました。こういった世代の差は現地で取材しないとわからないですね。

飯田)旗を持って、「こっちですよ」と先導していましたね。

奥山)国民党としては、スケジュールをきちんと守らなくてはいけない。

飯田)飽きさせてはいけないというような。

奥山)そういう意味で、国民党は秩序が大事なのだなと思いました。カラーが出ていましたね。

若い候補者を出し、若返りを図る国民党

飯田)台湾総統選の同日に行われた立法院選挙ですが、現地のテレビで立法院選挙の候補者や当選者の顔ぶれを見ると、「若い人もいるな」という印象でした。

奥山)既に世代交代が起こっていると感じました。民進党は8年前だと、主に30~40代の若い人たちが当選していました。当然、その方々は8年間政権を運営しているうちに歳を取ります。当時30代だった方が40代に入っている。一方、20代の支持者を集めた民衆党は、若い人たちも候補者に入っているのです。しかし、それよりも驚いたのが国民党です。国民党の支持層は高齢者が多く、「年寄りだから未来がない」と思われがちだったのですが、候補者が若返りを図っていたのです。

飯田)現職がいない分、若い人を出しやすかったのでしょうか?

奥山)もしくは、「与党は実は年寄りだ」と印象付けるためかどうかはわかりませんが、あえて若い候補者を当ててきたのかも知れません。我々が泊まったところの選挙区は台北市の第7選挙区でしたが、それまで69歳の方がずっと議員だったのです。しかし今回、世代交代で34歳の若いママになった。

飯田)若返りを図ったのですね。

奥山)「国民党は年寄りだ」という印象を持たれがちなのですが、実際は若い方を候補者として出し、「若返りを図ろう」という意識が強いのだと候補者の顔ぶれを見て思いました。民進党自身は、既にエスタブリッシュメントになってしまい、その下に、上の世代だった国民党が入ってきた。40代の民進党があり、30代を国民党が占めて、その下の20代を民衆党が取り込むというような形ができているのです。「世代交代が進んでいて健全だな」と思うのと同時に、国民党からはそれなりの危機感を持って「与党である民進党に対抗していこう」という姿勢が見えました。

中国の影響力工作

飯田)日本だと、国民党は「中国寄り」などと言われますが、(中国の)影響力工作などはあるのでしょうか?

奥山)国民党の集会に出たあと、4人ぐらいでタクシーに乗って帰ったのですが、私が助手席に座ったのです。運転手はもちろん現地の方で、60代ぐらいの国民党支持者と思われる人でした。そのとき、私はたまたま国民党の旗を持っていたのです。

飯田)集会の終わりだからですね。

奥山)「国民党の集会に行ってきたのか」と言われました。あとでうしろに座っていた人に翻訳してもらったのですが、どうも中国側が仕掛けたYouTubeなどを観て陰謀論にハマったらしく、中国側の見解をしきりに言ってくるのです。

飯田)奥山さんに対して。

奥山)「お前は日本人だろう。日本政府は民進党を陰で操っているのだ。その背後にはアメリカがいて、CIAがいる」などとしきりに言っていました。日本人は沖縄を見捨てているとか、沖縄の方々のことを「沖縄人」と呼び、「沖縄人は中国に帰りたいと言っている。アメリカは絶対に台湾を見捨てるぞ」などと言うのです。彼はその論拠として、「俺は台湾の政治を30年間ウォッチしているからすべて知っているのだ」と、YouTubeの怪しい人が喋っている動画を出していました。

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