外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が1月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。台湾・馬英九前総統の発言について解説した。
「習近平氏を信用すべき」台湾・馬英九前総統の発言が物議
台湾総統選は1月13日に投開票となるが、国民党の馬英九前総統がドイツメディアの取材に対して「習近平氏を信用するべき」と発言したことを受け、同じ国民党で総統選挙に立候補している侯友宜氏が「私とは考え方が違う」と立場の違いを強調した。
飯田)爆弾発言だったようです。
「国民党は親中、民進党は親米」ではない
宮家)大失敗の発言です。台湾に関する報道では、なぜか「国民党は親中、民進党は親米」とされがちですが、実態は必ずしもそうではないと思います。ワシントンには国民党のオフィスがありますし、一生懸命対米関係を改善しようとしています。そもそも問題は、「台湾の人たちが何を考えているか」ですよ。中国が今回のように失敗すればするほど、ますます中国との距離は開いてしまう。そして、「中国人」ではあるかも知れないけれど、台湾で生まれ、自分を「台湾人」だと思っている人たちが今や大多数になっているわけです。
飯田)世論調査を見ても明らかです。
宮家)その意味では、国民党だから親中というよりも、馬英九さんが親中だと考えた方がいいと思います。
1996年、前回に続き、台湾総統選に悪影響を与えた中国
宮家)過去に大失敗した例で言うと、例えば1996年には、最初の総統民選で李登輝氏が出馬した際、中国が台湾海峡でミサイルを撃ちました。それで李登輝さんは勝ったわけです。また前回の場合は、蔡英文さんの評判が悪かったけれど、香港での「逃亡犯条例」改正案によって……。
飯田)台湾でも警戒感が高まった。
宮家)あれで彼女が勝ったわけです。今回、中国は相当慎重になっていると思います。あまり派手な動きはせず、フェイクニュースを流したり、台湾には非軍事的手段でいろいろ揺さぶりをかけたけれど、馬英九さんの発言で大失敗してしまった。中国はもう少しやり方を考えた方がいいと思います。
馬英九氏の発言で台湾の人々は「やはり国民党はそういう党だ」と思ってしまう
飯田)馬英九氏からすると、「俺はシンガポールで習近平氏とも会って話したのだ」という思いがあったのでしょうか?
宮家)「だから何なのか」と思います。馬さんは「台湾統一を進めているとは考えていない」と言っていますが、共産党は台湾を統一すると言っていますよ。
飯田)新年の演説でも言及していました。
宮家)今回の発言で、少なくとも国民党候補である侯友宜さんの大逆転は難しくなったと思います。「やはり国民党はこういう連中だ」と言われてしまうのではないでしょうか。
中国共産党が統一する「一つ」と国民党が統一する「一つ」は、同じ「一つの中国」でも同床異夢
宮家)どちらにせよ、中国との関係は簡単ではないし、国民党も中国の一部になりたいなどとは思っていないわけです。「一つの中国」と言っているけれど、共産党が統一する「一つ」と、国民党が統一する「一つ」は、同じ「一つの中国」という言葉でも実態は正反対、同床異夢なわけです。その意味では、どちらが勝っても台湾にあまり大きな変化があるとは思っていません。中国は「いつか武力統一するのではないか」という議論がありますが、どうですかね。中国はロケット軍の汚職疑惑で大規模な粛清があったではないですか。
飯田)そうですよね。
宮家)燃料の代わりに水をミサイルに注入していたと言われていますが、それでは飛びませんよね。中国には「よい鉄は釘にならず、よい人は兵隊にならない」という言葉があるそうです。日清戦争の時代からずっとそうです。その意味では、軍にはやはり精鋭はいきません。または、あれだけ予算が大きいと、つい不正をやってしまうのかも知れません。
飯田)昔から文民というか、そういう国ですよね。科挙でもって、という。
宮家)軍人が信用できないから戦わずして勝つ。孫子の兵法ができたのは、軍人を信用していないからだと私は思っています。(汚職などで)大騒ぎしているようでは、少なくとも当面は「とても武力攻撃などできないのではないか」という見通しの方が強い気がします。
飯田)むしろ影響力工作の方が得意なはずなのに。
宮家)得意なはずですが、馬英九さんが失策してしまった。
飯田)転んでしまったということですね。
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